X-MEN:フューチャー&パスト
2014年公開。『X-MEN』シリーズとしては5作目。時系列では『ウルヴァリン:SAMURAI』から10年後の2023年及び『X-MEN:ファーストジェネレーション』から10年後の1973年の2つの時代が同時進行する。前史を描いた『X-MEN:ファーストジェネレーション』からのキャストと、初期3部作のキャストがほぼ全員同じキャストで出演している豪華な内容となっている。
『ウルヴァリン:SAMURA』から10年後の2023年、ミュータントを滅ぼすために開発されたセンチネルという機械はミュータントとそれに協力する人類を殲滅。人類そのものが破滅に向かっている終末世界と化していた。プロフェッサーXはマグニートーと手を組み、生き残ったメンバーたちとセンチネルから逃げ回っていた。こうなったきっかけは、1973年にあった。センチネルを開発しようとしていたトラスク博士をミスティークが殺害した事で逆にセンチネルの開発が急務となり、さらに捕えられたミスティークの細胞が研究され、ミュータントが能力を駆使してもまるで歯が立たないほどの凶悪な戦闘力を持つセンチネルが完成した。
壁をすり抜ける能力を持っていたキティは能力を発展させて意識だけを過去に飛ばす事が可能となっていた。この能力を使って毎回センチネルの襲撃の際は戦闘能力を持つ仲間が時間稼ぎをしている間に別の仲間を少し前の過去に飛ばすことで、襲撃を無かったことにしてセンチネルから逃れ続けていた。この能力で過去へ意識を飛ばすのは2週間程度が限度で、それは能力的な限界ではなく過去に戻る人物の精神が持たないためとされていたが、回復能力を持つローガンなら1973年まで戻っても大丈夫だと判断されローガンが過去へ向かう事に。
ローガンの意識は1973年当時のローガンへと飛ばされた。この時代のローガンはまだ爪が元の爪のまま。『X-MEN:ファーストジェネレーション』から10年後のこの時代ではプロフェッサーXはマグニートーやミスティークを失い、ミュータント学園の運営に失敗し、唯一残ったハンクと共にひっそりとやさぐれ生活を送っていた。またマグニートーは無実の罪で投獄されており、ミスティークは1人で仲間のミュータントを守るために工作活動を続けていた。ローガンはハンクとプロフェッサーXを説得し、マグニートーを救出し、ミスティークを止めるために動き出すが、色々な因縁があるこいつらは一筋縄ではいかなかった!なんとか当初の予定であるミスティークがトラスク博士を殺害するのは食い止めたものの、それ以上に厄介な事態へと発展。1973年において劇的な変化が起こらない限り、未来はそのまま。同時進行する2023年ではセンチネルの襲撃により、残っていた仲間も次々と殺害されていく。果たして未来を変えることはできるのか…。
という新旧キャストが入り乱れ、過去と未来が交錯するという超大作になっている。監督が初期2作を担当したブライアン・シンガーで、彼は『X-MEN:ファーストジェネレーション』にも関与していたので、どちらからの繋がりも大切にされているのが良かったと思う。
過去を描いた作品と、進行している最新の作品からの続きと両方の続きであるというのは斬新だけど、どちらの作品からも10年先という設定なのでそこに含みを持たせている。若き日のプロフェッサーXの挫折と再生は10年という空白を設定したから映える。一方で未来パートの方は『ウルヴァリン:SAMURAI』のラストでプロフェッサーXとマグニートーが力を貸してほしいと登場してからも10年近く経過していると思われ、そのまますぐ続きというわけではない。世界が崩壊していく過程や詳細は描かれずいきなり滅亡寸前のところから始まる。当然『X-MEN ファイナル・ディシジョン』で死んだはずのプロフェッサーXが生きている事や、能力を失ったはずのマグニートーが復活している理由も言及されない。どちらも『X-MEN ファイナル・ディシジョン』ラストで匂わせはしていたんだけど、この辺りはしっかり把握してないと混乱するかも。
また『X-MEN:ファーストジェネレーション』からは3年しか経っていないので、こちらからの続投キャラはわりと容姿もそんなに変わってないんだけど、ストーム、キティ、アイスマン、コロッサスといった06年の『X-MEN ファイナル・ディシジョン』以来となるキャラは8年も経っているのでみんな容姿が激変している。最年少だったキティは唯一まだ20代なのでとびきりの美人に成長した感じなんだけど、キティ以外は若さを越えてみんな大きく老け込んだ感じ。中でも好青年風だったアイスマンはひげ面の渋いおじさんになっていたので彼だけは当初誰だか分からなかった。この辺りはさらっとしか記憶にないとたぶん誰が新キャラで誰が続投キャラかも分からないので改めて旧作のキャラを把握しておく必要があるんじゃないかと思う。
