名探偵コナン 純黒の悪夢

2016年公開。劇場版20作目。第5作5作『天国へのカウントダウン』、第13作『漆黒の追跡者』以来3度目の黒の組織が登場する。組織が登場した前2作では全く別の殺人事件が同時発生し、殺人事件の犯人は別に設定されたが今作は完全に黒の組織が起こす事件のみとなっている。このため普通に犯人が誰なのかを推理するような事件は発生せず、ゲストメインキャラクターも組織の新キャラであるキュラソーや、安室の部下の公安の刑事などに限られている。キュラソー役には天海祐希が起用された。

組織に潜入しているバーボン/安室、キール/水無怜奈が映画初登場。また赤井秀一も声や回想だけだったので実質初登場となる。赤井秀一は死を偽装して以降は沖矢昴に変装して平時行動しているはずだが今作では沖矢昴としては登場せず、終始変装をしていない赤井秀一のままで単独行動をしている。

主題歌はB'zの「世界はあなたの色になる」。2012年以降4年連続でビーイングとは全く関係ないアーティストが主題歌を担当していたが11年以来ビーイングに戻った(11年もB'z)。この時と同様にこの曲はTV版のOPにも同時使用(厳密には映画公開から少し遅れた5月半ばから)された。しかし未発売のままで放置され、今作のDVD/Blu-rayが発売されるのに合わせてようやく配信限定で発売された。CD化はB'zとしての作品より先に2017年3月に劇場版20作の主題歌を網羅した映画版主題歌集『劇場版 名探偵コナン 主題歌集〜“20”All Songs〜』で果たされる。

 

No.2ラムの片腕として働くキュラソーは警察庁内に潜入し機密データを持ち去る。これは潜入調査員のデータが記載されたノック(NOC)と呼ばれるリストで、この中にはかつて組織に潜入していた赤井の名前はもちろん、絶賛潜入中のバーボン、キールの名前も掲載されていた。しかし安室を始めとした公安の執拗な追跡に加えて赤井も姿を見せた事で逃亡は困難を極め、激しいカーチェイスの末に海上へ放り出されたキュラソーはなんとか逃げ延びたものの記憶喪失に陥ってしまう。

東都水族館に来ていたコナン御一行(博士と探偵団)は記憶喪失でさまよっていたキュラソーと接触。当初は記憶を取り戻してあげようと善意100%で行動していたコナン達だったが、元太が高所から身を乗り出して転落した際に一緒に落下しながらも衝撃を緩和させて元太をキャッチして地上に降り立つという常人離れした身体能力を見せたキュラソーに対して灰原はこいつは組織関係者、もしかしてNo.2ラムなのではないかと怯えだしたので方針を変更。しかし探偵団に伝えるわけにもいかずコナン&灰原で作戦会議していたところ、探偵団は勝手にキュラソーを連れ出して観覧車に連れていってしまう。観覧車の頂上付近で頭痛を訴えたキュラソーは謎の単語(組織のコードネーム)を唱え始め、その一部を光彦がメモっていたためコナンに伝わり、その単語が酒の名前であったことから組織のメンバーと確信(メモられていたのはコナンが把握してないコードネームのみだった)。

以降コナンは単独でFBIに接触して情報共有を図る。またキュラソーが事故直前に途中でメールを送信していたため、裏切り者なのかそうでないか良く分からない立場(名前だけ掲載されて文章が途切れていた)になってしまったキールとバーボンはジン達に拘束され殺されかけていた。これは博士がメールを解析したおかげでコナンが偽メールを流してなんとかごまかすも、バーボンはその前に赤井の助けで逃亡。キールは肩を撃たれてほぼ出番終了。今回とばっちり…。

事件のカギはあの観覧車にあり。黒の組織、記憶喪失のままのキュラソーを連れた公安、公安に追い出された目暮警部らいつものメンバー、そのまま出番が無かったFBI、そしてもう1度観覧車に乗って夜景の写メをプレゼントしようと園子の財力を使って割り込みで観覧車に乗ろうとする探偵団、保護者として同行した蘭と小五郎、逃げた安室、赤井やコナンもそれぞれの思惑で観覧車へ向かっていき物語はクライマックスへ…。

