ゴジラVSビオランテ

89年12月公開。前作『ゴジラ』から5年ぶり。期間が開いているものの前作の直接の続編となっており、前作直後から話がスタートする。前作から引き続き出演している登場人物はいないが、沢口靖子は別人の役で2作連続出演。序盤で命を落とし、沢口の死体のカットから小高恵美へと画面が移り変わるのは初代東宝シンデレラから2代目へとバトンタッチしたのを意識した演出になっている模様。この小高演じる超能力少女三枝未希は以降のVSシリーズ全てに連続して出演する唯一の登場人物となる。

 

85年、ゴジラを三原山に葬った直後の破壊され尽くした新宿ではゴジラの細胞であるG細胞をめぐっての攻防が繰り広げられていた。アメリカのバイオメジャーがG細胞を奪取し、気づいた自衛隊を容赦なく倒しながら逃亡を図る中で、サラジア共和国の工作員がバイオメジャーを殺して横取り。その細胞はサラジアに運ばれ、そこにある研究所には白神博士(高橋幸治)とその娘の英理加(沢口靖子)が働いていたが、バイオメジャーが報復のために研究所を爆破。英理加が亡くなってしまう。

そして5年後。三原山が噴火してゴジラ活動再開の懸念が高まる中で、英理加の親友でもあった大河内明日香(田中好子)が務める精神開発センターの中でも最も能力が優れるとされる三枝未希(小高恵美)もゴジラの動きを察知したと告げる。政府はゴジラの体内の核物質を食べる事でゴジラの活動を停止させる「抗核エネルギーバクテリア」の開発を検討。研究者の桐島(三田村邦彦)は兵器としての危険性を訴えつつも必要なのはG細胞と白神博士の協力だと告げる。人知れずバラを育てる不気味なオッサンと化していた白神博士は1度は断るが、実は英理加の細胞をバラと融合させる事で娘の命を生きながらえさせており、ゴジラ出現の予兆のような地震でバラが弱ってしまったので、G細胞を1週間借りる事を条件に許諾。英理加×バラ×G細胞を融合させた植物を放置したままバクテリア開発に向かってしまった白神。留守中にバイオメジャーやサラジア共和国の工作員が潜入してくるが触手怪物と化した英理加×バラ×G細胞が触手でバイオメジャー1人を絞殺。1人は逃亡、サラジア工作員も襲われながらも逃げ延びるが、その後は芦ノ湖に巨大なバラとして君臨。白神博士は悪びれる様子も無くビオランテだと命名。しかしあれは娘だなどと妄想めいた事を言い出すといったありがちなサイコさん化はせず、娘を失った悲しみを語る事も無い。植物の意志を感じ取れるのは未希だけだが、未希の説明などを聞いた上であくまで淡々とビオランテの状態解説員と化す。

「抗核エネルギーバクテリア」は完成したが、バイオメジャーが三原山爆破してゴジラ復活させっぞ!と脅しをかけてきたので政府はあっさりと「抗核エネルギーバクテリア」を全部渡してしまう事を決定する。さすがに5年も経っているので総理も交代していると思われるが、今作では政府首脳は官房長官までしか登場せず(この官房長官を演じているのは昭和シリーズで活躍した平田明彦の妻の久我美子)、台詞で「野党対策の方が大事らしい」と言われるだけで総理は出てこない。バクテリアの取引現場にはサラジア工作員が乱入し、バクテリアを奪取してしまい、しかも三原山爆破装置は作動してゴジラが復活するという最悪の展開に。

自衛隊は若きエース黒木(高嶋政伸)を指揮官に投入し、遠隔操作できるスーパーX2を投入。今回の目玉は遠隔操作できる事とファイアーミラーにより熱線を反射できる事。1万倍にして跳ね返すなどと説明されたが、威力が1万倍というわけではないらしく、ちょっと足止めできたくらいで決定打にはならず。しかもファイアーミラーを連発で使いすぎて溶けてしまい使用不能になった挙句に「通常のミサイル攻撃に切り替えます」という前機スーパーXと同じ死亡フラグを立てて、熱線1発とシッポの一撃で戦闘不能に…。

