MOTHER

Disc.One
No タイトル 作詞 作曲 編曲 備考
1 ハートせつなく 桑田佳祐 桑田佳祐 小林武史&桑田佳祐 10thシングル 最高16位 売上11.5万枚
2 東京ラブコール 桑田佳祐 桑田佳祐 小林武史&桑田佳祐  
3 少女時代 原由子 原由子 小林武史&桑田佳祐 12thシングル『負けるな女の子!』C/W(カット) 斉藤由貴へ提供 セルフカバー
4 星のハーモニー 原由子 原由子 小林武史 8th、9thシングルC/W
5 じんじん 桑田佳祐 桑田佳祐 小林武史&桑田佳祐 12thシングル 最高24位 売上14.2万枚
6 使い古された諺を信じて 桑田佳祐 小林武史 小林武史 12thシングルC/W
7 Good Luck,Lovers! 原由子 原由子 小林武史&桑田佳祐  
8 かいじゅうのうた 原由子 原由子 矢口博康 8thシングル 最高90位 売上0.3万枚
9 UFO(僕らの銀河系) 阿久悠 都倉俊一 小林武史&桑田佳祐 ピンク・レディー「UFO」の歌詞追加カバー
10 花咲く旅路 桑田佳祐 桑田佳祐 小林武史&桑田佳祐  

補作詞:桑田佳祐,Jadranka(9)

Disc.Two
No タイトル 作詞 作曲 編曲 備考
1 お涙ちょうだい 森雪之丞 原由子 小林武史  
2 イロイロのパー 桑田佳祐 桑田佳祐 小林武史&桑田佳祐  
3 あじさいのうた 原由子 原由子 桑田佳祐&藤井丈司 6thシングル 最高22位 売上4.8万枚
4 夜空を見上げれば 原由子 原由子&小倉博和 原由子,小倉博和,
小林武史,桑田佳祐
 
5 Anneの街 原由子 原由子 小林武史 11thシングルC/W
6 終幕(フィナーレ) 原由子 原由子 小林武史  
7 春待ちロマン 原由子 原由子 矢口博康&門倉聡 7thシングル『ガール(GIRL)』C/W
8 ためいきのベルが鳴るとき 桑田佳祐 桑田佳祐 小林武史 9thシングル 最高35位 売上2.2万枚
9 キューピーはきっと来る 原由子 原由子 小林武史  
10 想い出のリボン 桑田佳祐 桑田佳祐 小林武史&桑田佳祐  

Strings Arranged by 中西俊博(4)
Strings & Horn Arranged by 中西俊博(6)

リリースデータ

1991年6月1日
1998年2月25日(再発)
初登場4位
-
売上70.0万枚
-
Produced by 桑田佳祐&小林武史
Photographer:桑田佳祐
ビクター

原由子3rdアルバム。前作から7年7ヵ月ぶり。前作以降リリースが無いままに85年のサザンオールスターズ『KAMAKURA』制作中に産休に突入。サザン休止中の87年にシングル「あじさいのうた」をリリースして産休から復帰、ソロ活動から音楽活動を再開した。88年にはサザンの活動も再開されたがソロでも並行してシングルをリリースしていた。1990年は単独ソロでの新曲は無く、サザンオールスターズ&オールスターズ名義の『稲村ジェーン』から「愛して愛して愛しちゃったのよ」を原由子&稲村オーケストラ名義でシングルカットしたのみ。今作には前作以降(87年以降)のシングルのうちC/W含めて9曲を収録。6thC/W「Tonight's the night」、7th「ガール(GIRL)」の2曲が未収録となった。また11月にリリースされた12th『負けるな女の子!』C/Wとして「少女時代」がシングルカットされた。『負けるな女の子!』を最後に97年まで新作リリースが途絶え、今作を最後にオリジナルアルバムは制作されなかった。「ガール(GIRL)」はベスト盤『Loving You』でアルバム初収録を果たしたが、「Tonight's the night」と次のシングル「負けるな女の子!」はアルバム未収録のままとなっている(ベスト盤『Loving You』『ハラッド』共に選曲されなかった)。

「少女時代」は88年に斉藤由貴へ提供した曲のセルフカバー。「UFO(僕らの銀河系)」はピンク・レディー「UFO」に桑田佳祐と間奏でラップ(クレジットではVoice)を担当したJadrankaが歌詞を追加して改題・改作してのカバーとなっている。また「星のハーモニー」は8th、9thシングルC/Wとなっているが、8th、9thシングルは2ヵ月連続で発売されC/Wを使い回すという変則的なリリースだった。

2枚組オリジナルアルバムとして発売され、収録シングルでの大きなヒットも無かったが、今作は4位を記録して、ソロでのダントツ最大のヒット作となった。また今作を最後にオリジナルアルバムが制作されなくなり、現在も今作が最新オリジナルアルバムとなっている。ソロ活動も11月のシングル『負けるな女の子!』を最後に滞ってしまい、以降シングルは97年、08年のみ(ハラフウミとして07年)、アルバムも98、08年のベスト盤、02年のカバーアルバムのみとなっている。

98年には1st,2ndと一緒に再発された。リマスターはされていない。91年盤は分厚いケース(旧盤の『バラッド』2作と同じタイプ)だったが、98年盤ではDUOケースになり若干スリム化されている(『バラッド』2作は98年盤では10mmサイズで1枚モノと同じ厚さのケースに縮小されたが今作の場合はブックレットが厚いのでこれ以上縮小できなかったためと思われる)。今回入手したのは98年盤。