 

 

結果的に探偵団との無邪気な交流がキュラソーに新たな感情を芽生えさせて変えたという話の持って生き方はいいんだけど、そこに至るまでの探偵団がどうも以前に比べると子供だから許されるわがままっぷりに加えて悪知恵が効くようになったなぁ…と。

・身を乗り出し過ぎて元太が高所から落下。キュラソーが助けるが、元太は危険な行動をとったことを反省するそぶりがないどころか助けようとした博士が擦り傷を負ったり、腰を痛めた事に対して何で博士が1番怪我してるんだと呆れる始末。無事を喜ぶと同時に誰か叱れ

怒られるからという理由でコナンと灰原に隠れてこっそりキュラソーを連れ出して観覧車に連れていく。コナンからの電話は気づいていて3人総意で着信スルー

・キュラソーが頭痛で苦しみだすと着信無視していたコナンへ電話をかけて「コナン君助けてぇぇぇ(泣)」’(by 歩美)と言い出す。光彦はこの状況でもメモを取り出す切れ者っぷり、元太は役立たず。

・電話越しにコナンからちょっと聞いただけの「警察病院に運ばれた」という単語だけでキュラソーに逢うために3人だけで警察病院を訪れる行動力。これまたコナンや灰原に言うと止められるという理由で3人のみ。

・会えないと知るも高木刑事呼べば大丈夫だと光彦が言い出し、本当に面会を実現

・観覧車の夜景を写真撮って送ってあげようといい出し、もう夜になるし混んでて無理だという元太を差し置いて光彦が、あの水族館の経営には鈴木財閥が絡んでいるはずだから園子に頼めば順番飛ばしで観覧車に乗れると言い出し、実現。これに伴い、園子が駆り出され、蘭と小五郎が保護者として同行する羽目に。大量の人々が順番待ちしている中、順番飛ばしのVIP扱いで観覧車に搭乗。

と、こんな具合である。全体には探偵団は事件の真相も知らず、キュラソーの最期も聞かされず、どちらかというとお子様感を強調して無邪気な感じの立ち回りにされていた。しかし改めて行動を考えてみると特に光彦の悪知恵の効きっぷりがハンパない。巧みに人脈を活用し、かつそれを実現するだけの知識もちょっと聞いただけとかどこで調べたのかという勢いで把握。元太は必要以上に馬鹿&役立たず&お荷物に描写されていたので、光彦1人で後半の行動をリードしていたことに…。

 

うまく立ち回る巧みな探偵団に対して大人たちはというと…。

博士…前半で唯一の保護者役として同行。しかし、保護者としては爪の甘い行動が目立ち、入園後には子供たちに同伴している様子が無く姿を見せない(コナンや灰原がいるので大丈夫と思っていたのだろうけど、しばらくして別の場所から「おーーい」と声をかけてきた)、元太が高所から落下するほど身を乗り出す前にそれを制止できなかった保護者としての監督不行き届き、探偵団がこっそりキュラソーを連れ出した際は真横にいたにも関わらず鳩と戯れていて探偵団がいなくなったのもコナン灰原に言われるまで気づかずコナンに「何やってんだ!」と割とマジでキレられる。帰宅後、キュラソーの携帯解析という大役を果たすも、組織絡みの案件だとちゃんとコナンに教えてもらえているのかは不明のまま。

小五郎…キュラソーが記憶喪失だと知り、勝手に依頼人だと誤解して駆けつける(前半)。運転手として蘭と探偵団を連れてくるが魚を見る気分じゃないとして公安や警察でごった返して大騒ぎになっている駐車場で爆睡(後半)。

蘭…探偵団の保護者として同行したはずなのに何故か探偵団を放置して園子と2人で水族館へ新一探しに行ってしまう。

園子…探偵団に頼まれて水族館スタッフへの顔利きをしてから登場。探偵団を水族館スタッフへ引き渡して自身の責務は果たした。蘭が新一からの電話で水族館の館内放送が聞こえたと言うと探しに行こうとして蘭と共に水族館へ。

