槇原敬之 ソニー時代 1997-1999 レビュー

97年からはソニーへ移籍。なお移籍当初はソニーだったが98年には新たに発足したSMEへ移動している。ソニー時代にはシングル6枚、オリジナルアルバム2枚、カバーアルバム1枚をリリースしている。当然何もなければもっと在籍していたと思われるが、99年8月『Cicada』のヒット中に覚せい剤所持により逮捕。その際に一緒に捕まった男性の「友人」(何故か現在の所属事務所社長となっており、08年頃からCDにも名前が載るようになっている)が恋人であったとワイドショー、週刊誌レベルで騒がれたりもした。この事件によりCDは一時的に全回収となり、予定されていた『Cicada』を引っ提げてのツアーも中止に…。事件を境にして作風は大きく変わる事となったが、ラブソング、ライフソングという2つの軸で考えたとき、ソニー時代は確かにラブソングに属する曲は多いんだけどこれまでとは少し毛色の違う、事件後ともまた違う新しい境地で達観したような楽曲が多い。またこの時代はエンジニアにアマチュア時代の友人で槇原から遅れてプロとして活躍するようになっていた沢田知久を全面起用しており、学生時代のゴールデンコンビが復活していた時期でもある。

※2014年執筆

17th 素直
97年7月30日
単なる移籍1発目のシングルで、特に何か反省するような事をやらかした後というわけではない。しかしまさかの丸坊主姿のジャケット写真はさながら囚人のようで、後追いでこのジャケットを見ると今作が事件からの復帰シングルだったのかと勘違いしてしまう。さらに楽曲自体も移籍1発目とは思えない超絶シンプルなピアノ弾き語りバラード。童謡的な要素もあるようなシンプルなメロディーを静かに歌い上げていく。恐ろしく地味なんだけど何故かとても心に響く曲だ。アルバムや2011ではもう少し音を足しているんだけど、結局1番この曲が響くのはピアノ1本のシングルバージョン。本当に響く曲は音数が少なくても響くということがよく分かる名曲。
★★★★☆
8thアルバム『Such a Lovely Place』(Album Version)
6thベスト『
NORIYUKI MAKIHARA SINGLE COLLECTION
7thベスト『
Song Book“since 1997〜2001”
8thベスト『
Completely Recorded
9thベスト『
Best LOVE
41stシングル『林檎の花』C/W(2011 Version)

C/W 情熱
渋めのファンクナンバー。こういうのも今までにあまり無かったように思うけど、情熱というわりにはあまり熱いナンバーではなく、何とも煮え切らない感じが聞いててもやもやしてくる楽曲。昔はあまり好きじゃなかったけど、サウンドにハマれる1曲に変わった。Album Versionではさらに複雑になりアクが強くなっている。
★★★☆☆
8thアルバム『Such a Lovely Place』(Album Version)
6thベスト『
NORIYUKI MAKIHARA SINGLE COLLECTION

素直


18th モンタージュ
97年10月29日
ドラマ「恋の片道切符」主題歌としてスマッシュヒット。ソニー時代では最もヒット性が高いポップチューン。Aメロからキーが高いけどそれゆえなクリアなボーカルが印象的。顔も思い出せない一目ぼれの相手へあれやこれや思いを巡らせるという歌詞の内容はやはり今までとは少し視点が異なる気がする。「自分の耳が赤くなっていく音」という表現が印象的だが一体どんな音なのだろうか。
★★★★★
8thアルバム『Such a Lovely Place』(Album Version)
6thベスト『
NORIYUKI MAKIHARA SINGLE COLLECTION
7thベスト『
Song Book“since 1997〜2001”
8thベスト『
Completely Recorded

C/W 僕のものになればいいのに
何ともスッキリしないモヤモヤまったり系の楽曲。『Such a Lovely Place』は好きなアルバムだけど終盤で出てくるこの曲はどうにも苦手なまま。
★★☆☆☆
8thアルバム『Such a Lovely Place
6thベスト『
NORIYUKI MAKIHARA SINGLE COLLECTION

モンタージュ


うたたね
アルバム冒頭を飾る穏やかな1曲。これまでの量産型バラードとは異なる文字通りうたたねしてしまいそうな夢の中を漂っているような穏やかな雰囲気がひたすら心地いい。過去を回想しつつ、どこか自分自身を幽体離脱して空中から眺めているような感じも。
★★★★☆
8thアルバム『Such a Lovely Place

2ndライブアルバム『SYMPHONY ORCHESTRA“cELEBRATION”


