猿岩石 シングルレビュー
90年代日テレには「進め!電波少年」というバラエティがあった。数々のヤラセや批判を受けながらもネットが発達しておらず、批判が今ほど一体感を持たなかったユルイ時代、なんだかんだで人気を誇り数々の人気コーナーが生まれた。その1つが無名だった新人お笑いコンビ猿岩石が強制的にやらされた「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」。文字通りヒッチハイクでユーラシア大陸を横断してロンドンまで行くという無謀かつ地味に始まったこの過酷な企画がバラエティの枠を超えた感動ストーリーとして大人気爆発。ゴール時にはゴールデンで放映され、帰国時には大フィーバーが起こった。その後アメリカをドロンズ、新人俳優の伊藤高史と香港DJのチューヤンが即席で朋友というコンビ名でアフリカ/ヨーロッパを横断するヒッチハイク企画が続いた。猿岩石は帰国直後の96年12月に秋元康プロデュースで歌手デビュー。まさかのミリオンヒットを記録し、本業のお笑いではウケが悪く歌手活動をメインに行っていく事となった。しかしそのフィーバーは長く続かず、CD売上は出すたび低下。99年初頭を最後にリリースは停止。その後広島のローカルタレントとして局アナとKEN-JIN BANDを結成し、再び歌手活動を開始していたらしいが、そちらに関しては全く把握していなかった。結局森脇の引退で猿岩石は解散。残された有吉はその後、毒舌あだ名がウケて奇跡の再ブレイクを果たして現在に至る。森脇はサラリーマンになり転職を繰り返していたが、2015年秋頃に芸能界復帰を果たしたが、2人の共演は実現していない。今回は猿岩石名義での全シングルを振り返る。
楽曲はJ-POP直球ど真ん中。フォークロック色が強い楽曲が多く、提供陣の豪華さ、森脇の歌のうまさ(有吉の声は特に初期ほどソロパート以外はほとんどコーラスレベル)もあり、楽曲クオリティは極めて高い。当時そこにハマり、99年にリリースが停止するまで聞き続け、当時の友人たちに猿岩石まだ聞いてるって…と失笑、嘲笑されまくったものだった。
なおプロデュース名義は秋元康だが、作詞時は高井良斉というペンネームを使用していた。このため実はリアルタイム時はなんか多くの曲を高井良斉って人が作詞してるけど他で見かけない名前だな…と思っていてそれが秋元康だと知らなかった。
1st 白い雲のように
96年12月21日
作詞:藤井フミヤ、作曲:藤井尚之というF-BLOOD提供曲。旅を連想させる曲の内容がウケた事もあって初登場23位から2位まで上り詰めてミリオンヒットを達成した。森脇引退前は当時はたまにしか無かった懐古番組でたまに出てきてこの曲を歌う機会も何度かあった。森脇引退後は番組によっては森脇にモザイクがかかったり、完全に消されたりするが、その扱いは一定ではない。またヒット曲ということもあり、有吉が再ブレイクしてからはこの曲のPVが流れる機会も増えた。サビの歌詞はまさにその後、消えていった猿岩石の未来をドンピシャで言い当てており、今となっては達観しまくった曲にも聞こえる。1番が終わるとそのまま間奏でラストサビになってしまい、最後にAメロに戻って終了するという曲構成がちょっと変わっていて短い。基本的にこの曲しか現在は知られていないが、当時から現在に至るまで、この曲もまあいいけど他にもっといい曲がいくらでもある、という印象は一貫している。歌詞カードでは唯一この曲のみ2人の歌い分けパートまで記載されている。有吉にも均等にソロパートはあるが、サビ部分など2人で歌っているパートでは基本的に聞こえるのは森脇:有吉で8:2くらいのイメージ。主旋律を森脇が歌って薄いコーラスを入れているのが有吉といった感じなので、TVなどでサビが流れる際に聞こえるあの声は森脇のものだったりする。
★★★★☆
1stアルバム『まぐれ』
1stベスト『通信簿-SARUGANSEKI SINGLES-』
2ndベスト『ゴールデン☆ベスト 白い雲のように』C/W どうして僕は旅をしているのだろう
さらに旅に焦点を当てた高井良斉(秋元康)の作詞によるアコースティックバラード。後半には音数も増えて盛り上がっていくが、かなりゆったりしている上に長いのでどうにもパッとしない。
★★☆☆☆
1stベスト『通信簿-SARUGANSEKI SINGLES-』