そういう意味では旧作とのつながりが強いのでファン向けの内容なんだけどストーリー自体は前述のように過去も未来も直近から10年後に設定しているのでそこまで深く繋がっておらず、今作の中だけでストーリーはしっかり完結している。過去パートはマグニートーやミスティークが勝手に行動するせいでなかなか解決しないんだけど迫力を増した展開は熱い。また異色なのが未来パートのあまりの絶望っぷり。センチネルがチートすぎる強さで、メンバーの能力はかなり強力になっているんだけど全く通じずにザクザクとやられてしまうというのは怖すぎ。それだけに最終シーンは本当に感動的だ。これで完結しても良かった気がするが、なおも新たな伏線を提示して物語は終結する。ちょっと今作以上のものが出てくるとは思えないくらい今作が良かったので不安もあるが期待したい。
ローグ・エディション
2015年7月発売。劇場公開時に完全カットされてしまったローグの救出シーンを追加して再構成した別バージョン。それ以外にも随所でシーンの追加が行われている。ローグが登場することで未来の後半の展開は一部登場人物の行動が変更されている。
★★★★★
以下ネタバレ含む、登場人物のまとめ
ウルヴァリン…本名はローガン。主人公。シリーズ全作に出演。X-MENを離れて『ウルヴァリン:SAMURAI』では放浪していたが同映画ラストで復活したプロフェッサーX、マグニートーと再会し、X-MENに復帰したものと思われる。『ウルヴァリン:SAMURAI』でかなりアダマンチウムを吸われ、爪も折られて以前の生の爪に戻っていたが、今作では説明なくアダマンチウム製の爪が戻っている。マグニートーの能力を駆使して戻してもらったのだろうか。今作に至るまでの流れは描かれておらず、厳密には『ウルヴァリン:SAMURAI』と繋がっていない。
今回は回復能力を持っているため精神崩壊しないとの理由で1973年に移動。今までは能力の特性故に特攻要員的な役回りだったが、やさぐれたプロフェッサーXを導く存在として奮闘する。また爪がまだ改造前で生の爪なので、マグニートーに身動き不能にされるというお約束のシーンは無くなっているものの、試作されたセンチネル初号機相手には全く歯が立たず、マグニートーに海中まで吹っ飛ばされ、海中に没したままクライマックスでは出番がないままだった。主人公なのに、最後の見せ場は全部『X-MEN:ファーストジェネレーション』組のメンバーだけで片づけるというのはちょっと斬新だったかも。
未来サイド
プロフェッサーX(未来)…『X-MEN ファイナル・ディシジョン』で死んだはずだが説明なく復活している。設定だと双子の兄弟に意識を移したことになっており、かなり分かりにくかったが当時も示唆されていた。マグニートーと本格的な協力関係が復活している。
改変後の未来では自身が知らない未来へ戻ってきたローガンに唯一「おかえり」を言い、これまでの話を聞かせようとするがそこで話が終わってしまうのでどう変わったかは明かされない。そこを教えてくれよ!
キティ・プライド…壁抜け能力を持つ。『X-MEN ファイナル・ディシジョン』以来の登場。生き残っているメンバーでは最年少(未来メンバーでは役者の年齢も唯一の20代)。対象の意識を過去に飛ばすという能力を会得しており、これを使って冒頭でのメンバー殲滅の歴史を変えた。ローガンを過去に飛ばしている間はずっと能力を使っていなくてはならないため、残りの未来パートでは延々とローガンの前に座っている。途中でローガンの意識に変調が起こった際に暴れたので爪で深手を負いながらも最後まで奮闘した。ローグ・エディションでは途中でローグに交代し、センチネル襲撃の際には最後の力を振り絞ってマグニートーを建物内へ引き戻した(本編ではこれをブリンクが行っている)。
改変後の未来では学園の講師になっている。初期3部作出演者の中で演じているエレン・ペイジだけがまだ20代なのでキティだけ格段に若く見える。前回のキティがかなり印象良かっただけにすっかり大人になった姿がまた見られたのは嬉しいところ。
アイスマン…本名はボビー。氷を操る能力者。『X-MEN ファイナル・ディシジョン』以来の登場。この世界ではローグが既にいなくなっているためか、年齢が近くて学園時代から付き合いの長いキティを気にかけている。最も容姿が変わっており、ひげ面のオジサンに。能力もかなり強化されていて派手になっている。ただセンチネルが強すぎるため、冒頭と終盤で2度もあえなく殺害される。脚本変更の影響によりラストバトルが描かれていない。
ローグ・エディションではローグを救出に向かいセンチネルの襲撃で殺害される。元々こっちの展開を先に制作していたので劇場公開版で最後の戦闘シーンが無く出ていって音だけでやられたことを示唆して終わるのはこのため。劇場公開版ではそれほど強く提示されていなかったキティとの恋仲が明確に描かれていてキティとのキスシーンが2度登場する。歴史が変わったラストでは元通りローグと付き合っている。