同じG細胞に引かれたのか、芦ノ湖のビオランテの元へやってきたゴジラ。触手で絡んでくるビオランテだが特にそれ以外攻撃できない上に動けないので熱線1発でバラの花弁がボロボロ崩壊。白神解説員博士が「熱戦でビオランテは進化しているようだ」などと前向きなコメントを入れるが、進化どころかどう見ても"次喰らったらマジおしまいです"感全開のズタボロになっており、更なる熱戦連発でビオランテはあっさり大炎上して燃え尽きてしまった。植物なので弱いとはいえ弱すぎる…。

ゴジラの次なる目的地を読み違えた黒木は別の場所に戦力を集中させてしまう失態を犯すもののブレずに毅然と指揮を録り続ける。大阪上陸が避けられない中で、未希は関西国際空港(当時まだ無い)建設予定地の海上のヘリポートからゴジラにテレパシーを送り対峙したまま一瞬動きを止めるも力の使い過ぎで気絶。ゴジラは結局大阪へ上陸する。

その頃、工作員から雑魚研究員の手に渡っていた「抗核エネルギーバクテリア」を取り返した桐島と権藤(峰岸徹)一佐。権藤ら数名が大阪のビルからゴジラを狙い、スーパーX2が誘導することに。ミラーが回復しなかったので通常攻撃をありったけ撃つという最初から死亡前提フラグを打ち立てて誘導するスーパーX2だが、更なる死亡フラグ「もうミサイルがありません」まで発動。仕方ないのでファイアーミラーを使用するが、1回くらいは持つかと思ったらまさかの熱線1発で爆発炎上。スーパーX2もご臨終となり、次なるX3はシリーズ最終作『VSデストロイア』まで出てこない。

権藤たちはバクテリアを撃ちこむ事に成功。しかし眼前までゴジラが来てるのに逃げずにさらに口の中にまでぶち込む大活躍を見せるもビルごと破壊されて死亡。かなりひょうひょうとしたキャラクターだったのにまたあっさりと…。

しかしゴジラはピンピンして活動を継続。「抗核エネルギーバクテリア」効いてないジャン…疑惑が浮上。いったいどうしたもんかと困る桐島と白神解説員博士だったが、権威だった白神解説員博士は最早あまり役に立たず、桐島は「ゴジラが低体温なのでバクテリアが作用してない、体温を上げればいい」などという無茶な提案をし始める(しかも推測)。黒木はサンダーコントロールシステムという気候を操作して雷を発生させ、雷撃攻撃をさせるという実験段階の作戦を導入。作戦は成功したが相変わらずゴジラは元気。わずかによろめいたのを見てようやく効いてきたぞ!と主張する白神解説員博士や桐島だが、相次ぐ雷撃でさすがのゴジラもちょっとしびれただけなんじゃ…。

そこに目覚めた未希がやってきてビオランテが生きていると告げる。黄金の粒子になって降り注いできたビオランテは地中から完全に怪獣化した姿で登場。元は植物のくせに地響きを上げながら迫りくるという異様な迫力を見せるが、触手攻撃は熱線で撃ち落とされ、ようやく絡みつくも熱線を発射せずに口にとどめることで全身から衝撃波を出す体内放射でふりほどかれ、口から何か液体を出すも大して効かず。一応ゴジラの手と肩を触手で貫いたので一矢報いてはいるんだけど、熱線に弱いのは変わってないらしく、熱線であっさりボロボロに。

だがここに来てビオランテとの戦闘でかなりゴジラがあったまったらしく、ふいに戦闘を放棄して海辺でぶっ倒れてしまう。ようやく「抗核エネルギーバクテリア」が効いたらしく安心する一行。

