槇原敬之 EMI時代 2004-2006 レビュー

04年には東芝EMIへ移籍。移籍1発目のアルバム『EXPLORER』はソニー時代に匹敵する50万セールス、10年ぶりのO社1位という大ヒットを記録、立て続けに出した『Completely Recorded』は決定盤のベストアルバムとして『EXPLORER』を上回る大ヒットを記録(数あるベスト盤の中で2番目のヒット作に)。一時的に再ブレイクを果たした。ただその後はより説教じみた歌詞が続いたためか、復活した人気は定着せずにセールスはあっさり収束してしまった。

この時代の特徴としては05年頃から新たに自身のプライベートスタジオが稼働し始めた事や技術の進歩もあってシンセプログラマーの起用を廃止。元々デモの段階で相当作り込んではいたらしいが、シンセプログラマーを間に挟まなくなって槇原本人が全ての打ち込みを担当するようになった。これに伴いこれまで基本的には「Keyboards」だった槇原のクレジットは「All Instruments」に代わった。そしてこれまで時期ごとにエンジニアを変えてきていたがこれも滝澤武士を起用以降は彼でほぼ固定され、そのまま現在まで続く最長起用のエンジニアになった。

31st 優しい歌が歌えない
04年4月28日
個人的には唯一新品購入したシングル。しかも発売直後ではなく2週間くらいして急にこの曲は買うべき曲だ!とか思ったのを記憶している。正直今ではそんなに上位に入ってくる曲ではないのでなんであの時あんなにこの曲に引かれたのか…。この時期にはベスト盤で済ませていたワーナー時代の全オリジナルアルバムを集めたりもした。たぶん当時は徐々に闇に向かっていくというか、体調不良が本格化してきてすっきりしない日々が続いていたから妙にしっくり来たんだろうなぁ…。壁にぶつかった主人公がひたすら闇の中でもがき、自問自答して自らの愚かさに気づき更生するという内容。"5月の道が光ってた"というラストフレーズは5月病で落ち込んだ状態からの復活ソングとしても受け入れられそう。他の曲に比べても打ち込みながらバンド感が強く、力強さも感じる。PVでは萩原流行が延々と壁に向かってアタックしまくるという楽曲を体現したような内容になっていた。この曲は結論としては優しい歌が歌えない状態になった主人公が答えを見出して優しい歌が歌えそうだ、と締めているんだけど、実際にはこの04年はまだ良かったけど05年以降の楽曲はストレートな説教と教訓の羅列ばかりになってしまい、どんどん優しさが失われていった。歌っていた本人が恐らく自分が信じる"正しい道"をまっすぐに見据え主張しすぎたあまりに何かが歪んでしまい全く自覚なしに「優しい歌が歌えない」状態になってしまったという皮肉。この先の作品を聞くと当時とは違った見方ができる曲だ。
★★★★☆
13thアルバム『EXPLORER
8thベスト『
Completely Recorded

3rdライブアルバム『SYMPHONY ORCHESTRA “cELEBRATION 2005”〜Heart Beat〜

C/W とりあえず何か食べよう
「ファミレス」と同系統の怒ってるときはとりあえず何か食べて落ち着いてゆっくり考えようと提案する系(?)ソング。ただ「ファミレス」で言いたかったのはとりあえず何か食べる事よりも、自分がされて嫌な事は他人もしないといった類の教訓だったのに対して、今作はもっとストレートに腹減りの度合いと機嫌の関係に言及している。意外とゆったりした曲ばかりでポップで明るい楽曲が少ない『EXPLORER』の中では格段に明るいポップソング。
★★★☆☆
13thアルバム『EXPLORER

2ndライブアルバム『SYMPHONY ORCHESTRA“cELEBRATION”

