野猿 シングルレビュー
TBSでSMAP中居と石橋貴明がやっていた『うたばん』、これをパロッた「ほんとのうたばん」がフジテレビの『とんねるずのみなさんのおかげでした』で97年に始まった。その内容は当時のアーティストのPVをとんねるずがモノマネしてオチをつけて再現するというコント的な内容で現在も続く「食わず嫌い」と双璧を成す人気コーナーとなった。木梨が河村隆一の「Glass」のPVをパロってサビの高音で奇声を上げると同時にセットが倒壊して転がり落ちていくとか、川本真琴の「1/2」で同様に屋根の上から転がり落ちていくとか未だに爆笑した記憶が残っている。この中でKinKi Kidsのパロディとしてバックで番組スタッフを踊らせ、ジャニーズシニアと名付けたのがきっかけで何故かその部分を拡大。ジャニーズシニアにダンスレッスンをつけて本格的にデビューさせようという方向に転がり始めた。当時日本初のW杯出場を決めた岡野選手のあだ名「野人」から「野猿」と命名。ボーカル4人(平山、神波、成井、飯塚)を選抜するが、さすがにスタッフだけでは売り物にならないという判断がくだり、秋元康の発案でとんねるずも加入することが決定。飯塚はダンサーになり、とんねるず+平山、神波、成井の5人ボーカル、8人ダンサーの13人でのデビューが決まった。2ndシングルまでにダンサー2人が投票企画最下位で脱退し、11人グループに。3rdシングル以降は成井がダンサーに移動し、とんねるず+平山、神波の4人ボーカルが基本となった。
番組は非常に盛り上がり、一定以上の固定ファンを獲得して3年活動したのは番組の企画モノユニットとしてはかなり続いた方となる。ただ同時期に日テレでやっていたウッチャンナンチャンによるポケビ、ブラビがミリオン級のヒットを記録していた中で、10〜20万程度というのはこの当時の売上レベルを考えるとさほどヒットしていたとは言い難い。野猿の曲を記憶している人もわりと限定的なんじゃないかと思う。
1st Get down
98年4月29日
番組はたまに見る程度だったのでいつの間にかデビューしていたという記憶がある。O社ではギリギリのトップ10入り(10位)であり、騒いでた割には厳しい結果だなと思ったのを覚えている。パロディから始まった企画だけにもっとバラエティ色が強いポップな曲になるのかと思いきや、普通にカッコいいダンスナンバー。当時のヒットチャートの中ではちょっと地味だった気がする。個人的には今作だけはシングル盤を手に取っていない。
★★★☆☆
1stアルバム『STAFF ROLL』
ベスト『撤収』
2nd 叫び
98年9月17日
一気に2位にまでランクアップし、一段知名度を上げた代表曲の1つ。前作がちょっと分かりにくかったせいか、今作ではもっとヒットさせていこうという野心を感じる。Wow Wowパートを盛り込んだサビといいキャッチーな側面を打ち出していて、野猿のシングルの中ではインパクトはかなりあると思う。個人的には野猿といえばこの曲か「Be cool!」。
★★★★☆
1stアルバム『STAFF ROLL』
ベスト『撤収』
3rd SNOW BLIND
98年12月16日
前作の好評を受けてリリースしたウィンターソング。今作から成井がダンサーになったので、とんねるず+平山、神波の4人ボーカルで固定される事となる。暑苦しかった前作をウィンター仕様にした感じでやや小粒ではあるんだけどキャッチー路線で聞きやすい。季節外にあまり聞く気はしないんだけど、寒さを感じ始めた頃に聞くと改めていいなと毎年思う。そんな流れもあってまだ8センチCDが中古で普通に売っていた年代前半頃になって今作だけ中古で買ってまだ家に置いてある。
★★★★☆
1stアルバム『STAFF ROLL』
ベスト『撤収』
4th Be cool!