なんだかみんな探偵団を放置するもんだから探偵団の保護者として安心して預けられない頼りない扱いになっちゃった。

 

またFBI、安室、組織と色々絡めても話を進展させられないので結局全員がふりだしに戻る状態にならないといけないという制約もあって今作単体では盛り上がるんだけどどうにも「?」な展開が…。

FBI3人衆(ジェームズ・キャメル・ジョディ)…珍しくコナンが早い段階で情報共有をしていたものの、まさかの活躍無し。最終展開で別行動していたので出番も無し(EDがかかっている間に状況を把握したっぽいカットはあり)。

赤井…何故か沖矢昴の変装を終始解いた素顔のままで行動。その上で、キールやバーボンをこっそり助け出したり、上空を飛び回る組織のヘリを銃で狙っていたのでタイミング次第では組織に生存がバレていた。沖矢の姿のままでは声も変えていて声優が別人なので、せっかく赤井役に起用した池田秀一をいつまでも使えない、ガンダム繋がりの池田秀一と古谷徹(安室役)が共演するのこそがポイントなんだという大人の事情がありそう。

安室…自身が恨んでいる(実は勘違いによる逆恨み、むしろ仲間が死んだのは自分が駆けつけたせい…と既に読者目線で判明している)赤井に助けてもらっておきながら、自身の潜入がバレるか否かの瀬戸際で観覧車の上で赤井に殴りかかり危険な肉弾戦を繰り広げる。敵を見誤るなと前にも言ったぞと説得されても、転落しても格闘を辞めようとせずに「第二ラウンドだ!」などと勝手にヒートアップする始末だったがコナンが駆けつけ、観覧車爆破の危機だと知らされてようやく目を覚ます。かつて原作に登場した殉職した刑事松田に爆弾解体の技術を伝授されていたと語り、リモート爆弾解体に尽力し、なんとか面目を保つ。あの状況でちょっと考えたらありえないような赤井とバトルし始めるなんて無茶な展開もやはりガンダム的にこの2人が殴り合う展開こそがポイント…ってことだったんだろうか?

黒の組織…リスト流出により3人の潜入捜査員が新たに発覚。3人は即始末し、組織の冷酷さと仕事の速さが示されたものの、既に幹部クラスが工作員だらけと揶揄されているだけにまだ3人もいたというのは"工作員まみれの組織"という印象を強める結果に…。

今作ではヘリに乗ってジン御一行がやってくるというのは同じながら『漆黒の追跡者』に比べるとバレないように行動。『漆黒の追跡者』終盤で秘密組織なのにあまりに目立つ行動を取り過ぎたのを反省したのかと思いきや、キュラソーが逃げたと分かると銃を乱射。キャンティに至っては「キャハハハハハハハ!!撃て撃て撃て撃て撃て」とか単細胞雑魚悪役のテンプレみたいな笑い声をあげる始末。顛末は結局『漆黒の追跡者』と同じでヘリを攻撃されて墜落の危機というものになってしまい、これじゃ前と全く同じになってしまうせいか、操縦が!と焦るキャンティにジンが操縦を代わると何故か持ち直して、もう少しだけ粘って観覧車の軸を破壊して水族館方面へ転がすという大規模破壊を実現してから帰った。結果、地上が大惨事すぎて組織のヘリは前作時より目立たずに済んだ。

 

組織話は盛り上がるし、どんだけ派手な爆破を仕掛けても組織だからの一言で済むのでいいんだけど、お互いの事情を知られてはまずい関係者が増え過ぎちゃって大変だなぁ…という。この制約された状況の中では組織が絡んだ過去2作を上回っていい話だったかなとも思う。安室が赤井に殴りかかるなんていうどうでもいいシーンを削って記憶が戻ったキュラソーが組織に戻ろうとするも探偵団との日々を思い出して逡巡するカットを長く見せても良かったくらい。

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★★★★☆

 

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