ストーム…本名はオロロ・マンロー。天候を操る。『X-MEN ファイナル・ディシジョン』以来の登場。髪がさらに短くなった。天候を操りやってくるセンチネル群をかく乱するも、襲撃を受けて最初に退場するなど活躍の場が少ない。これは演じているハル・ベリーが撮影時期に妊娠していたため、制約が出てしまったのが原因っぽい。
コロッサス…本名はピーター。全身を金属の鎧にする能力を持つ。『X-MEN ファイナル・ディシジョン』以来の登場。キティやアイスマンほどではないがやはり能力は強化されているようだが、センチネルが強すぎるため、冒頭と終盤で2度もあえなく殺害される。歴史が変わったラストでは学園にいる。
マグニートー…本名はエリック。『X-MEN ファイナル・ディシジョン』で能力を失ったはずだがラストでわずかに能力復活を示唆するシーンがあり、復活した事になっている。今回は完全な協力体制で、過去の戦争は無意味だったと後悔するようなセリフも飛び出す。センチネル襲撃の際には善戦するも一撃を喰らってしまい、虫の息に…。野望のために信念で突き進んでいくようなキャラクターだったので、今作ではかなり意気消沈したおじいちゃんになってしまったような感じも。次があるなら自信を取り戻した強いマグニートーがまた見たい。
ビショップ…エネルギーを吸収チャージして銃から放射する能力を持つ。新メンバーの1人。冒頭のシーンではキティにちょっと前の過去に飛ばしてもらっており、これにより全滅の未来を変えていた。
ブリンク…クリスタルエネルギーを放出して穴をあけて空間移動させる能力を持つ。新メンバーでは唯一の女性。能力の使い勝手がいいので他のメンバーとの連携攻撃や、攻撃回避など派手な見せ場が多い。しかしセンチネルが複数登場して複数攻撃を仕掛けられるとさばききれず、冒頭と終盤で2度もあえなく殺害される。
ウォーパス…いわゆるスーパーマン的な身体能力アップ系の能力者。
見かけはアメリカン佐村河内。サンスポット…熱系の能力者。『X-MEN ファイナル・ディシジョン』まで出ていたパイロに近い能力だがパイロではない。
過去サイド
プロフェッサーX(過去)…『X-MEN:ファーストジェネレーション』で半身不随となり、エリックやレイヴンと袂を分かち、さらにあれからの10年でミュータント学園の経営にも失敗。髪も伸びて容姿が激変し、やさぐれ生活を送っていた。ハンクの開発した薬で歩けるようになったが能力は失われている。薬が切れると歩けなくなるが能力が復活する。『X-MEN:ファーストジェネレーション』でローガンを勧誘して断られた事を記憶していた。ローガンの話を聞いてわりとすぐに協力はしてくれたものの、弱気になっていて精神はボロボロ。ローガンの過去を見て未来の自分と対峙した事で完全復活する。キャラクター的な変化と成長が描かれているため、今作の実質的な主人公的な印象もある。
ビースト…本名はハンク・マッコイ。『X-MEN:ファーストジェネレーション』では実験に失敗して青い姿のままになっていたが、姿を人間に戻す薬の開発に成功。自身の姿を通常時は人間の姿に戻し、プロフェッサーを歩けるようにもしている。挫折したプロフェッサーXにずっと寄り添っていた。彼もまた自身の姿と能力についてまだ悩んでいたようだが終盤にかけてはある程度答えを見出した模様。なおローガンによると未来の世界では既に死んでいるらしい。歴史改変後の未来では生存しており、その1カットだけは『X-MEN ファイナル・ディシジョン』でビーストを演じたケルシー・グラマーが演じている。
クイックシルバー…超高速移動能力者。マグニートー救出のためにローガンが頼った人物。ローガン曰く未来の仲間らしいが、X-MENメンバーにこんな人物は登場した事が無い。いつ知り合ったのだろうか…。かなりチートな能力で、マグニートー救出と脱出成功は全部彼のおかげというほどの大活躍を見せる。あまりにチートすぎるせいか出番はそれで終了したが、その後も連れていっていたらもっと楽に事態を収拾できた気がする。
