ソラニン
2010年公開。05,06年に発表された同名漫画(全2巻)の実写化作品。原作者、浅野いにおが歌詞を書いた作中作「ソラニン」は実写化にあたってASIAN KUNG-FU GENERATIONが作編曲。アジカンの新曲として発売された。実際に劇中ではアジカンのバージョンは流れない。高良健吾、宮崎あおいが歌う曲として使用される。EDは以前原作にインスパイアされて制作されアルバムに収録されていた楽曲「ムスタング」で、この映画の中でアジカンの演奏が流れるのはこのEDのみである。今回はmix for 芽衣子としてリミックスされており、シングルC/Wに収録された。劇中音楽はストレイテナーのボーカルのソロプロジェクトentが担当している。
また出演者は楽器を猛練習したが(桐谷は元々ドラムが特技だったようだが、宮崎あおいは触ったことが無いギターを練習して会得した)、ベーシストだけはサンボマスターの近藤洋一が逆に演技初挑戦として起用されている。かつてGIZAでCDも出していた岩田さゆりは大学の後輩として登場し、バンドをやっていて対バン相手として主人公サイドを誘う展開になっており、ラストのライブでは岩田さゆりのバンドがメインという設定ながら、劇中で歌や演奏を披露するシーンは無い。
OL2年目の芽衣子(宮崎あおい)はこの先の希望が全く見えず何となく生きていたがある日突然会社を辞めてしまう。大学時代からの恋人で同棲している種田(高良健吾)はデザイン事務所でバイトをしながら、当時の仲間であるビリー(桐谷健太)と加藤(近藤洋一)と共に月に数度集まって細々と練習だけを続けていたが、惰性的な状況になっていた。励まし合いながらも先の見えない日々を送る中で、音楽に対してやる気を見せない種田に芽衣子はいらだちを見せ「ちゃんとやってほしい」と告げる。本気になった種田は密かにこれがダメだったら音楽を辞めるという決意のもとで、渾身の新曲「ソラニン」を完成させる。メジャーのレコード会社から1件だけ連絡があったものの、それはアイドルのバックバンドの誘いだった。これっきり反応が無く、再び停滞した日々が過ぎていく中で、種田は急に別れを切り出し、ちょっと出ていくと言ったまま行方不明になってしまう。5日後、種田から電話が入り、以前のデザイン事務所に頭を下げて再び雇ってもらったことと、音楽も続けること、2人で幸せになろうと告げる。バイクで芽衣子の元に帰る途中、今は幸せだと言い聞かせる種田だったが、何故だか涙が止まらずそのままバイク事故に遭ってしまう。その後、失意の日々を過ごした芽衣子は、触ったことが無かったギターを手に取り…。
この映画は普通に疑問なく、学生が終わったら会社に入って働くのが当たり前でそれ以外は堕落者と思っている人にはさっぱり意味が分からないどころか、登場人物たちのふわふわ具合とだらしなさに苛立ちを覚えるかもしれない。その一方で、夢との折り合いや、そもそも目標が見つからず、それでもこれでいいのかもがいている多くの若者の共感と感動も呼ぶような気がする。先が見えないだらっとした日々の感覚は丁寧に描かれており、その点を踏まえると芽衣子の自分のこと棚に上げておいてあれしろこれしろ種田に言う酷い態度も別に酷いとは思えない。みんなでもがいているからそこに理屈は無い。理屈じゃないからこの映画はあまり説明しない。種田が何故泣いたのか、どんな思いで「ソラニン」を書き上げたのか、芽衣子が何故ギターを持って歌おうとしたのか、バンドのメンバーと芽衣子は音楽とこれからに対してどう折り合いをつけるのか、ほとんど理由が説明されない。漫画だともう少し種田の父が芽衣子にきっかけになる言葉を言ったり、その後の芽衣子たちがどんなふうに折り合いをつけたのかが描かれていたような記憶があるんだけど、映画だとそれもない。だから理屈で考えるとワケが分からないんだけど、芽衣子がギターを持ってから最後のライブシーンにかけては言葉にできない感情が込められていて、見ていて泣けてきた。もう少し描いてくれたほうが分かりやすかった気はするし、原作読んでなかったらちょっと消化不良になっていたかもしれないけど、それでも感情だけで心に響くものはあった。名作。
★★★★★