優しい歌が歌えない


32nd 僕が一番欲しかったもの
04年7月28日
ドラマ「ラストプレゼント」主題歌。イギリスの男性グループBLUEに提供した「THE GIFT」(作曲のみで作詞はしていない)を書下ろしの日本語詞でセルフカバー。同じ日テレドラマタイアップだった「Hungry Spider」以来のトップ10ヒットを記録。抽象的な"素敵なもの"を他人にあげることで自身も幸せになれるという説法がひたすら繰り返される歌詞は「Are You OK?」のように何かに例えてすらいないので全く情景が見えない。じっくり聞いていると意外と疲れる歌詞だ。ただそれよりも何よりもとにかくメロディーとアレンジが神がかっていた。正直なところ地味なシングルが延々続いていたのでもうシングルヒットは出ないと思ってたんだけど、この曲はものの見事に全盛期級だったと思う。
★★★★★
13thアルバム『EXPLORER
10thベスト『
Best LIFE』(Renewed)

2ndライブアルバム『SYMPHONY ORCHESTRA“cELEBRATION”
3rdライブアルバム『
SYMPHONY ORCHESTRA “cELEBRATION 2005”〜Heart Beat〜

C/W What I wanted the most.
セイン・カミュによる英訳バージョン。延々と説法が続く日本語バージョンよりも歌っていることは同じなんだけど英語になっているこっちのバージョンの方が案外好きだったりする。
★★★★★
アルバム未収録

僕が一番欲しかったもの


世界に一つだけの花
アルバムが50万枚を超えたのはシングルが久々のトップ10ヒットを記録した流れもあったけど、やはりSMAPによる空前絶後の250万枚越えのビッグヒットにより、作者である槇原も再注目された事が大きい。すでにライブでは歌っていたこの曲のセルフカバーがついに収録されるというのは一大トピックだった。元々アレンジまで込みでSMAPへ提供していただけあって、セルフカバーでも原曲を踏襲したようなアレンジになっている。この曲に関しては多くの人に受け入れられた一方で、現実社会にもがき苦しむ大人を中心に競争否定は絵空事だの負け犬の戯言だのと言われたり、そもそも冒頭の歌詞も花屋に並んでる花がどれも綺麗なのは当たり前、花屋の店先には選び抜かれた花界のエリートだけ並んでいてダメな花は店には並ばないだろーが何言ってるんだという歌詞の矛盾への指摘なども相当あってかなりの賛否も巻き起こした。しまいには反戦歌にまでされてしまい、SMAPも次のシングルが出せなくなったり、平和の使者みたいになってしまったりとその後にも大きく影響した。説教路線を極めていく槇原が歌うとどうも説教っぽさがより強調されてしまい、歌唱力的には劣るSMAPが歌った方がその辺りを考えずに聞けるのかなという気はする。なんだかんだあまり深く考えなければ好きな曲だ。
★★★★★
13thアルバム『EXPLORER
10thベスト『
Best LIFE』(Renewed)
12thベスト『
春うた、夏うた。〜どんなときも。

2ndライブアルバム『SYMPHONY ORCHESTRA“cELEBRATION”
3rdライブアルバム『
SYMPHONY ORCHESTRA “cELEBRATION 2005”〜Heart Beat〜
4thライブアルバム『
SYMPHONY ORCHESTRA "cELEBRATION 2010"〜Sing Out Gleefully!〜


チキンライス /浜田雅功と槇原敬之
04年11月17日
「HEY! HEY! HEY!」の企画で、松本人志が作詞して作編曲を槇原が担当し、浜田雅功が歌った。作詞に槇原の名前は入っていないが、封入されている松本直筆の歌詞と、完成版の歌詞では一部に変更があり、特に3番の平メロは直筆と完成版でほとんど別物になっている。一応アーティスト名に槇原が入っているものの、デュエットというよりは"コーラスにしては目立つコーラス"程度で、歌詞のあるパートをソロで歌ったりはしていない。松本の幼少期の貧乏だった頃の実話がそのまま歌詞にされており、歌詞を読んだ槇原が感動して号泣するシーンも放送されていた。松本の素の部分が垣間見えた楽曲だと思う。ただメロディー自体は温かみはあるものの、意外とパッとしないというか、そんなにシングルっぽくないというか…。アルバムには未収録で槇原単独でのセルフカバーとして収録された。立ち位置としてはアルバム曲としてしっくりは来たけど、ボーカルは浜田の素朴なオッサン声の方が合ってたと思う。
★★★☆☆
オリジナルバージョンアルバム未収録
14thアルバム『LIFE IN DOWNTOWN』(セルフカバー)
10thベスト『
Best LIFE』(セルフカバー)