99年2月24日
クールに決めつつもキャッチーという初期路線の集大成。一般的な曲構成であるサビ歌って終わりではなく、最後はAメロに戻ってくる構成。サビだけでなくAメロもけっこう耳に残る楽曲で隙が無い。ヒット性との兼ね合いを考えると単にポップなだけではなくトラックはカッコいいし、かといってトラック重視や雰囲気重視でも無く、さらには野猿の特徴である男らしさ、オッサン臭さも適度なバランスで保たれているなど、全体のバランス感覚が絶妙。個人的にはこれが野猿の最高傑作だったと思う。
★★★★★
1stアルバム『STAFF ROLL』
ベスト『撤収』
5th Selfish
99年8月4日
1stアルバムが60万近いヒットを記録。他局のバラエティ企画モノであるポケビやブラビはアルバムが売れなかったが、アルバムが最高売上となった野猿はかなり本格的にアーティスト認知されていたのかもしれない。それを受けてなのか、メンバースキルが上達したのか、泥臭さや男らしさをさらに打ち出していったような曲。クールなラップが入ったり、サビがあまりキャッチーではなく、全体にカッコよさ重視だったりと、前作までに比べるとかなり分かりにくい。ピークを越えてしまい、更なる飛躍が出来なかったのはこの辺りに原因がありそうだ。ただかなりハードなイメージがあったんだけど、改めて聞いてみたらそうでもなくて普通にカッコいいサウンドだった。
★★★☆☆
2ndアルバム『evolution』
ベスト『撤収』
6th 夜空を待ちながら
99年11月10日
最後の8センチシングル。一転してメロウでポップな楽曲。アルバムや前作など野猿のカラーイメージは基本的に「黒」であったが、今作では「SNOW BLIND」以上に「白」を打ち出した。ダンス含めて魅せるというのとは異なり、これまでになくポップでさわやかな曲調で"歌モノ"としてヒットを狙いにいったような感じ。自信作だったのか、かなり楽曲の良さを前面に出したプロモーションが取られ、宇多田ヒカルと同時発売で1位獲得不可能であるにも関わらず、2〜4位なら1人、5位以下なら2人脱退という企画まで決行。しかし、既に番組の盛り上がりは内輪ノリに向かっており、煽りプロモーション効果は皆無。前作から全く売上に変動が無く、週の悪さもあって初登場以外の楽曲にすら及ばずにデビュー作に続く低順位である6位になってしまった。これを受けてくじ引きをした結果、メインボーカル平山、神波が揃って脱退となってしまうなど超絶にグダグダになってしまった。あまりのグダりっぷりに飽きてきてしまい、この頃には番組もほとんど見なくなってしまったが、曲だけは聞き続けた。野猿のシングルの中ではずば抜けてさわやかでこれだけ方向性が違っており、コケたとか大衆に迎合しようとして路線を変えた失敗作とも見られがちだけど、個人的にはけっこう好きな曲ではある。
★★★★☆
2ndアルバム『evolution』
ベスト『撤収』
7th First impression/野猿 feat.CA
00年2月2日
ここからマキシシングル。松たか子とユースケサンタマリアが主演したドラマ「お見合い結婚」OP。主題歌は松たか子が自ら担当していたが、OPとしてねじ込み、ドラマにも少し出演するなど野猿史上最大のタイアップというお膳立てがされた。ここで新たに音声スタッフのCAを召喚。カラオケでの歌唱力を見た石橋が熱心に説得したが、本人は全くやる気が無く、押される形で何とか承諾。前作時にグダっていた平山、神波の脱退問題もCAが2人の復帰を条件に引き受けるとしたことでようやく収束させた辺りはバラエティ的にはうまくやったな、と。メインボーカルは女性ボーカルのCAであるため、男性4人のボーカルはコーラスやサビのブリッジ部分など限定的。トラックもチキチキタカタカと軽めに響いていて当時流行っていたJ-R&B流れのクールな方向性になっており、なんともアンニュイなCAのボーカルともマッチ。不思議な魅力を醸し出した楽曲に仕上がった。結果、野猿単独での最高売上を15万近く上回る最大ヒット作となった。当時あまりこういう曲調に馴染めていなかったんだけど、改めて聞くと完成度が高いなと思う。
★★★★☆
2ndアルバム『evolution』
ベスト『撤収』
8th Chicken guys
00年5月31日
