TETSUYA KOMURO ARCHIVES “T”

リリースデータ

小室哲哉コンピレーションアルバム。『T』『K』の2枚同時発売。2018年1月に引退を表明したのを受けて企画され、自身が作詞作曲編曲プロデュースを手掛けてきた楽曲からレーベルの域を越えて厳選された100曲を50曲ずつ収録。どちらもCD4枚組でそれぞれ時系列になっている。山崎麗我によるリマスター。2作ともエイベックスからの発売だが2作をセットにしてさらにもう14曲を選曲して『+』としてCD1枚を追加した『TETSUYA KOMURO ARCHIVES BOX』はSony Music Shop限定で販売された。

引退宣言は週刊誌に不倫疑惑をかけられての反論会見に近い形で行っており、不倫釈明と引退理由の話の中で語っていた妻KEIKOへの介護疲れもKEIKO側親族に反論される形で異なる事実が明らかにされてしまい(KEIKOは小室が言うよりももっと回復している、そもそもKEIKOは実家にいて小室はほとんど介護などしていないと後に反論された)、音楽活動も2019年には水面下で名前を出さずに企業向けに活動を再開し、2020年には乃木坂46、浜崎あゆみに相次いで曲提供する形で表に出る作家としてもあっさり復帰している。

小室哲哉の楽曲コンピ盤は96年『TK MILLION WORKS』、00年『ARIGATO 30 MILLION COPIES-BEST OF TK WORKS』、06年『THE GREATEST HITS-小室哲哉作品集-s』『THE GREATEST HITS-小室哲哉作品集-a』、11年『TK BOX〜TETSUYA KOMURO HIT HISTORY〜』とあったが、今作が最大規模となる。ヒット曲重視ではなく歴代の提供曲から満遍なく選曲しているため、特に大ヒット曲が集中していた90年代はヒット曲でも未収録になった曲が多数存在する。90年代のヒット曲をなるべく多く聞きたいのであれば以前のコンピ盤の方がいいかもしれない。

『T』『K』でどちらにも収録されているアーティストもいるが、トップヒット級のアーティストでもTRFは『K』だけ、安室奈美恵は『T』だけとなっている。また『T』『K』どちらも時系列になっているが、もっと厳密には『T』DISC-1→『K』DISC-1→『K』DISC-2→『T』DISC-2→『T』DISC-3→『K』DISC-3→『T』DISC-4→『K』DISC-4で全曲が時系列になるように構成されている。

これに伴い『T』は80年代、90年代後半、00年代、10年代前半を中心とした構成になっている。特にDISC-1が80年代だけになっているところが特色だろうか。

安室奈美恵は今作のみ、TRFは『K』のみに収録されている。globe、華原朋美、hitomi、H Jungle with t辺りは両方に収録しているのにこれは一体…。そしてやはりこの辺りの小室ファミリーと呼ばれた90年代のトップ級の人たちはあの曲が無いこの曲が無いとなりがちで、安室奈美恵が3曲だけなのはやはり少し不満が残る。特に沖縄サミットのテーマソングで2000年の代表作として「NEVER END」は小室史の中でも外せない自信作の1つだったと思われるが…今はそうでもないのか？

DISC-1は80年代のみに集中。最初期のレアな提供曲が満載で、この時期はプロデュースではなく、提供作家の1人といったポジションで作曲だけしている曲が中心で他のTKプロデュース期とは異なる。今でもヒット曲として有名なのは「My Revolution」「Get Wild」といったところで、リアルタイムじゃないと、もしくはリアルタイムでも知らないかもしれない曲ばかりだが、まだTKがブランド化していない1人の作曲家としての小室哲哉の初期キャリアを味わえるという意味では貴重かも。

DISC-2はなんと95,96年の2年間だけ。TKプロデュースのブランドが確立して絶頂期といえるヒット曲が並び、ちょいちょいあまり売れずに当時は埋もれた曲も混ざっているが、どれもがこれぞTK。まあTM NETWORKから応援しているリスナーは90年代のTKはまた少し違う感覚を持っているんだと思うんだけど、80年代を知らずにTKファミリーからヒットチャートに親しんだ世代としてはまさにこれぞ少年時代のヒット曲群であり、懐かしく楽しめる。

DISC-3も引き続きブームの勢いが続くが、後半にかけて一気にヒット曲が激減してブームが去っていく。安室、globe、華原朋美(これはまた別の恋人関係の破たんが大きい)を個別に聞いた方がもっと明確に非売れ線にマニアックに走っていくのが分かるが、今作では極端にR&Bに走ったり、その後EDMに傾倒していったのはそんなには反映されていない。特にEDM傾倒期に関してはすっ飛ばされていてDISC-3最後からDISC-4冒頭まではなんと10年近くもすっ飛ぶ。

DISC-4は金銭問題でやらかして逮捕されて復帰後。エイベックスMAX松浦に肩代わりしてもらい、ただひたすらに求められる楽曲を愚直に作り続けていた…といった印象。新世代とのコラボも積極的に行っているが、ここまで来ると特に提供の際はマニアックな方向性に走るよりもヒット曲然とした小室サウンドを求められるままにやっている印象でパッと聞きは90年代のようにキャッチーで聞きやすいTKっぽい感じなんだけどいかんせんどれもこれもそんなにヒットしない…というブームが去った後の難しさも感じられる。ソロ作品ではもう少し果敢に挑んでいる感じではあるんだけど、コラボ相手が突拍子も無さ過ぎる感じはある。いきなり玉置浩二が出てきて驚いた。

率直にDISC-4になると知らない曲ばかりでヒット曲のコンピ盤として聞いた場合はこの時期こんなに選曲する必要ないだろうとは思ってしまうんだけど、小室哲哉のヒストリー作品として見た場合はこの時期もこれだけの事はやっていたという記録として価値があるんじゃないかと思う。そんなに印象には残らないけど、EDMに傾倒してマニアックすぎたglobe後期とかに比べても聞きやすいし、ヒットはないが別に悪くはない。

リマスターされていないとか、リマスターがしょぼいという声も散見されるが、マスタリングエンジニアがトップクレジットで目立つように記載されているのでリマスターは確実にされている模様。ただ80年代から10年代までを一気にまとめているのでばらつきが出ないように整えたといった感じで、90年代のおなじみのヒット曲が当時よりも迫力の増したいかにもリマスタァァァァ！！っていう感じのド派手な音で聴けるわけでは全くないので90年代のヒット曲がそんなに迫力増しで聞こえないのが一部不評の理由なのかなと。ただ80年代の曲がそんなにしょぼく聞こえないし、全体に無理に持ち上げた感じでもないし、そもそも電子音主体の楽曲の4枚組としては連続して聞いても疲れないバランス重視でまとめていて悪くないんじゃないかなと思った。

　　　BOX　

印象度★★★☆☆

2021.2.12更新

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