ミスティーク…本名はレイヴン。変身能力を持つ。初期3作ではなく『X-MEN:ファーストジェネレーション』で演じたジェニファー・ローレンスが続投。『X-MEN:ファーストジェネレーション』ではマグニートーについていっていったが間もなくマグニートーが捕まってしまったので単独で行動している。ミュータント仲間を救出しながら、危険な開発を進めようとしているトラスク博士殺害を狙っている。未来のプロフェッサーXによるとこれがレイヴン初の殺人であり、これで完全にミスティークとなったという。実際にそれまでの工作活動では相手を痛めつけるも全員が殺されずに生きている。またトラスク博士殺害が、未来の人類滅亡の危機へ繋がる事からミスティークを止めるためにプロフェッサーXやマグニートーらが動くことになる…のだが…この子、非常に聞き分けが悪く、プロフェッサーXの言う事は聞かないし、変身しまくるのでプロフェッサーXの能力以外では居場所も捉えられないし、未来の惨状がお前のせいだという説明をする暇もあまり無いので本当に苦労させられる羽目に。ラストではプロフェッサーX、マグニートーどちらも尊重した選択を取り、未来を変えるが未来で彼女がどうなっているかは不明のまま。事件解決後も海底に沈んだままだったローガンを救出したのもストライカーに見せかけてミスティークだったようだが…。そこからどうなったかは語られないまま物語が終わるのでここだけスッキリしない。
マグニートー(過去)…『X-MEN:ファーストジェネレーション』の直後にケネディ暗殺容疑で檻の中へ。本人いわく無罪でむしろ守ろうとしたという。クイックシルバーの大活躍で救助され、プロフェッサーXと前作での因縁をぶつけあう。完全には分かりあえなかったが、ある程度の友情関係は取り戻せたようで、この2人の敵対しながらもどこか友情を感じさせる関係は初期3作シリーズへ通じるものがある。ローガンの話をわりとすぐに信じたが、説明不足だったのかミスティークをすぐに殺そうとするなど暴走。ミスティークを銃撃するも、ビーストともみ合っているうちにミスティークは逃亡。しかし残されたミスティークの血液からセンチネル試作体が制作されてしまい、博士も生きているなど本来の歴史より滅亡が早まりそうな状況に事態を悪化させる。以降は単独行動で、センチネルに金属を仕込み、センチネルを操って政府首脳を襲撃。さらに野球場を操って政府首脳や博士を囲い込む。止めに来たローガンはセンチネルを使って海中まで吹き飛ばしてクライマックスシーンから退場させ、プロフェッサーXやビーストにも攻撃を仕掛けるなど大暴走。こいつ牢獄から出したのがそもそも失敗だったんじゃないか…。ただ未来のマグニートーが今回元気が無くなっているので、過去のマグニートーの方が初期3部作に通じる信念を感じられる。改変後の未来でどうなっているかは不明。
ハボック…『X-MEN:ファーストジェネレーション』でのメンバーの1人。今作では捕まっていたがミスティークに助けてもらう。
トード…カメレオン系の能力者。『X-MEN』のみに登場した敵役の若き日の姿で役者は別人。今作では同じく捕まっていたがミスティークに助けてもらう。
ストライカー…ローガンの爪を改造した張本人。公開順で最初に登場した『X-MEN2』は時系列的には最晩年の姿で、過去を描いた『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』ではメインの役どころだった。『X-MEN:ファーストジェネレーション』にも出ていたが今回も別の役者が演じている。軍人の役でチョイ役だが、ラストでは海に沈んだローガンを引き上げて引き取ると宣言。ただこれは目が光るためミスティークの変身のようで、この後で新たな歴史でも『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』に近い出来事へ発展するのかは謎。コイツが野望を働かせないとローガンの爪がアダマンチウム製にならないんだけど…。
改変後の未来
サイクロップス…本名はスコット。初期3作のメインメンバー。『X-MEN ファイナル・ディシジョン』でサングラスだけ残して退場したが、改変後の未来では無かったことになっていて学園で生活している。
ジーン…初期3作のメインメンバー。同じく歴史が改変された事で『X-MEN ファイナル・ディシジョン』の出来事も無かったことになったらしく学園で生活している。
ローグ…初期3作のメインメンバー。当初本編に登場する予定だったらしいが改変後の未来のみの出演になっている。アイスマンと付き合いが継続している模様。『X-MEN ファイナル・ディシジョン』の出来事が無かったことになったということは能力もそのままか?ローグ・エディションでは敵側に拉致されており、衰弱したキティの役割を引き継がせるためにアイスマン、プロフェッサーX、マグニートーに救出され、キティの能力を吸収して役割を引き継ぐ。
『X-MEN ファイナル・ディシジョン』もストームの活躍増やアイスマンやキティなど若手メンバーの活躍もあって好きな作品だったけど、ブライアン・シンガーが監督を担当していない『X-MEN ファイナル・ディシジョン』であえなく退場してしまったジーンスコットと能力を失う選択をしてしまったローグがラストで復活しているっていうのがなんかいいね。しかも当時の役者というのが嬉しいファンサービスだ。やっぱみんな老けたけど…。