再び元の男臭い路線に戻してのリリース。サビよりも冒頭やラストのガッテンゴーガッテンゴーライドンライドンライドンライドンファーンキガァイ♪とかサビ終わりで石橋がウオオオ!と叫んだり(一方の木梨はウィーオォーーと機械みたいな叫び方してるのが面白かった)する部分の方が印象的。やや荒々しい歌い方といい、なんかやたら煌びやかな衣装だったこともあり、派手な印象がある。シングルの中で唯一明確に前向きな鼓舞ソングになっているが当時はあまり響かなかった。「叫び」や「Be cool!」くらいのポップ性ももう少し戻してほしいなと思ったりも。あと2nd以降全作リアルタイムでレンタルはしていたもののまだカセットテープ録音だったので、CD-R化して現在も保存してあるのは今作以降。
★★★☆☆
ベスト『撤収』
9th 太陽の化石
00年10月12日
ダンサーの網野が付き人に降格し、放送作家の浅野吉朗が新メンバーとして1曲限定で加入…しているがCDにはどっちみち参加していない。テンポを落としつつ、メロウではなく、トラック重視というヒットチャート的にはかなり地味な印象の楽曲。これまでの固定ラインだった13万台から半減、初の10万割れという不振に陥ったのも納得だが、それでもTVの企画で始まり、ダンス素人のオッサンたちがここまでの境地に達したという意味ではけっこう驚異的な1曲。聞き込みがいは確かにあるんだけど、ちょっとマジすぎるというか、最終的にはそのマジさがもっとお気楽に見ていた視聴者離れを引き起こした気はするけど。
★★★☆☆
ベスト『撤収』
10th star/yaen front 4 men feat.saki
01年1月24日
野猿の妹分として結成した「女猿」から当時18歳のsakiをボーカル参加させ、ダンサーチームは不参加。sakiをメインボーカルにしてとんねるず+平山、神波の5人だけという完全なボーカル限定楽曲。sakiの歌声はCAとは全く異なり、ディーバ系でかなりパワフルだったが楽曲もそれを生かした本格的なものとなっていた。確かに当時のヒットシーンは一気にカオスになり、キャッチーなものがとりあえずヒットしていた時代からこういうクールなものや洋楽テイストなものがウケやすくはなっていたと思うけど、バラエティ発としてはやりすぎた。個人的にはsakiのパワフルボーカルがちょっと苦手でトラック自体のカッコよさは後年になって分かってきたけどどうにも馴染めない1曲。CAの時以上に男性メンバーがバックコーラス的で存在感が無いし(大サビで平山がちょっと歌い上げる程度)、そもそも野猿の曲という感じがしない。なお「女猿」はせっかく作ったのにほとんど生かせないままに消滅、sakiは野猿撤収ライブではCAの分もカバーした。
★★★☆☆
ベスト『撤収』
11th Fish Fight!
01年2月28日
前作から1ヵ月。撤収が決定してのラストシングル。今作は秋元康が作詞せずに作編曲の後藤次利が作詞まで担当。回転寿司で食われたいフナの哀愁というギャグ路線(フナが自ら食われたいと願うなど人間視点の身勝手な歌詞だけど)で、パフォーマンスも全員魚のカブリモノをしたままという最後の最後にしてバラエティ色全開の飛び道具ソングとなった。あまりにマジな方向に行き過ぎていた中で、この振り切ったギャグは好意的に受け取られ、1ヶ月後にはベストアルバムが控えていたにも関わらず、前作の2倍のセールスを記録、5番目のヒット作となった。「最後に壊れた」という印象が強い楽曲ではあるけど、確かにインパクトはあるし、企画モノとして世間に求められていたのはこういうエンタメ性だったのかなという気がする。楽曲としては…あまり好きではないけど、フィッシュ!フィッシュ!フィッシュ!(意味不明)
★★★☆☆
ベスト『撤収』
Will call
路傍
01年9月26日
01年5月の野猿撤収ライブ終了から、4ヵ月。平山と神波によるデュオで、石橋(楽曲制作には関与してない)と後藤次利(作編曲)によるプロデュースでデビューした。作詞はWill call名義。作編曲が後藤次利のまま。野猿で1番近い系統の曲は「夜空を待ちながら」だと思うけど、ダンスをする必要が無いので作風はやや異なっており、猿岩石がやっていたようなフォークロック的な素朴かつ直球のJ-POPナンバー。2人の素直なボーカルも合って染み渡るいい曲だった。木梨がやっていた番組内の企画「納豆ロード」の挿入歌として使用されていたが、他局である「うたばん」などにも石橋を伴って出演していた。初登場は5位だったので野猿と変わらなかったが、累計売上では野猿の最低売上「太陽の化石」を下回った。FCまで作られたが、これで次が無いと判断されたのか、本業が忙しかったのか、1枚ポッキリで自然消滅してしまったのは残念。
★★★★☆
アルバム未収録