名探偵コナン 漆黒の追跡者
09年公開、劇場版第13作。5作目「天国へのカウントダウン」以来2度目となる黒の組織との対決という話題性もあってここに来て興行収入でシリーズ最高を記録した。
前回の時点ではまだ登場していなかったジンとウォッカ以外の黒の組織メンバーであるベルモット、キャンティ、コルンが初登場したほかに新キャラクターのアイリッシュが登場。彼がコナン=新一と疑う事で物語が進行する。またレギュラーキャラである小五郎、蘭、博士、少年探偵団、警視庁の刑事達のほかに準レギュラーの平次や東京以外で起きた事件の際に登場したことのある別の県警の横溝兄弟、山村、大和、上原ら、過去に登場した刑事が大挙して出演している。ただし黒の組織と対決しているFBIは一切出てこない。
原作では警部補のままなのに何故か山村が警部に昇進したことが明かされ、以降のアニメ版ではこの設定が継続している。また小五郎役の神谷明がこの後に降板したため、劇場版の神谷明が演じる小五郎は今作が最後である。
また黒の組織との対決は普段の事件と違って1巻から続いている連続モノであるため、恒例の冒頭の「体が小さくなった経緯」と灰原に関する説明のほかに、回想シーンという形で黒の組織メンバーであるビスコが登場してジンに殺された原作24巻、一時的に新一の姿に戻って事件を解決した26巻、ベルモットと対決し、取り逃がすもベルモットは実は新一が組織を潰してくれることを願っていたことが明らかになり半味方的存在(なので正体を知られているのにジンたちに知られる心配がなく、1人の時に遭遇すればある程度の情報を聞き出すことも可能)となる、さらに黒の組織のボスである「あの方」のメールアドレスがプッシュ音で童謡「七つの子」のメロディであることが判明する42巻の内容が登場し、設定として生かされている。
東京・神奈川・静岡・長野で相次いで殺人事件が発生し6人が死亡。現場に麻雀牌が残されていたことから連続殺人と断定され、警視庁に各県警の刑事たちも集結して捜査会議が開かれる。そこには特別顧問として呼ばれた小五郎の姿もあった。小五郎に仕掛けた盗聴器で会議を盗み聴きしていたコナンは、会議終了後に山村刑事が「七つの子」を打っている警官がいたと聞き、慌てて後を追う。そこには黒の組織の影があった。
その後、事件の容疑者が現れ、警察が張り込む中で容疑者は人質を取って逃走を図る。密かに追いかけてきていたコナンの機転で事態は収拾したが彼は犯人ではなかった。そして人質のフリをしていた人物こそが変装したベルモットだった。それを見抜いたコナンはベルモットに何故組織が絡んでいるのかを問いただす。するとベルモットは連続殺人の被害者の中に組織の工作員がいて、組織が消す予定だったのに先に殺されてしまったという。この人物が組織の工作員のリストが入ったメモリーカードを所持していたのだが、犯人がそれを知らずに持ち去ってしまった。警察に回収される前にそれを回収するのが目的である、そのためにアイリッシュというメンバーが警察に潜入しているという。
そのアイリッシュは刑事達の話からコナンの推理力に疑問を抱き、現在行方不明の工藤新一との関連を疑う。26巻の事件で新一が登場したことをうっかり喋ってしまった高木刑事の発言から、この事件で新一が利用していた騎士の衣装とコナンが小学校で作った粘土細工を拝借して指紋を照合したアイリッシュはコナン=新一と確信する。
コナンもこのことを知り危機感を抱くが事件の方は次の被害者が出てしまう。平次の力も借りて単独で捜査を続けたコナン(小五郎の助手ということで関係者に聞き込みをしまくる)はついに真相に到達。犯人が潜む東都タワーへと潜入する。
遅れて刑事たちも真相に到達する。しかし、佐藤刑事は刑事の中にスパイがいるのではないかと疑う。時を同じく手少年探偵団は物語冒頭に訪れた「米花の森」のカブトムシに奇妙なシールが貼られていることに関心を抱いていた。そして黒の組織も東都タワーへ到着。コナンが東都タワーに入っていく様子がTV中継されているのを偶然見た園子の連絡で蘭も東都タワーへと潜入する。事件の真相、黒の組織との対決が始まる。
盛りだくさんの内容。組織との対決に重点を置いたため、少年探偵団や蘭は下手に関われないという制約が出来てしまうがそれぞれがちゃんと事件解決に貢献するというのは見事。蘭は久々に空手の腕前を披露。相手が相手だけになかなか決定打にはならないものの、「紺碧の棺」に比べればかなり有効打を与えており、久々にかっこいい蘭が見れる。
原作でも謎のままである組織に関しては、下手に話を進められないのでここだけで話を完結させなければいけないなど非常に制約が多い。「天国へのカウントダウン」は灰原を狙うという形で組織がスナイパーとして遠方から狙撃するなどしていたがあまり大きく関わることは出来なかった。
その点、今回は過去の事件(ビスコの事件)を踏まえてアイリッシュの人物像が作られている。大前提として「コナン=新一、灰原=シェリーはジン達組織のレギュラーキャラに知られてはいけない」というのがあるが(これを知られたら話が最終局面に進んでしまうので)、ここがちゃんと不自然にならず理由も明かされて話が解決する。さすがに最後に都会のど真ん中でヘリから銃撃しまくる様子は秘密がモットーの組織にしてはあまりにもアグレッシブすぎる気はしたが…。
殺人事件の方も、けっこう意外な真相も明かされるなどおざなりにならずにちゃんと描かれている。驚いたのは今回事件関係のキャラでは重要な人物であるはずの人がやたらと棒読み調だったことだが、クレジットを見たらDAIGOだった…。まさかゲスト声優なのにおまけ出演ではなく本職の水樹奈々よりも重要な役を担当するとは。
あと映画になると毎回、超サイヤ的に棒読みの子供たちが主要人物が移動している後ろで全く関係ないことを話しているみたいな場面が1度か2度必ず出てくる気がするけどこれも何かの制約なのだろうか?
久々に映画らしい豪華な内容にして、それぞれのキャラクターがちゃんと活躍するなど(小五郎は活躍しないけど…)バランスもいい。個人的には最高傑作である。
★★★★★