一方でビオランテは英理加の意志で自ら消滅。一瞬だけ英理加の顔をぼわっと浮かべるという珍妙な姿を見せて昇天。解説員と化していた白神はようやくもう2度とこの研究はしないと自身の胸の内を吐露するが、直後に空気を読まないサラジア共和国の工作員が白神を射殺してしまう。追いかけた桐島は研究者らしからぬカーアクションで車ごとひっくり返りながら工作員を止めると、銃を向けられながらも一瞬のすきをついて飛びかかるなど、これまで見せていた慎重派な人柄とは思えないアグレッシブさを見せる。さすがに分が悪かったがちょうどサンダーコントロールシステムの上にいたので黒木がボタンをぽちっと押すと瞬間蒸発して工作員は完全消滅してしまった。ゴジラは復活するも静かに海へ帰っていき、追いついた明日香と桐島は主役アピールとばかりにいちゃつき、未希はゴジラを単独で見つめ、白神は1人テントに死体が安置され、英理加のナレーションが入ってTHE END。

 

 

VSシリーズ以降は繋がっているとはいえ、ここまでガッチリと前作の続きから始まるというのも珍しい。前作で破壊された新宿の後処理のところから始まるとか、5年も経っているのによくやれたなと思う。これは前作と今作までは大人向けだったから出来た事だろう。大人にとっては5年前もそこまで大昔じゃないけど、子供にとっては5年という期間は長すぎる。話を繋げても当時の子供は成長して怪獣映画を見なくなっていたり、逆に当時は物心ついてなかったとか記憶が曖昧だとかになってしまう。

というわけで大人向けの重厚なストーリーという感じ。細胞や遺伝子がどうとか小学生の頃に見た時は正直わりと聞き流していたが、大人になってから見た方がより楽しめた。白神博士の娘に対する思いなど内面があまり描かれず、単なる解説員になってしまうのは珍しい展開だなと思った。普通この手の間違いを犯した科学者ってもっと自己主張するよな。あと明日香と桐島がメインヒロインと主役というのがイマイチしっくりこない。桐島は半ば終盤でキャラが崩壊して無理やり主役のような活躍をしているし、明日香に至っては未希の保護者役でしかなく、実際に活躍していたのは未希の方だ。前作ではあんな演技力でも東宝シンデレラをメインヒロイン扱いにしたのに、今回は格を下げたのは何故なのか…。未希は今後も毎回サブヒロインという立ち位置でメインヒロインとして扱われるのは『VSスペースゴジラ』の1回だけ。他のキャストはほとんど入れ替わるので立場なども変わっていくんだけど、未希の成長もVSシリーズの見所だ。今作ではまだ17才なので学生っぽい立ち位置。次回作以降は一応何らかの組織に所属した社会人になっているので今作の彼女じゃ初々しくてかわいい。

 

登場人物まとめ

桐島(三田村邦彦)
あまり主役っぽくないが主役。登場の仕方は明日香の恋人の研究者という形で脇役っぽい登場の仕方だったが、抗核エネルギーバクテリアの製造に際してストーリーに本格的に関与。兵器としての抗核エネルギーバクテリアに対する危険を当初から訴え続けるなど慎重派。バイオメジャーに抗核エネルギーバクテリアを明け渡すことになった際は志願して権藤(峰岸徹)一佐に同行。かなり危険な目に遭ったが意外と動じず、横やりを入れて奪っていったサラジア工作員の追跡調査にも同行。雑魚工作員の手から権藤と共にバクテリアを奪い返した。ラストで白神博士が殺され、その相手がサラジア工作員だといち早く気づきカーチェイスをしながら追いかけ、車を横転させながら追い詰めるも逆に銃で脅されるが一瞬の隙をついて飛びかかるなど研究者の割には格闘派な一面を見せる。ラストシーンでは追いかけてきた明日香とラブロマンス。

明日香(田中好子)
死んだ英理加(沢口靖子)の親友で、精神開発センターの職員。三枝未希(小高恵美)を連れて白神博士の元へやってきた事から前作から5年後の今回のストーリーが始まった。父親はG細胞を保管していた財団のトップ、白神博士とも面識がある、主人公の恋人、未希の保護者役など、人物相関図としては主要な人たちと軒並み面識があるものの、活躍らしい活躍は無く、基本的に未希の保護者として同行し、彼女が感じた事を重複して他の人たちに伝える役割。

