万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-
2014年公開。原作者の松岡佳祐の作品では00年前後に制作された『催眠』『千里眼』以来の劇場公開映画作品となる。このQシリーズは「千里眼」が新展開を迎えた直後の2010年から2ヶ月おきのハイペースで刊行が開始された新作シリーズ。
これにより「千里眼」シリーズを始めとした「千里眼」「マジシャン」などの旧シリーズは未完で途中放置されたままとなり、Qシリーズは「万能鑑定士Qの事件簿」として12巻、「万能鑑定士Qの推理劇」4巻、「「万能鑑定士Qの短編集」2巻、「万能鑑定士Qの探偵譚」「万能鑑定士Qの謎解き」とタイトルを変えながら継続。さらに派生作品として「特等添乗員αの難事件」5巻がほぼ2ヶ月おきに4年間発刊され続けた。しかし、後追いの読者が追いついていないという判断から(作者Twitter談)この映画公開と同時にシリーズ刊行は急遽停止となり、予定されていた映画公開後の新作「ムンクの叫び(仮)」も発売中止となった。代わりに「探偵の探偵」シリーズが開始され、2015年夏ドラマとして連ドラ化されている。この映画はそんな膨大なシリーズの中で、「万能鑑定士Qの事件簿」9巻の内容を映画化している。
とある事件を解決した縁で、ルーヴル関係者の朝比奈(村上弘明)の信頼を得た「万能鑑定士Q」を個人経営している鑑定士の凜田莉子(綾瀬はるか)は日本開催が決まったモナ・リザ展の真贋を見極める学芸員の採用試験に招かれる。失敗続きの雑誌記者の小笠原悠斗(松坂桃李)はたまたま莉子が解決した事件の現場に居合わせ、彼女の記事を書くことを決意し、同行する。パリでの試験を勝ち取った凛子の前に同じく日本人で受かった美沙(初音映莉子)と共に軽井沢で講師ブレと特別講義を受ける。フランス語が話せなかった莉子は当初、美沙にも邪魔にされるが、高校時代天然を越えるバカだった自分が恩師に出会って会得した記憶法を駆使してわずかな期間でフランス語を習得。ブレの特別講義でも才能を発揮していったかに見えたが、徐々に莉子に異変が訪れる…。そこに潜んでいた陰謀とは…。
松岡佳祐の映像化作品では今作が最も原作に沿った内容になっていると思う。ただシリーズモノだけにとりあえずは連ドラかアニメ化(漫画化もされているので)して1巻からゆったり消化していけばいいのに、何故1発モノの映画にしてしかも主演が30間近の綾瀬はるか(原作では20代前半)になってしまったのか。結果的にまあ原作に沿いつつも、映画の尺に合わせて適度に削り、適度に変更、原作では最後は真実を突きつけるだけで終わってしまうので、映像作品らしく終盤は派手に盛り上げようとはしているけど、結果的にはなんとも平坦で地味〜な展開に…。
つまらないというわけではなくそこそこ面白いんだけど何だかダイジェストを見せられているみたいな感じ。原作を変に改変してないので原作より悪くなったとか良くなったとかは思わないんだけど、結局のところなんで9巻をいきなり映画化してしまったのかということに尽きる。
Qシリーズは基本的に1番最初の1,2巻が前後編になっていた以外は1話完結。どこから読んでも楽しめるが、それでもさすがに主要キャラとの出会いや関係性の進展、バカだった莉子が何故現在のように万能鑑定士となったのかという過去、これらを毎回イチから説明するわけではない。
しかしいきなり9巻を映像化しようとすると、まず莉子と小笠原の出会いからやらなければならないし、その上で主人公である莉子の鑑定士としての凄さとそのバックボーンを説明しなければならない。ここをかなり簡略化して済ませているので原作知らないと説明不足というか適当すぎるように感じるんじゃないだろうか。莉子の記憶力について友情出演の榮倉奈々が小笠原に説明するシーンがあるが、原作では繰り返し丁寧に説明していた莉子の記憶方法がかなり曖昧かつチャラいノリで適当に片づけられているのでこれがどうもしっくりこない。バカだったけど超天才になったという過去と現在がこれでは繋がらない。
さらに9巻にして莉子の鑑定能力に異変が生じる、というのが危機感だったのに、いきなりやられたのでは危機感が無いし、小笠原が故郷沖縄まで追いかけていって「がっかりさせんなよ!」と激昂する原作の名シーンもこれまで8冊の積み重ねがあったから2人の関係性が熱かったのに、偶然出会った直後に勝手にパリまでついてきたけど軽井沢以降は会っていなかったという映画内の時間軸でも一緒にいた時間がわずかしかないのでしっくりこない。
映画がさほどヒットしたという話は聞かないし、原作も止まってしまったし(ただ完結させずにシリーズを放置、しかも新たな伏線や新展開を予感させるところで止めてしまうのは松岡佳祐の一貫した伝統芸で、ちゃんと大団円で完結したシリーズ作品が実は1つも無い)、映像化は結局これっきりになってしまいそうだけに何とも残念。
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★★★☆☆