宜候
No | タイトル | 作詞 | 作曲 | 編曲 |
1 | introduction〜東京の蕾〜 | 槇原敬之 | 槇原敬之 | 槇原敬之 |
2 | ハロー!トウキョウ | 槇原敬之 | 槇原敬之 | 槇原敬之 |
3 | 悶絶 | 槇原敬之 | 槇原敬之 | 槇原敬之 |
4 | 悲しみは悲しみのままで | 槇原敬之 | 槇原敬之 | 槇原敬之 |
5 | 特別な夜 | 槇原敬之 | 槇原敬之 | 槇原敬之 |
6 | わさび | 須藤晃 | 槇原敬之 | 槇原敬之 |
7 | なんかおりますの | 槇原敬之 | 槇原敬之 | 松本圭司 |
8 | Counting Blessing | 槇原敬之 | 槇原敬之 | 槇原敬之 |
9 | 虹色の未来 | 槇原敬之 | 槇原敬之 | 槇原敬之, トオミヨウ |
10 | 好きなものに変えるだけ | 槇原敬之 | 槇原敬之 | 槇原敬之 |
11 | HOME | 槇原敬之 | 槇原敬之 | 槇原敬之 |
12 | 宜候 | 槇原敬之 | 槇原敬之 | 槇原敬之 |
Strings Arrangement:トオミヨウ(8,11,12)
初回盤DVD
1.宜候(Music Video)
2.宜候(メイキング映像)
リリースデータ
2021年10月25日(配信) 2021年10月27日(CD) |
初登場6位 | 売上1.8万枚 | Produced by 槇原敬之 | Buppu |
槇原敬之23rdアルバム。カバーベスト『The Best of Listen To The Music』から2年ぶり、オリジナルアルバムとしては『Design & Reason』から2年8ヶ月ぶり。2020年2月に1999年に続く2度目の逮捕に伴う活動休止からの復帰作。2020年がデビュー30周年だったため、当初は『The Best of Listen To The Music』から30周年プロジェクトが始まり、3月にセルフカバーアルバム『Bespoke』、夏にはベストアルバム発売やツアーを予定していた。逮捕により『Bespoke』は発売中止となり、ベスト盤の制作も流れた(ツアーはどっちみち新コロ騒動により開催不可だったと思われる)。今作はその後に制作を考えていたとされるオリジナルアルバムとなるが逮捕前にはまだ本格的なオリジナルアルバム制作には入っていなかったようで、『Design & Reason』以降は新曲が出ていなかったので既出曲も無かった。基本的には謹慎期間中に制作されており、全曲新曲で構成。初回盤は「宜候」MVとメイキング映像を収録したDVD付、スリーブケース仕様。同時発売で書籍『槇原敬之 歌の履歴書』が発売され、これまでの楽曲からピックアップされた曲のエピソードと今作に関しては全曲の解説が掲載されている。前回の逮捕時同様に今作に関してはYouTubeでの本人解説と『歌の履歴書』くらいしかアルバムについて語る場を設けず、作品発表では復帰したがメディア出演や積極的なプロモーション活動はまだ控えている模様。
「わさび」は須藤晃の未発表詞でディレクターを通じて詞を見せてもらい、その後で曲が浮かんだので勝手に曲をつけたところディレクター経由で須藤晃に曲が渡り、気に入ってもらえたことから収録を打診したところOKとなったもの。今作には須藤晃の息子のトオミヨウがアレンジャーとして参加していて偶然にも親子が別々の曲に参加したアルバムとなったが、経緯においては関係が無かった模様。また「なんかおりますの」はアレンジを松本圭司が担当している。またアマチュア時代に録音ミックスを担当し、97年のソニー移籍から逮捕を経ての復帰からしばらくを担当していたエンジニアの沢田知久が今作では『本日ハ晴天ナリ』の「Wow」以来19年ぶりに録音のエンジニアとして参加。沢田は飯尾芳史と入れ替わるように徐々にフェードアウトしたが、今作ではその飯尾芳史に代わって05年以降ほぼ固定で録音を担当していた滝澤武士と沢田知久の連名での表記となっている。
2度目の逮捕について避けて通れないところではあるが、今作は基本的にもう事件を過去として前を向いて未来に向けて歩き出しているような内容になっていてあの事件がどうだったのか気にしているリスナーは基本的に置いてけぼりにされてしまうような内容だ。特に1度目の逮捕からの復帰作『太陽』が反省を軸にしたような厳かな作風で、以降も真理を追求してもう迷わない、間違わないというような正しい在り方を説法するような作風が延々続いた事からも、長く聞き続けているリスナーほどなんか今回は勝手に先に行ってしまったように感じるんじゃないだろうか。
