海と夕陽と彼女の涙 ストロベリーフィールズ
舞台は和歌山県田辺市。17歳の高校生、夏美(佐津川愛美)は8ミリカメラをまわすのが好きなおとなしい女の子。柔道でインターハイに出る事になったマキ(谷村美月)は「俺」系男喋りの勝気少女、学級委員の美香(東亜優)、そして手下を使ってマキや夏美をいじめてほくそ笑む理沙(芳賀優里亜)の4人が主人公。扱いは『がんばっていきまっしょい』のヒメ役で有名になった佐津川愛美で、昼ドラ『ドレミソラ』や『仮面ライダー555』ヒロインで有名になった芳賀、ほぼ新人の東亜優と続き、谷村はキャラの性格上、佐津川よりも目立つ役どころなせいか、全出演者中クレジットで一番下という特別扱い枠になっている。
全く仲が良かったわけでもない、友だちのいない4人。まとまりのないクラスの中でインターハイに出るマキの応援のため、学級委員の美香が名乗りを上げ、マキのファン(?)だった夏美が続けて名乗りを上げる。マキをかつてイジメたこともあり(回想シーンより)、当日は手下を使って夏美の教科書やノートをビリビリ/落書きしてほくそ笑んでいた理沙が突然立ち上がった夏美にビックリして立ち上がってしまい、応援3人が決まってしまう。
理沙を除く3人はそこそこ仲良くなり、理沙もツンツンしつつもばっくれることはなく、応援に現れ、会場へ車で送迎中、事件は起きる。見通しの悪い狭い道でカーブを曲がり際にはみ出し気味に反対から来たトラックと正面衝突。運転手含めて夏美以外の4人は全員死亡。
助手席で後ろ向いて8ミリカメラ廻してて真っ先に死にそうなポジションだった夏美だけ頭と腕に包帯程度でピンピンしてるのは謎だが悲しみにくれる通夜の夜、マキ、理沙、美香が現れる。夏美にしか見えない彼女達。そんな4人の前に死神が現れ、死んでから48時間で連れ帰ると宣告する。事故→通夜と場面は飛ぶが、それぞれが死んだ時間には差があったらしく、一番短い美香は19時間、理沙が21時間、一番長いマキはさらに10時間以上も長い33時間も残っているという。かわいい順に退場か…。
と、まあこういうかなり非現実的な話。基本的には友情の話なのだが、理沙のエピソードを軸に「大人の価値観に犠牲になる子供」という主張も見え隠れし始める。特に、終盤にかけてあまりに典型的っぽい「身勝手な大人」が大挙して出てきたりとこの主張がいきなりほぼ全開気味に出てくるので、え?そっち?という気分になった。
また、登場人物間の関係も説明があまりないのでいきなり見ると何だかよく分からない。三船美佳(さすがに大俳優の娘だけあって、バラエティのイメージしかなかったがかなり演技はうまい。もっとドラマ出ればいいのに。)がどういう背景を背負ってあんなやさぐれてるのかとか(終盤は明かされるけどそれでもなんだかすっきりしない)、よき理解者的な波岡一喜とマキが特に仲が良かったらしいのだがこの辺も特にこれといった解説はない。終盤出てくる「身勝手な大人」もあんたらいきなり偉そうに出てきたけど誰だったっけ?だし。
友情という点に関しても理沙の生前のマキや夏美に対する手下を使ったイジメは、まあドラマ的に教科書ビリビリ/落書き、水を頭からかけるなんてのは定番とはいえ、やや度を越えており、死んで幽霊になったという特殊状況下や理沙にも抱えてる闇(これが「大人の価値観に犠牲になる子供」)があったんだよと明らかになったところで笑って許せるのが少々理解できない。許すのはいいとしても1度くらい「あの時はごめん」とかあっていいだろう。特殊な状況が前提にあって芽生えた友情というか、どっちかというと連帯感に近いものだけあって真の友情とはまた少し違うものなんじゃないかなとも思った。死んでから気づいたんじゃなくて、死ななきゃそもそも芽生えなかったんじゃないか?という時点で…。う〜ん。美談ではあっても、最近「死」で泣かせる作品が多いだけに、これは真の涙や感動なのかが分からない。
大した思い出も残せないままに時間になると死神が登場。この死神、黒マントを被ったいかにもな死神なのだが(個人的には幼き日に見ていた仮面ライダーBLACK RXのいわゆるショッカー的役回りのザコ怪人を思い出した)、言葉は喋らず、時間になると「やだ行きたくないよ」と抵抗する本人、「連れて行かないで〜」と残されたメンバーの抵抗も容赦なくはねのけて連れて行く。このパターンが実に3人分定期的に訪れて、かなりの時間をかけるのだが…。泣きのシーンなのにここで全く泣けなかった時点で俺には少し合わない映画だったのだろう。
ロケーション、演技、けっこういいのだがどうにも話が…。思いっきりファンタジーやSFっぽくせずにわりとリアル志向で描かれているせいで(例えば幽霊は出てこない人が死ぬ感動系の話の『世界の中心で、愛をさけぶ』とかの方がよっぽどファンタジーっぽく描かれている)逆に死神とか出てきてもちゃちくみえてしまったのが原因だと思う。とはいえ、雰囲気はいい映画だったし、入れる人は入れて感動できるだけの説得力自体はあったと思う。個人的にはイマイチ入りきれなかったわけでまあ主演4人の女優さん達(特に芳賀優里亜、東亜優。2人とも予想よりも退場が早くて残念だった)の今後に期待って事で。
DVDは、そもそも劇場公開も凄い小規模だったせいで2枚組の初回盤とかの区別もなかったらしく、レンタルでもメイキングがたっぷり。各役者ごとの密着映像もあったので満足な内容だった。こちらは、5年後に夏美が街に帰省して物語を振り返るというアナザーストーリーもある。
★★★☆☆