2ndベスト『ゴールデン☆ベスト 白い雲のように』
2nd ツキ
97年3月19日
作曲はTHE ALFEE高見沢俊彦。作曲のみなので、上戸彩やZONEなどに提供した際のような高見沢色に染まった感は皆無。せいぜいサビでけっこう高音を張る部分がそれっぽい気がする程度。ポジティブな応援系フォークロックといった感じで、これも何気に40万枚のヒットを記録した。ほとんど無責任なまでにやるだけやったらなんとかなるだろうとノー天気に歌われるが、下手に思い悩むよりはこのくらいノー天気な方が確かにツキは味方するのかもしれない。5周くらい周って改めてこの歌詞の意味を理解している今日この頃。
★★★★☆
1stアルバム『まぐれ』
1stベスト『通信簿-SARUGANSEKI SINGLES-』
2ndベスト『ゴールデン☆ベスト 白い雲のように』C/W NEWS
同じく作曲のみ高見沢俊彦。こちらはシリアスなバラードナンバーになっており、TVの向こうの悲惨なニュースに対して自分には全く関係が無いという一見薄情な視点ながら実際のところ多くの人がそうである部分に踏み込んだ歌詞がなかなか秀逸。何故かことごとくアルバム収録を見送られて収録はシングルオンリーなのがもったいない。
★★★★☆
アルバム未収録
3rd コンビニ
97年5月8日
ファミリーマートのCMタイアップにより、ジャケットも明確にファミマの文字は写っていないがどう見てもファミマになっている。タイトルもそのままズバリであり、実に忠実なコンビニタイアップ。内容はコンビニレジのお姉さんに片想いしたが、彼女には恋人がいたという一報的な失恋を描いている。Bメロで有吉のソロがあるものの、サビの半分は森脇のソロになっておりかなり森脇の比重が高い。かなり歌い上げる曲なのでこの判断が正解だと思う。当時あまりヒットシーンで見かけなかったR&B風のアレンジが猿岩石の中では珍しい。それこそ数年後に流行るR&B系の流れに通じるところがあり、時代を先取り?もう少しクールなアレンジにしたらCHEMISTRY辺りが歌ってても違和感がない。
★★★★☆
1stアルバム『まぐれ』
1stベスト『通信簿-SARUGANSEKI SINGLES-』
2ndベスト『ゴールデン☆ベスト 白い雲のように』C/W バイトの最後の日
作曲が広瀬香美。CMタイアップ用に用意したが落選してC/Wに回る事になったのか?と思える程こちらもコンビニを意識した内容。ていうか当時の広瀬香美に提供してもらってC/Wに回すとか判断がすげぇ。バラードサイドの広瀬香美といった感じで、一般イメージの広瀬香美っぽさはほとんど感じられないし、「コンビニ」がA面になったのも納得ではあるけど、なかなかいい曲。
★★★☆☆
1stベスト『通信簿-SARUGANSEKI SINGLES-』
2ndベスト『ゴールデン☆ベスト 白い雲のように』
4th 君の青空
97年6月18日
猿岩石 with バーサス名義。バーサスというのは後輩女性コンビ芸人(売れずにすぐ解散)で、コーラス参加している。なおアルバムバージョンではバーサスのパートも全部猿岩石で行った別アレンジバージョンでバーサスは参加していない。歌詞と一緒にコードが併記され、ジャケットでは有吉が恐らく弾けそうにないアコースティックギターを抱えている。そのイメージ通りにアコースティック色が強いポップナンバー。最初から最後までサビのような前向きさと明るさが気持ちいい。結果的に最後のトップ10ヒットとなったが…この時点でランクダウンもかなり早くなっていた。トップ10入りしたと言っても知名度はかなり低そうだ。
★★★★☆
1stアルバム『まぐれ』(Album Version)
1stベスト『通信簿-SARUGANSEKI SINGLES-』
2ndベスト『ゴールデン☆ベスト 白い雲のように』C/W 声が聴こえる
野猿で秋元とコンビを組んでいた後藤次利が作曲し、亀田誠治が編曲。当時より少し後になってから豪華に思える制作陣。明るいポップロックスタイルで猿岩石の王道。関西のポケベルタイアップがついていたということでこれまた寄り添ったタイトルにしている辺りの高井=秋元の手腕もバッチリ。
★★★★☆
1stアルバム『まぐれ』
1stベスト『通信簿-SARUGANSEKI SINGLES-』
5th オエオエオ!
