信長協奏曲
2016年1月公開。2014年秋クールの月9枠で放送されたドラマの続編で完結編。ドラマは途中で話が終わっており映画へ続くとしていたが、ドラマ終了時点では撮影は全く開始されていなかったようで、2015年になってから撮影された模様。このためドラマ終了から映画公開まで1年1ヵ月ものブランクが生じた。原作漫画はまだ完結しておらず、完全独自の展開で本能寺の変までを描いている。キャストは生き残った人物は全員続投している。
ドラマ版終盤では秀吉(山田孝之)を怪しんでいた竹中半兵衛(藤木直人)が諜報能力最強な弟の重矩(上山竜治)を使って調査を進めており、秀吉が浅井・浅倉との決戦に噛んでいた事を突き止めその危険をサブロー信長(小栗旬)に伝えようとしたが、この時の信長は本物(明智光秀)の方であり、既に自身を取り戻すために秀吉にそそのかされてそのうちサブローを殺して取って代わる決意をしていた(部下のでんでんも事あるごとにあなたこそが信長だとそそのかすし)ので半兵衛をバッサリ。
ドラマ版での半兵衛は恒興(向井理)らに活躍の場を取られ、本来の参謀としての活躍がほとんどできなかった上に病死という史実を変えてしまったのでこの件どうすんのかというのが映画が始まる上で気がかりだったが台詞のみで処理。それによれば光秀と秀吉が結託して病気療養中だったことにして隠し、頃合いを見て病死したと発表したという。そんな無茶な。この際に同時期に重矩の方も殺害していた事が判明し、殺害シーンが1カットだけ挿入された。
このため藤木直人のクレジットは「(回想)」だったが、新規に殺害1カットを撮影したらしき上山竜治は普通にクレジットされていた。
サブローの平和への理想はかつての半兵衛の理想と同じだったというシンクロがあったし、サブローが半兵衛を全く気にかけていなかったのだけはちょっと残念だった。いくら「引き」のためとはいえ処理が雑すぎたのでは…。
この件は残念だったけど、予想外の展開とか予想を超える超展開では無かったけど、期待を全く裏切らない安心感のある展開で概ね期待通り。本能寺の変はほとんど誰もが知っているのでそこに綺麗になぞらえつつも物語として綺麗に終結させるハッピーエンドとしてはこの上ない終わり方で良かったし、これがベストだったと思う。なんといってもそのまま信長が明智に殺されました、明智を秀吉が殺して天下取りましたというのは既定だけにそれをどうバッドエンドに感じさせず、かといって歴史の大枠から逸れずに置き換えていくかとなったらもうこれしかないでしょ的な。
また連ドラ時代のサブローはうじうじしすぎなところがあり、覚悟を決めねばならない場面で散々うじうじした挙句に何とか覚悟を決めても次の回ではまた同じような事で悩み、執拗な不殺主義を唱えるなどじれったい展開が続いたが、連ドラ最終回で浅井長政(高橋一生)を自らの手で殺害した事で(初の殺人)本当に覚悟が決まったという形を取ったのかこの映画ではザックザクと敵を切り捨てていたのは印象的だった。連ドラでほとんど他の登場人物の役割だった作戦決行や発言などを奪い取っていた恒興も今作では適度なポジションで落ち着いていて出しゃばっている感じが無くなっていた。連ドラのイマイチだったところを全て一掃・修正してまとめてきたのも何気に見事だった。
原作がそもそも文字通りの「協奏曲」で、本物信長(明智)とサブロー(信長)がお互いを信頼し合っていて2人で協力して「信長」をやっているのに対して(松永とサブローの会話から途中で未来から来たことも知った上で明智は絶対に支えると誓っている)、ドラマ版では明確に態度が描かれていなかったが映画では案の定嫉妬だった事、その思いが劇中で揺らいでいく様子は描かれた。結果的になんとも間の悪い上に、無駄死に状態の悲しい野郎になってしまったが…。逆にこれくらい残念な人の方が明智光秀の史実に沿って退場させられてまとめやすいといえばまとめやすいわけで、完全に協奏曲しちゃっている原作の方が本能寺の変をどう迎えるのか難しそう。
また本物信長(明智)は部下には「わしが本物の信長じゃ!」と宣言して本能寺に出向いていたが、その一方で帰蝶を保護するように部下に命じていたり、逃れてきたサブローと合流した帰蝶の元に登場した部下たちは「貴方が織田信長様ですね」、「他の家臣たちの中にも信長様を明智だと信じ込んでいる者がいる」「「恐らく秀吉は貴方を逆賊(明智)として討つ事で天下を取るつもりなのでしょう」とこの複雑な状況をしっかり把握して登場。明智は部下に顔が同じであることを明かしながら自分が本物の信長で本能寺にいるのは替え玉だ(そいつを討つ)と主張していたので、サブローの事は本物(明智を名乗っていたほう)だと信じ込んでいるのか、明智が死ぬ前に画面の外でちゃんと秀吉が敵だと説明していて明智の部下たちは自分たちが仕えていて信長を救った明智は秀吉に殺されサブローが信長だと認識しているのか。ご都合主義と言ってしまうとそれまでだが明智の部下たちってかなり物分かりがいいんだな…。そういや連ドラ時代の終盤からほとんど同じセリフしか言ってない勢いで散々そそのかしていた部下のでんでんはどうなったんだろうか。
松永はサブローに教科書を見せてもうすぐ死ぬと伝え、これまでやった事は知らずに教科書通りの行動だった、歴史は絶対変えられないと主張。なので、もうすぐ死ぬ信長を裏切るのはいいんだけど、教科書にはおそらく詳しく自身の去就が載ってなかったとはいえ、よりによってこれから天下を取る事が分かっている秀吉に牙をむくような態度を取って俺が天下を取るとか何考えてたのかよく分からん…。サブローでさえ秀吉・徳川家康が天下を取る事は知っていたくらいなので松永もそこは承知していたはずで秀吉・徳川ラインには歯向かわないようにふるまっておくべきだっただろうに…。
未来人は突如タイムスリップして戦国時代でいずれかの空席になっている歴史上の人物としての役目(人生)を全うする事になり、概ね史実通りにその役目を終えると死んだ瞬間に現代へ戻るシステムになっているらしいことはラストで示唆。松永がヤクザに戻って逮捕されている場面もさりげにサブローの家のTVで一瞬報じられていた(サブローは気づいていない)。また帰蝶が出会った未来人の外人ウィリアム・アダムスが帰蝶の動画を届けてきてのハッピーエンド演出も良かったけど謎だったのはサブロー今何歳なのかっていう。サラリーマンっぽかったけど、服装や見た目からしても50歳前後まで年行っている様子ではなかった。となると現代に戻った際はそのままタイムスリップ当時の高校生に戻り(来ていた服は死んだ時と同じだったけど肉体も高校時代に戻った)、そこから数年たって社会人になってからがラストシーンということなんだろうか。じゃないとウラシマ状態だし現代社会復帰がキツいってかほぼ不可能だよなぁ…。せめて戻った瞬間の服装がタイムスリップ時のものに戻っていれば分かりやすかったのに…。さらには動画の帰蝶の年齢が若すぎる(時期的にもうおばあちゃんだろ)とか、スマホの電池とかいろいろあるけどその辺はファンタジー。
★★★★☆