それでもボクはやってない

痴漢冤罪事件から日本の裁判の問題点を描いた衝撃作。監督は取材に3年をかけたという。主人公の人は誰?って感じだし、それ以外も名優揃いながら地味だが、どこにでもいそうな若者といった風貌の彼だからよりリアリティがある。それにしてもチョイ役ながらここにもいる竹中直人。この人の仕事選ばなさぶりは別の意味で壮絶。出番はほとんどなかったが、今作で笑いらしい笑いを誘ったのはこの人くらいじゃないだろうか。

フリーターで先輩に紹介された仕事の面接に向かう主人公は、満員電車で中学生の少女に痴漢だと言われ捕まえられてしまう。話し合えば分かるだろうと駅の事務室に向かった主人公だが、隣にいた無罪を証言してくれた女性も相手にされず、追い返されて行方知れずに。主人公はあっという間に警察に連れて行かれてしまう。

同時期に本当に痴漢をやったらしきサラリーマンも連行され、手に繊維が残っていた証拠を突きつけられ自白。彼はあっさりと釈放されていく。一方で冤罪の主人公は容疑を否認した事で厳しい追求に会い、刑務所に何日も拘留されてしまう。やがて事件を知ったフリーター仲間、そして母親の助けで弁護士をつけた主人公は、途中、同じ痴漢冤罪の裁判を闘う妻子持ちのサラリーマンら支援団体の助けも借り長い裁判を闘っていく。

 

 

 

以下ネタバレ(も何もないんだが一応ラストにも触れてる)感想

 

まず冒頭で罪を認めた男があっさり解放され(前科はつくが黙ってりゃまあ周囲にも分からない)、冤罪の主人公は厳しい追及に合う上に帰れないという現実に衝撃。調書は都合のいいように書かれ、弁護士の呼び方もよく分からない。まず「何も知らない自分」が怖くなる。そして取調べの輸送車、手錠、まるで犯人扱いの刑務所暮らし。淡々と描かれるが実に怖い。俺だったらここで精神がやられそうだ。この主人公はさすがに途中ではくじけそうになりながらも耐えたが、俺だったら弁護士より先にカウンセラーが必要になるかもしれない。

そして語られていく、裁判の問題点。すなわち冤罪が冤罪と証明できない恐怖。判決が真実でないという事実。有罪の数は実に99.9%。

何より深いのは、この手のドラマにはありがちな主人公をおとしめようという極悪人が特にいないという点だ。被害者少女は以前も痴漢にあったことがあり、今回は勇気を出して捕まえた(まあ、間違いなんだけど)。そこに別に悪意はない。

裁判官にしても警察にしても、主人公からすれば血も涙もない悪人だが彼らも彼らの仕事をしているだけであり、格段悪い事はしてない。前半の弁護士なんかはかなり正義の人っぽく、後半の弁護士はやや偏見持ってるっぽい感じはするんだけどどっちかというと問題は裁判制度や体質にあるのだ。

とことん社会派なこの映画。正直、娯楽作としてはあまりに後味が悪い。冤罪をいかに暴くかという推理モノでもないし、裁判の怖さと映画的スッキリ感を混在させた映画でもない。普通のドラマだと、それなりに主人公に有利な物証が出てきて最後は敏腕弁護士の活躍と、「正義が勝つ」の信念の元に万事解決するものだが、この映画はとことん現実的である。正しい人がことごとく排除されていき中途半端なことはせずにひたすら現実的であり救いがゼロだ。だが、それが逆にこのテーマの持つ怖さを際立たせる。男だったら見ておきたい。いつ自分が同じ立場になるか分からないのだから。

満員電車では両手を常に挙げておくほうがいい。

スペシャルエディション    

印象度★★★★★

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