C/W チキンライスができるまで 〜松本人志〜
楽曲のインストがバックで薄くかかる中で、松本人志のトーク断片集。歌詞になっていく事柄について延々真面目に語っている声がいくつか切り貼りされているが、恐らくTV用のカメラで撮影されていた制作ドキュメント用の映像から音声だけ抜き出したと思われる。なかなか他にない斬新なトラックだ。「チキンライスができるまで」というタイトルからして、こんな風に喋っていた事を歌詞にしましたよ、という過程ということだろうか。
★★☆☆☆
アルバム未収録

チキンライス


33rd 明けない夜が来ることはない
05年5月18日
「もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対」と並ぶややこしい言い回しがインパクトな絶望からの復活ソング。光が差し込むかのようなサビは希望を感じられていいんだけど、サウンド面では遠くで救急車のサイレンが鳴っているようなヒーホーヒーホーした音が薄くかかっていたり、ノイズがかっていたりするのが気になってしょうがない。珍しく生のベースとドラムがクレジットされている生音バンドサウンドになっているものの、普段から打ち込みの完成度が高いので生音ならではの旨みもそんなに感じないし、前述の打ち込み要素が気になってしまいむしろいつもより機械的に感じてしまう。ていうかよく見たらドラマーがミックスエンジニアの飯尾氏になってるんだけどドラム叩けたのか。またワーナー末期に飯尾の名前のリミックスを連発発表するなど相当ご執心だったにも関わらず、飯尾の起用は今作が最後となり、以降は現在に至るまでエンジニアは滝澤武士で固定されるようになる(プライベートスタジオが本格稼働したため自身が録音を担当する事も)。アルバムでは不評だったのか上記のヒーホーやノイズが消去されているのでアルバムバージョンの方が好き。ただいずれにせよ物凄く名曲風なんだけどあくまで名曲っぽいだけで意外と好きな曲あげてくと入ってこないんだよなぁ…。
★★★★☆
14thアルバム『LIFE IN DOWNTOWN』(ALBUM VERSION)
10thベスト『
Best LIFE

3rdライブアルバム『SYMPHONY ORCHESTRA “cELEBRATION 2005”〜Heart Beat〜

C/W スポンジ
カントリー風のポップ。人間をスポンジに例え、正しさや素直さを洗剤にしてWash away! Wash away!(超訳)という何だか発想が飛びすぎたような歌。きれいになろうとしすぎるというか"汚いものは全部片っ端から洗っちゃえ"というのは飛躍しすぎだろう。"ダメな自分を好きにならなくちゃ"と「MILK」で歌っていたころとは決定的に考え方が変わってしまったわけだけど、"ダメなものは変えなきゃいけない"という思いが強くなりすぎて、このような行き過ぎた発想になってしまったのだろうか。サウンド面でも変な電子音を鳴らすという傾向があって『LIFE IN DOWNTOWN』期はどうも馴染めない。
★★★☆☆
アルバム未収録

