ウルヴァリン:SAMURAI
2013年公開。『X-MEN』シリーズの6作目で、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』に続くウルヴァリンシリーズの2作目。『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』は過去を描いたスピンオフ作品で、まだ『X-MEN』1作目に至るまでにも続きが作れそうな余韻を残したまま終わっていたが、今作はその続きではない。今作は時系列としては『X-MEN ファイナル・ディシジョン』の直接の続きとされている。ウルヴァリンは『X-MEN ファイナル・ディシジョン』でフェニックスと化したジーンを止めるためにフェニックスを殺害。愛するジーンを自ら殺した事がきっかけで世捨て人になって放浪している…という設定で物語が始まる。またウルヴァリンが見る夢の中でジーン(ファムケ・ヤンセン)が再出演している。今作での過去シリーズとの共通キャストはヒュー・ジャックマンとファムケの2人のみ。
今回は日本が舞台となっており、大半のシーンを日本で撮影。登場人物も日本人がメインとなっており、ほぼそのまま日本人が起用されている。ただし日本国内で俳優として地位を確立していたのは真田広之くらいで、メインヒロインとなるTAO、福島リラの2名は本業がファッションモデルでこれがほぼ初演技となっている。
1945年、原爆投下直前の長崎。空襲での壊滅を悟った捕虜収容所では青年将校ヤシダが捕えた捕虜も全員逃がしていた。先輩たちは切腹。潜んでいたウルヴァリンにも逃げるように告げて切腹しようとしたヤシダを止めたウルヴァリンはそのまま原爆の爆発から身を挺してヤシダを救った。
そして現在。『X-MEN ファイナル・ディシジョン』でフェニックス化したジーンを殺害したウルヴァリンは罪悪感とジーンの悪夢にうなされカナダで放浪生活を送っていた。そこにユキオ(福島リラ)と名乗る女忍者が登場し、ヤシダが死の間際にいてウルヴァリンを探していると告げる。ヤシダは戦後に矢志田産業を立ち上げ国内トップクラスの超大企業へと育て上げていた。護衛としてユキオ含めて忍者集団が仕えているという。日本へやってきたウルヴァリンは死の間際にいたヤシダから「あの時助けてもらったお礼に不老不死の生き地獄から解放してやる」「治癒の能力は移植可能だ」と告げるが、ウルヴァリンは返事をしなかった。その後、再びジーンの悪夢を見ていたウルヴァリンが目覚めるとヤシダは死亡していた。
葬儀の日、ヤクザ軍団がヤシダの孫娘であるマリコ(TAO)を襲撃。危機を察して立ちふさがろうとするウルヴァリンだが何故か再生能力が消滅しており、劣勢となってしまう。何とかマリコを逃し、1人で大丈夫だと突っぱねるマリコを放っておけず帯同するウルヴァリン。長崎へと逃亡していくが、やはり再生能力なしが響いてダメージが蓄積。マリコを奪われてしまう。ユキオと合流したウルヴァリンはマリコ奪還のため再び立ち上がる。マリコがヤシダの後継者に指名されていた事からマリコを消そうとしていたのは実の父のシンゲン(真田広之)だった。しかしシンゲンの元にヤシダの主治医だったDr.グリーンが登場しそれぞれの目的が錯綜した展開に…。
今作ではウルヴァリンの内面が深く描かれており、また再生能力による実質不老不死である事への苦悩、その能力を失っての苦闘が描かれる。ウルヴァリンの戦闘方法は基本的に爪を生かしての突撃でパワー攻撃一辺倒。いくらケガしても瞬時に再生するのでぶっちゃけあまり防御の事を考えなくていい。他の奴なら無策無謀な突進でもウルヴァリンにとっての突撃は最強無敵だったわけだが、再生能力が失われるとそうもいかない。これがまたなかなか熱かった。
ただそうなる過程をちょっと曖昧にぼかしたので、見ている方にもいつそれを誰にやられたのかが良く分からない。もう少し経過するとそれを仕掛けた相手が判明するがそれをいつ施したのかは終盤まで不明で少し分かりにくかった。ジーンとキスしている夢を見ている時に仕込まれていたのか…。
また敵が誰なのか、目的が何なのかが分からず、マリコの父である真田広之も、ウルヴァリンの能力を奪った今作唯一のミュータントも、ヤシダも、パワードスーツ「シルバーサムライ」も、忍者軍団も1枚岩ではない。この辺りなかなか目的が見えてこなかったのでそれが逆にスリリングだった。ただ終わってみれば忍者軍団の奴だけは何がしたかったのかさっぱり分からなかった。しかもコイツと政治家役の人はアジア系なだけで日本人じゃないので日本語がおかしいし。
また洋画なのに全面的に日本が舞台というのが新鮮だった。ガヤの台詞とか当然日本語だし、マリコとユキオ、忍者軍団とか真田広之とかウルヴァリン以外との会話は当然日本語。字幕映画なのにこんなに日本語が飛び交って字幕不要になる映画というのは珍しい。そしてウルヴァリンがマリコを助けて移動中に「ここに泊まるぞ」と言って知らずに入ったのがラブホテルだったり、長崎ではウルヴァリンの和服姿が出てきたりと、ウルヴァリン×日本文化の異色な組み合わせはなかなか貴重な映像だと思う。かなり制作サイドが日本をリサーチしたらしく、よくある中国などアジア全域がミックスされたような変な雰囲気はそこまで強く無かった。
もちろん分かりやすく誇張されているので、ヤクザが街中で大乱射しまくったり物凄い身体能力でアクションしたり、護衛が忍者だったり、対岸で原爆が落ちた設定なのにあっさり外に出て無事なウルヴァリン&ヤシダの描写が原爆軽く見過ぎだったり、長崎に行った時はどう見ても夏の陽気なのに最終決戦で山間部の村に出向くと吹雪になってたりとちょいちょい日本人的なツッコミはあったが、全体的にはそこそこ面白かった。
何よりマリコの日本的な美しさ、ユキオの忍者的なアクションが印象的。演技初経験とのことだったがむしろ日本人が知っている役者じゃなかったからフラットに見ることができたのも良かったかも。しかしマリコさん、最後「もう葬ったから」って容赦ねぇな…。まあ子供の頃から散々聞かされた友情話のオチがこんなんじゃ完全に見切るのも分からなくないけど。恩を仇で返された事になってしまうのでストーリーとしては驚きはあったけど、せっかくいい奴っぽく描いていたシーンが全部無駄になったのは釈然とはしないかも…。
そしてエンドロールの後には、次回作へ繋がる伏線が!これがまた熱い
コレクターズエディションBlu-ray 2018年Blu-ray ZEROとの2枚セットBlu-ray
★★★★☆