事件を受けて直接的に新たな決意を歌っているのは基本的に表題曲「宜候」に集約されているが、この曲は既にその先へ行った内容であり反省を軸にしたものではない。またそれ以外の曲は基本的には通常営業。さすがに極端なおふざけやコミカルさは控えていてある程度落ち着き、真面目なトーンで統一されてはいるものの、松本圭司にアレンジを任せてジャズ調に挑んだ「なんかおりますの」や、須藤晃の未発表詞にメロディーをつけた「わさび」など普段やっていない事へ挑んだりとある程度幅も見せている。それでもいつもの槇原敬之だなという印象を越えてくることは無く、さすがに30年を越えたキャリアでイメージも確立されている中でそこまで新鮮な印象にはならないし、今更異変を感じるほど新しい事も求めていない。それでもここ10年くらいほとんど曲単位で覚えている曲が無いくらい印象が薄くなっていたが、直近3作よりは好印象で表題曲「宜候」は久々に1曲単位で耳に残る名曲だと思う。
また当初のコンセプトの1つであった30周年を軸にしたと思われる部分も散見され、序盤はまさにそのまま上京から東京で暮らし始めた初期の出来事を描いている。ラブソングもいくつか出てくるが本人曰く私の恋愛・申し訳なかった楽曲という事で過去の申し訳なかったなと思う恋愛経験を基にした内容となっていたり、「悲しみは悲しみのままで」では亡くなった人に対しての残された人の思いを歌った曲だったり、亡くなった同級生の墓参りのために地元で友人達と集まった時の事を描いた「特別な夜」など、過去の経験を軸にした曲が前半に集中。後半になると現在の考え方、主張を押し出したような曲が連続していくような構成になっている。この後半部分では反省を通り越して、というか反省や得た教訓をリスナーに示すのではなく反省はとっくに終えた過去としてその先へ進もうとしているような曲が続くので、この点で前述の置いてけぼり感が強くなってくるところはある。
それでも「宜候」で繰り返し何かにさよならを告げて前向きな未来へ進もうとしている強い意志は確かに感じられる。1度目の逮捕で一緒に逮捕され裁判でもう会わないと言っていたのに個人事務所社長にまでしてしまって、2018年に解雇した直後に彼がクスリで再逮捕され、そこから2年後に槇原本人が恐らくその当時の容疑で(?)逮捕されたという経緯から、結局2人で一緒に再犯していた可能性が高いわけで、この曲で"さよなら
さよなら 今度こそさよならだ"と言っている対象の1つがまさにこの事なのだとすれば、なんとなくしっくり来るところはある。ただこれで全く彼と関係ないところで3度目となれば、その時はもう本人に救いがない感じにはなるだろうな…。
30周年的な意味合いがあるのかは分からないが「宜候」に至っては完全に生バンド編成だったり、佐橋佳幸や小倉博和など懐かしいギタリストが一部楽曲に参加していたりというのはシンセプログラマーの毛利泰士が復帰した前作『Design
& Reason』に続く傾向で、サウンドの温かみが増してきている(というか取り戻している?)感じは今回もある。加えて今作では音楽活動の原点の盟友である沢田知久が19年ぶりに復帰。ある時を境に一切関わらなくなってしまったので(前社長がクレジットされるようになった(就任)のと沢田氏がフェードアウトした時期と前社長解任&沢田氏復帰がどちらも1、2年遅れでクロスしているのは偶然だろう…)黄金コンビの復活は嬉しい。
初回盤DVD
暗闇の中で光の差すピアノを演奏しながら槇原が歌っているというシンプルながら幻想的な内容で、ラストで光の方へと歩き去っていく姿に復活を印象付けられる。逮捕前から仙人のような風貌になってきていたが、今回は前回の逮捕からの復帰時のようにフォーマルな感じに整えるのではなく仙人モード(?)のまま。楽曲同様に既に本人は前を向いている状態のようで、メイキング映像というのもほぼ音声オフで曲をバックに撮影中の様子がほぼ1曲分流れているだけで、本人がメイキングカメラに向かってコメントすることは無い。
印象度★★★★☆
2021.12.12更新