印度式
「まだ生きてるよ」は普通の曲だったと思えるほどの破壊力を持った槇原史上最大の超怪曲。「ワキ・スネ」というありえないコーラス、へぼんな毎日じゃつまりませーん、美容部員と相撲部員と男なのにボインをひっかけたダジャレ、間奏の謎のラップ、このままじゃモテないからと飛躍してホルモン注射や脂肪吸引にハマったぱみゅぱみゅ風に言うところの美容モンスターな男をコミカルに描いている(?)。正直意味不明&完全にラリっている。これまでもお遊び曲はあったが、今作に関してはあまりにぶっ飛んでて楽しいというより唖然とした。98年中学2年生当時にこのアルバムを名作だと言って貸してくれた友人も「印度式はマジヤバいから」「マジヤバいから印度式」「とにかく印度し(以下略)」とこの曲のヤバさを連呼していた。また同時に「曲はいいけどマッキーの髪型がヤバい」「ジャケットに3人もいるのがまずすげぇ」とも言っていた。確かに坊主姿で始まった記憶が鮮明だったソニー時代だが、その4ヶ月後であるアルバムアートワークにおいては金髪モヒカンという槇原史上最大にファンキーに攻めまくりなスタイルになっていた。つーか髪伸びるの早くね?翌年には元の黒髪に戻っており、逮捕される前はクスリに関係なく「混沌とした状況」だったと語っている槇原だが、確かに髪型だけ見ても短期間でこんだけコロコロ変わっているのでかなり落ち着きのない状態だったことはうかがえる。この曲が出た直後に逮捕されてたら「Hungry Spider」以上にラリって書いた曲って言われてただろうな…。
(測定不能)
8thアルバム『Such a Lovely Place
7thベスト『
Song Book“since 1997〜2001”


Such a Lovely Place
イントロを聞くたびに何か1つの物語が終わるような感覚になる。具体的な描写は無いんだけど、何か1つの愛の境地に達したような最高到達点のような名曲。ちゃんと根を張っている、ここにもちゃんと愛はある、というなかなかたどり着けそうにないような場所についに到達できたような…。間奏のギターソロが奏でているメロディーが「うたたね」のサビメロという演出も感動的だ。大きな愛と優しさに満ちた曲で、ぶっちゃけライフソング以降で顕著になった教訓の説明文とか全部不要で、これ1曲提示すればライフもラブもひっくるめて救済できるくらいの曲だと思う。最高傑作
★★★★★+2
8thアルバム『Such a Lovely Place
7thベスト『
Song Book“since 1997〜2001”


19th 足音
98年1月21日
1曲+カラオケで800円というソニー価格でシングルカット。長野オリンピックの聖火リレー公式応援ソング。聖火リレーの応援歌など他のオリンピック開催時にあったのかどうかすら知られていないが、この時は自国開催だけに各局の中継曲以外にもいろいろなオリンピックタイアップがあり(ボランティアサポート公式でDEENとか)、それぞれそこそこマスメディアでも取り上げられてはいたように記憶している。オリンピック開催直前、聖火リレー的にはクライマックスになってくる時期に合わせて年明けにシングルカットされた。「愛を1つ胸に掲げて行こう」と歌うサビはシンプルだけど確かに響く楽曲。聖火リレーなので「聖火」の聖なる感じを強く意識させられるといえばそうかもしれない。僕らの行く先には何もないとか無力感を示すフレーズがちょいちょい出てくるので希望もあんまり無いように思えるけど「後に続くみんなの光になるから」というフレーズが来ると聖火リレーとしてもズバッとハマっていた。
★★★★☆
8thアルバム『Such a Lovely Place
6thベスト『
NORIYUKI MAKIHARA SINGLE COLLECTION
7thベスト『
Song Book“since 1997〜2001”
8thベスト『
Completely Recorded

足音


20th HAPPY DANCE
98年7月23日
ラテンやらフラメンコっぽい要素も混じったダンスナンバー。HAPPYというわりに曲調にはかなり哀愁が漂っており、あまりHAPPYな気がしない。当時は特にけっこう異色な感じがしてどうにも馴染めなかった。現在でもあまり上位に入ってくるような曲ではないけど、改めて聞いてみるとサウンド面がけっこう凝った曲だなと思う。
★★★★☆
9thアルバム『Cicada』(Album Version)
6thベスト『
NORIYUKI MAKIHARA SINGLE COLLECTION
7thベスト『
Song Book“since 1997〜2001”
8thベスト『
Completely Recorded

3rdライブアルバム『SYMPHONY ORCHESTRA “cELEBRATION 2005”〜Heart Beat〜

C/W BLIND
曲調からしてこれまでにない攻めた作風が多い中で、サウンドからはワーナー時代の空気感も感じられる比較的王道タイプのバラード。1つの恋が終わる楽曲だが、未練や感謝はほとんどなく、淡々と思い出を振り返りつつサビでは"さよなら"と連呼しながら"僕という目かくしをはずしてあげるよ"と歌う。妙に達観した雰囲気が感じられるのはソニー時代っぽい。
★★★☆☆
9thアルバム『Cicada
6thベスト『
NORIYUKI MAKIHARA SINGLE COLLECTION