明けない夜が来ることはない


34th ココロノコンパス
05年11月2日
これまで散々歌ってきた人のために何かしようというところに加えて、人のためと思って何かしても裏目に出てしまうこともある事を踏まえるという1歩進んだ教訓ソング。この曲で歌われているのは裏目に出ることがあっても何もしない方がマシだなんて思わず、その心は正しいからその心のコンパスが差す方へ恐れず進め!というもの。余計なお節介の肯定とも言えるし、誰かのためにと思った事ならそれは正しいというのは、こちら側の一方的な正義にも思える。個人的には「正しい事」なんてのは100人いれば100通りの正義があると思っているんだけど、特にこの時期の楽曲が押しつけのように感じたり、全く響かないのはこの辺りから本格的に「正しい事」とは正義が自分の側にしか無いかのように思えるほど強い主張が多いからなのかもしれない。特にこの曲は今までのように"主人公である「僕」が気づいた事"という形式じゃなくて、最初から最後までこうあるべきという完全な「君」のメッセージ形式になっているので余計気になる。ノリ自体は明るくてポップだったのが救いか。それにしてもわりとアップテンポな曲なのに何で6分オーバーとか妙に長くなってしまっているんだろうか?サウンドメイクに懲りすぎたのか説教の詰め込みすぎなのか。
★★★☆☆
シングルバージョンアルバム未収録
14thアルバム『LIFE IN DOWNTOWN』(ALBUM VERSION)

3rdライブアルバム『SYMPHONY ORCHESTRA “cELEBRATION 2005”〜Heart Beat〜

C/W ゥンチャカ
おそらくライブで盛り上がることを想定したようなレゲエのリズムに乗せた"君"肯定ソング。ゥンチャカとはレゲエのリズムをそのまま言葉にしたもの。相変わらず教訓めいた物言いは含まれているものの、明るいノリなのでこの時期の曲の中では比較的すんなり聞ける1曲。
★★★☆☆
14thアルバム『LIFE IN DOWNTOWN

ココロノコンパス


35th ほんの少しだけ feat.KURO from HOME MADE 家族
06年2月1日
2週間前にはHOME MADE 家族のシングル「You'll be alright with 槇原敬之」にゲスト参加していたが、今度はこっちに招く形でのコラボ。ただしHOME MADE 家族3人ではなく"声の低い方"であるKUROのみの参加。KUROはラップだけでなく、作詞でも参加。歌メロを槇原が歌い、ラップをKUROが担当する。間奏だけラップというのではなく、導入メロ→ラップ→ラップとメロの中間(2人で歌唱)→サビメロ+裏でラップ進行、という構成。共作ということもあってか、説教ソングではなく久々にストレートなラブソング。やや地味な曲ではあるが、低音ラップと高音ボーカルのコントラストが鮮やかでかなり新鮮。
★★★☆☆
14thアルバム『LIFE IN DOWNTOWN

C/W Gazer
鈴木雅之へ提供した曲のセルフカバー。先にセルフカバーしていた「Boy,I'm gonna try so hard」と同時に提供していた楽曲。君を守れるような強い男になりたいと願うという歌詞の方向性が「ほんの少しだけ」と共通しているのでこのタイミングで収録されたものと思われる。意外と勢いがあるものの、「Boy,I'm gonna try so hard」の方がコクがあって好き。それにしてもコラボと提供曲という通常とは違う条件下で制作された曲だったためか、久々にラブソングが揃ったCDとなった。
★★★☆☆
アルバム未収録

ほんの少しだけ


いつでも帰っておいで
アルバムは下町をテーマにしたものだったが、いわゆる一般的なイメージ(ご近所同士の付き合いも深いみんな顔見知りみたいな)の下町の暖かさが前面に押し出されたポップソング。現代に果たしてこんな昭和のドラマのような町内の繋がりがある下町が存在するのかは分からないが、純粋に暖かさを感じられる1曲だ。
★★★☆☆
14thアルバム『LIFE IN DOWNTOWN


遠く遠く〜'06ヴァージョン〜
なんだかんだ初回盤ボーナス曲だったこの曲が1番ホッとできた。元々この曲は新社会人に向けて20代前半で書かれた曲だけに、メッセージがそのままストレートに伝わる原曲や桜ヴァージョンの方がタイムリーで好きなんだけど、少し大人の落ち着きを持ったこのバージョンもこれはこれで悪くない。結局のところ散々説法を説いたアルバム本編よりもグッと来てしまう。
★★★★☆
14thアルバム『LIFE IN DOWNTOWN』初回盤のみ
10thベスト『
Best LIFE

 

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