今作は前2作のように制作時期がある程度固まっておらず87年からリリースし続けていたシングルをまとめているため、途中で制作陣が新たに加わったり、逆に関わらなくなったりと変化が生じている。88年の桑田佳祐ソロ1stアルバム『Keisuke Kuwata』に参加した小林武史が今作では桑田佳祐と共にプロデュースを担当。またPhotographerとして桑田佳祐が単独クレジットされており、ジャケット写真とブックレット内の原由子の写真(ほぼジャケ写の別テイク)は全て桑田佳祐が撮影した写真となっている。

小林武史が大半のアレンジも担当しているが、小林武史が関与する以前のシングル曲も含まれているため参加していない楽曲もある。またComputer Operationを担当していた藤井丈司は『Keisuke Kuwata』以前の休止前のサザンにも関与していたが今作に向けてはComputer Operationが角谷仁宣に変わったため、参加楽曲は先に出ていたシングルの一部までとなっている(また角谷・藤井以外が担当した曲も一部ある)。サザンメンバーの参加は桑田佳祐以外はドラムの松田弘が「かいじゅうのうた」「あじさいのうた」「ためいきのベルが鳴るとき」「キューピーはきっと来る」の4曲に参加している。

今作用に新たに制作された楽曲には主に小林武史、角谷仁宣を筆頭にドラマーの小田原豊(REBECCAが休止の末に解散した直後だったがREBECCAのサポートパーカッションだった中島オバヲとREBECCAドラマーの小田原豊が早速「使い古された諺を信じて」で共演したというトピックも)、ギタリストとして小倉博和、佐橋佳幸、ベースで根岸孝旨が参加している。いずれも後に繋がる参加となっており、今作で出会った小倉博和、佐橋佳幸は意気投合して2人で山弦を結成、翌年からは槇原敬之のサポートメンバーとして2人揃って長く参加し続ける事となった。また小倉博和は以降のサザン、ソロでもサポート参加し、桑田ソロ2nd『孤独の太陽』では特に深く関わった。佐橋佳幸も小倉博和ほどではないが桑田ソロに関与した。小田原豊も桑田ソロでも引き続き起用され、桑田ソロ3rd『ROCK AND ROLL HERO』でのTHE BALDING COMPANYのメンバーの1人にもなっている。根岸孝旨も後のサザンベース関口休養時にはサポートベーシストしてサザンでベースを担当した。

サザン休止前のサポートメンバー、そして88年の桑田ソロ含めて90年代以降現在まで深く関わるサポートメンバーとの出会いの場でもあったというけっこうサザン・桑田ソロのサポートメンバーの歴史においても重要な位置づけになっている1作だと思う。逆に今作では原由子ソロ1stでいち早く関わっていた斎藤誠が不参加だったりもする(山弦の2人がメインでギター担当してるためか)。

 

ソロ作品で現在1番有名な代表曲に成長したんじゃないかと思われる「花咲く旅路」が収録されているのが今作となる。なかなかきっかけになるようなヒットシングルはソロでは出ていないのでソロのオリジナルアルバムまで遡って聞こうというリスナーも年々減っている気がするが、遅ればせながら今作を聞いて、何でもっと早く聞かなかったのかと後悔した。これもしかしなくても『Loving You』や『ハラッド』以上にベストでマストな1作だったのでは…。

今作最大の功労者は小林武史であり、『Keisuke Kuwata』に続けて当時天才としか言いようが無かったポップス職人としての才能が炸裂しまくった多彩なポップスに彩られた名盤。20曲あるが、アプローチは実に多彩で飽きさせず、それでいて聞きやすいポップスとしての統一感も不思議とある。さらには1曲1曲も概ね4分台にまとまっていて大作感は薄く、それほど長くも感じない(実際1枚当たり43分程度)。小林武史としても今作で女性ボーカルによるポップスのプロデュースを本格的に経験した事が、後のMY LITTLE LOVERへ繋がっていっているのかもしれないと思った。

またプロデューサーだけでなく素材であり主人公である原由子もとなり、子育てを経験する中で得た新たな着想や、産休により一時音楽を離れ、その後も育児が続き時間が限られる中で改めて音楽への情熱を感じたのか、サザン含めた全活動期間の中でも最も多作。楽曲ごとに異なるボーカルスタイルを見せながらもこの声が乗っかる事で全てが中和されるという独特の魅力も磨きがかかっていると思う。「イロイロのパー」はいくら妻といえど現代だとセクハラだなんだと過剰に叩かれそうであり、当時だからできた過激さかなとも思うが…いやしかし桑田さんやりがやったなぁこの曲は…。

『MOTHER』というタイトルは単に母親になったというだけではない、母なる大地母性本能という言葉があるように、もっと大きな意味合いだったり、安らげる存在としての象徴としての言葉だったりすると思うんだけど、そういった大きな意味合いでもってしても『MOTHER』にふさわしいと思える、そんな存在感が今作での原由子にはあると思う。間違いなくソロでのキャリアの頂点であり、最高傑作

これは是非とも竹内まりやよりもっとのんびりでもいいので継続したソロ活動を展開してほしかったが…今作と恐らく同時期制作の「負けるな女の子!」以降はめっきりソロ活動しなくなってしまった。たまに新曲が出ても桑田佳祐によるもので、自身による作詞作曲楽曲に関してはサザンでのソロ含めても今作を最後に数えるほどしか発表されていない。11月の「負けるな女の子!」以外ではシングルの表題曲として世に出た原由子の作詞作曲楽曲としては97年に広末涼子へ提供した「風のプリズム」くらいだろうか(07年のハラフウミで風味堂の渡和久との共作はある)。今作で全てを出し切ってやり切ってしまい、これ以上ソロとして表現したい欲は無くなってしまったという事なのだろうか。惜しい。

MOTHER   MOTHER  

印象度★★★★★

2018.11.16更新

戻る