黒木(高嶋政伸)
防衛庁特殊戦略作戦室室長。若きスーパーエリートで上官相手にも物怖じせずにスーパーXによるゴジラ対策の指揮を執る。スーパーXは遠隔操作でしかも操作員(豊原功補)も別にいるので基本的に指示担当。ゴジラの上陸場所の予測を見誤るミスをするも、普通に立て直した。ラストではサンダーコントロールシステムを使ってサラジア工作員を消す活躍を見せる。『VSデストロイア』でスーパーX3が登場した際には「あの男しかいないでしょう」と言われ再登場。しかし高嶋政伸が出れなかったので高嶋政宏が代役をしている。

三枝未希(小高恵美)
精神開発センター所属の女の子。センターの中でもトップクラスの超能力者。今作ではまだ17歳なので少女扱い(子ども扱い)されていて明日香が常に保護者のような役割で同行している。ビオランテの通訳、ゴジラの居場所探知などの能力を披露。予知夢でゴジラやビオランテの登場を見ることもできるが、予知夢に関しては精神開発センターの子供たちがみんな見れる模様。何故かセンターには未希以外には小学生以下のお子様しかいない。政府の中でも超能力とかうさんくさいと見る向きもあったが、黒木は未希の能力を信用・信頼してチームの仲間として受け入れる。大阪ではゴジラと間近でにらみ合い、一時的に動きを停止させるも能力を使いすぎて気絶。ビオランテの復活を予知して再び前線へ復帰して戦いを見守る。

白神(高橋幸治)
遺伝子工学の世界的な権威で85年当時はサラジア共和国にある世界最高の研究施設で砂漠でも育つ植物の研究をしていた。しかしG細胞研究の直前にバイオメジャーによるテロ攻撃により研究所と娘を失い帰国。娘の遺伝子をバラに組み込んでひっそり暮らしていた。この時点で目立った研究はしていなかったようだがバイオメジャーやサラジア工作員は常に白神を監視していた模様。抗核エネルギーバクテリア製造に際して政府から打診を受けるが拒否。しかし娘の遺伝子を組み込んだバラが瀕死になったので一転して許諾。1週間だけG細胞を預けてくれと条件を出して、バラにG細胞を合体させ、抗核エネルギーバクテリアの製造へ向かう。抗核エネルギーバクテリアはあっさり完成したが、研究所に放置されたバラは巨大化。その生物をビオランテだと名付けて以降は、悪びれもせず、かといって自己の正義を主張する事も無く、淡々とビオランテの解説員として君臨する。ビオランテ消滅後はもうこの研究は2度としないと宣言するが直後にサラジア工作員に銃撃されてご臨終。

権藤(峰岸徹)
自衛隊の一佐。抗核エネルギーバクテリアを明け渡す際には桐島とコンビで行動。ひょうひょうとした態度で危機的状況でもどこか呑気だったり毒づいたりしていた。最終的には桐島と共にバクテリアを奪還。すぐに部下たちとゴジラにバクテリアを撃ちこむ任務につく。この際には高層ビルから撃ちこむ事に成功するが、ゴジラが迫ってきて黒木が必死に避難を呼びかけるも、もう間に合わないと悟っていたのか悠然ともう1発弾を込めて口を開けたゴジラにバクテリアをぶち込んだ。「薬は注射より飲むのに限るぜ!ゴジラさん!」という名言を残した直後にゴジラにビルを破壊されて殉職。死に際の台詞のインパクトから平成VSシリーズの中でも屈指の名言、名キャラとして一部ファンの間では扱われている。

英理加(沢口靖子)
85年にバイオメジャーによるテロ攻撃により死亡。未希によればビオランテ化した直後まではわずかに英理加のものと思われる助けを求める声が聴こえていたらしいが以降は無くなってしまった。ラストでは意識を取り戻したらしく、消滅していくビオランテの粒子の中にそのお顔を浮かべるという現象を引き起こしてアピールしながら昇天していった。白神博士の死体が安置されたシーンから何故か彼女のモノローグに入って物語が集結する。

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印象度★★★★☆

 

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