HAPPY DANCE


21st STRIPE!
98年11月26日
アルペンCMソング。当時のアルペンと言えば加藤晴彦が出ている広瀬香美の楽曲が毎年定番でこの年も「ストロボ」が起用され広瀬香美にとって最後の大ヒット曲となっていたが、今作はそれとは別のウィンターフェア用のCMソングとして起用された。スキーをテーマにした曲は他にないので(広瀬香美もスキー自体をテーマにした曲はほぼ無い)異色さはあるけどソニー時代の中ではかなりヒット性が高いポップな楽曲だと思う。青い空と白い雪というスキー場の景色を"ストライプの大きな布を神様が目の前で広げた"と表現し、滑走するのを"エッジを効かせて切り取っていく"と表現しているのが凄い新鮮に感じたのを記憶している。スキー場で聞きたい1曲。
★★★★☆
9thアルバム『Cicada
6thベスト『
NORIYUKI MAKIHARA SINGLE COLLECTION
7thベスト『
Song Book“since 1997〜2001”
8thベスト『
Completely Recorded

C/W Merry-go-round
クリスマスという言葉は出てこないがサウンドや雰囲気から思いっきりクリスマスを感じる王道のウィンターバラード。ゆったりメリーゴーランドを回っているようなかなりまったりした曲調だが、達観した歌詞が多いソニー時代では歌詞も含めてワーナー時代に近い。こういった作風もあってかソニー時代のC/Wで唯一オリジナルアルバム未収録になってしまうという不遇な扱いながら人気は高いようだ。08年にはアルバム初回盤のボーナス曲としてリメイクもされている。そちらはよりシンプルながら温かみのある雰囲気になっている。同時期の他のリメイク作品に比べても個人的には好きなリメイクだ。また原曲の方はソニーが出しているクリスマスソングのコンピ盤に収録されたことも
★★★★☆
6thベスト『NORIYUKI MAKIHARA SINGLE COLLECTION
17thアルバム『
Personal Soundtracks』初回盤のみボーナス曲('08)

STRIPE!


22nd Hungry Spider
99年6月2日
今作以降マキシシングル。ドラマ「ラビリンス」主題歌。ドラマ効果もあって久々にヒットらしいヒットを記録。蝶に恋をした蜘蛛の苦悩を歌った隙のない圧倒的完成度を誇る楽曲。そのあまりの完成度には一種の美しささえ感じるほどだったが、この怪しげでダークな雰囲気とおよそ3ヶ月後のクスリによる逮捕という衝撃が重なり、実際にはドラマサイドの今までにない曲調という要求に応えただけだったのに、逮捕後は今作はクスリによって書かれたなどとワイドショーレベルでも言われてしまうことになった。本人はクスリと創作活動の関係を強く否定しているそうで、『槇原敬之の本』などでも相当強く強調されている。
★★★★★
9thアルバム『Cicada
6thベスト『
NORIYUKI MAKIHARA SINGLE COLLECTION
7thベスト『
Song Book“since 1997〜2001”
8thベスト『
Completely Recorded
9thベスト『
Best LOVE

C/W この傘をたためば
曲中に"雷がひどかったあの夜"というフレーズが登場する「雷が鳴る前に」のアンサーソングとされた穏やかなバラードナンバー。「BLIND」同様にワーナー時代になかった達観した空気を感じる。
★★★☆☆
9thアルバム『Cicada
6thベスト『
NORIYUKI MAKIHARA SINGLE COLLECTION

C/W Hungry Spider〜English Version〜
セイン・カミュが英訳した英語バージョン。トラック自体は同じで歌詞が全部英語で歌われている。日本語以上に歌詞が詰め込まれている印象でけっこう早口。このバージョンのみ6thベストへの収録を外されたため、シングルにしか収録されていない。
★★★★☆
アルバム未収録

Hungry Spider


pool
10代の頃の夏を回想していて夏を思わせる単語は入っているものの、プールという言葉から連想されるにぎやかさや夏っぽさは皆無。曲調はどっちかといえばサンバ風なのに、日本の夏らしい湿った質感で空気は圧倒的に。サウンドの妙だ。「〜introduction for Cicada〜」とイントロがつながっていて合わせて聞くとさらに完成度の高さを感じられる。歌詞というよりサウンド面の圧倒的な空気感が好き。
★★★★★
9thアルバム『Cicada

2ndライブアルバム『SYMPHONY ORCHESTRA“cELEBRATION”


Name Of Love
実はいとこだったローリー寺西(本名の寺西一雄の名義でリリース)への提供曲セルフカバー。暖かさがあまりないアルバムの中においては以前のポップさが感じられる楽曲でアルバムにおいてはホッとさせてくれる役割を果たしている。
★★★★☆
9thアルバム『Cicada
7thベスト『
Song Book“since 1997〜2001”


Cicada
アルバム最終曲。真っ暗な土の中で太陽を信じている蝉のことを歌っている。蝉は地上に出てわずか2週間ほどで死んでしまうが、アルバムも蝉の一生をなぞるように発売2ヶ月で回収されてしまい市場から姿を消した。そして復帰作は「太陽」。これは必然だったのか。
★★★☆☆
9thアルバム『Cicada
7thベスト『
Song Book“since 1997〜2001”

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