Bro.KORN作曲によるHIP HOPテイストの強い楽曲。1曲のみ525円、アルバムと同時発売された。アルバムでは何故かど真ん中でリミックスで収録されるといった謎の事態となっている。やるならボーナストラックでやれよ…。なんだかよく分からないが騒げ!盛り上がれ!といったユル〜いノリで流れに身を任せろといった雰囲気。オエオエオというのも特に意味は無く、単なる掛け声である。この頃になると有吉の歌唱力が急上昇しており、今までちょっとか細かったのにこの曲では随分しっかりした歌声を聞ける。
★★★★☆
1stアルバム『まぐれ』(RE-MIX)
1stベスト『通信簿-SARUGANSEKI SINGLES-』
2ndベスト『ゴールデン☆ベスト 白い雲のように』
6th Christmas
97年11月5日
当時ソロデビューして大ヒットしていた河村隆一の作詞作曲。この直後に自身のアルバム『Love』で早々にセルフカバーしている。クリスマスソングなのに発売が早すぎた上に、人気が急速に衰えていたため、トップ20にも入れず、クリスマスシーズンを迎える遥か前にチャートからは消え去ってしまった。名バラードには違いないが、サビでも盛り上がりに乏しく、アルバムの名曲といった感じ。当時河村隆一は飛ぶ鳥を落とす勢いだったとはいえこの曲をヒットシングルとして狙っていくには厳しかったか。サビの音程が低めになっているので主旋律を有吉が歌っており、森脇は上でハモるというA面では初のパターンになっている。
★★★☆☆
1stベスト『通信簿-SARUGANSEKI SINGLES-』
2ndベスト『ゴールデン☆ベスト 白い雲のように』C/W 少年の羽根
1stアルバムからのシングルカット。猿岩石王道の曲だし、かなりいい曲ではあるが何もシングルカットしなくても…。そろそろ売れなくなってきてC/W用意するのも面倒だったので単なる穴埋めか…?
★★★★☆
1stアルバム『まぐれ』
1stベスト『通信簿-SARUGANSEKI SINGLES-』
7th 君に会いに行こう
98年2月4日
あまりに売れな過ぎてヤバくなってきたのでここからはレンタルではなく購入支援しようと思い、買い始めた。ミスチルの「ニシエヒガシエ」と同時発売だったのでミスチルファンの友人に散々馬鹿にされたものだったが、彼は「ニシエヒガシエ」を聞かずに購入していたので翌日相当な衝撃を受けたらしく「終わった」と告げた…という記憶が強い。売れなかったとはいえエースコックのCMタイアップでけっこう長期間使われていたのである程度は知られてそうな気もするが…。とりあえず王道中の王道の猿岩石ナンバーといった安定感がある。当時は何故かこの曲が猿岩石最大の名曲だと思っていた。現在そこまでダントツじゃないけど、「白い雲のように」以外の曲知らない人にとりあえず猿岩石はこういう曲をやっていたと教えるには最も適した曲だと思う。
★★★★★
1stベスト『通信簿-SARUGANSEKI SINGLES-』
2ndベスト『ゴールデン☆ベスト 白い雲のように』C/W Love letter
ラブレターを渡すまでのモヤモヤした心境をひたすら歌った片想いソング。森脇のしっかりした歌声ではこのもどかしさが伝わらないと判断したのか、この曲では有吉メインとなっている。いつもAメロかBメロで有吉のソロパートはあるものの、サビでは森脇の声ばかりだったのがその逆でBメロで森脇が登場するがサビでは有吉メインいうかなり新鮮な聴感が味わえるレア曲だ。
★★★☆☆
アルバム未収録
8th 昨日までの君を抱きしめて
98年3月18日
佐野元春による作詞作曲。当時佐野元春の名前は全く知らず、この当時親に「サムデイっていうヒット曲がある」と教わった事と04年の映画「世界の中心で愛をさけぶ」劇中で使われた事がきっかけで、00年代後半になって佐野元春を聞いているので10年近い長さでの伏線になっているのか…。当時は何だか変わった曲だなと感じたのを記憶している。さわやかなんだけど明確なサビが無くてさっぱりしているというか。聞き込む事でかなり好きな曲になった。なお佐野元春は「シーズンズ」という全く別タイトルに変えてセルフカバーしている。
★★★★★
1stベスト『通信簿-SARUGANSEKI SINGLES-』
2ndベスト『ゴールデン☆ベスト 白い雲のように』C/W 白い雲のように〜'98 Piano Strings Version〜
ピアノ・ストリングスという時代を先取りしたワードが飛び交う服部隆之大先生によるリアレンジ。シンフォニックになったミリオンヒット曲を堪能せよ!といったところだが、印象はかなり無難。それどころかボーカルテイクもこれ使い回しなんじゃないのか…正直苦し紛れの企画にしか思えない。
★★★☆☆
アルバム未収録バージョン
9th 初恋
98年6月24日
JUDY AND MARYのTAKUYA作詞作曲。当時TAKUYAがやっていたROBOTS名義の編曲になっているので、アレンジまで同一アーティストによる完全に提供というのはこれが唯一。さわやかではあるんだけど言葉数が多かったり、意外とサビでも低音で攻めるところなど少し王道から外した感もあるなかなか面白い曲。ただもっと直球で純情な曲が来ると思ってたのでこれよりも「Love letter」の方が「初恋」と名付けるにふさわしい歌詞内容だった気はする。2ndアルバムを出せずに活動終了したため、A面ではこの曲のみ10年以上の長きにわたってアルバム未収録のまま放置されていた。
★★★★☆
2ndベスト『ゴールデン☆ベスト 白い雲のように』C/W 明日の夜は何してますか?
競馬のCMタイアップがついており、タイトル部分のAメロ冒頭が使用されていた(その後急にハイテンションに「けぇいばぁぁぁ!!けぇいばぁぁぁ!!」とか別の曲になってしまうCMだった記憶がある)。このためサビよりもAメロド頭の知名度が高いという珍しい曲となっている。シンプルな夏の片想い系バラードナンバー。1コーラスの中にソロパートを配置するのではなく、サビ以外の1番平メロは有吉メイン、2番平メロは森脇メインで歌っている。
★★★★☆
アルバム未収録
10th My Revolution
99年1月1日
渡辺美里の代表ヒット曲のカバー。昼ドラタイアップもついたので順位は最低ながら前作よりは粘った。80年代全開な原曲を大きく改変せずに現代風、猿岩石風にアレンジし直した感じで、2人の素直な歌唱も好感触。Bメロでの有吉の歌唱も初期から大いに成長した事を感じる。元々発売当時は懐古な風潮も無かったため、原曲を聞いたことも無かった。このため渡辺美里バージョンの方を後追いで聞いてそのサウンドの古さにアレ?ってなった。99年当時、86年から13年しか経っていなくてももう80年代のサウンドは時代錯誤にしか聞こえなかった。このためスタンダードなサウンドに仕上げた猿岩石バージョンの方がなじみがある。あまりそういうリスナーいないと思うんだけど。
★★★★★
カバーミニアルバム『1986』
2ndベスト『ゴールデン☆ベスト 白い雲のように』C/W 最初の夢 最後の夢
シングル最終楽曲がこのタイトルというのが何とも意味深。サビでバンドサウンドが爆発するタイプのバラード曲で、猿岩石の楽曲の中ではかなりロック度が高い。最後まで名曲を量産し続け、歌唱力も上がっていただけにこれで終わってしまったのは残念だ。というかネットも無かった当時はこれで終わりだと思わず次の情報をひたすら1年以上待ち続けたんだけどな…。
★★★★☆
アルバム未収録