1stCover 和音~songs for children~
2002年3月6日
“先人達が残してくれたメロディにリスペクトをこめて…。”という主旨の元、多方面で活躍中のミュージシャンを1曲ごとにフューチャーして日本のスタンダードをカバー。このためいわゆる昔のヒット曲カバーというのとは異なる童謡・唱歌の目立つ選曲の異色のカバーアルバムとなった。新曲とセルフカバーも1曲ずつ収録。
ジャケットは先行シングル「見上げてごらん夜の星を」と同じフォトセッションによるもののようで、同じ赤ちゃん、同じ服装で3人と赤ちゃんが写っている。
先行シングル「見上げてごらん夜の星を」に先にハガキが封入されていたので今作には「プレミアム・キャンペーン2002」の応募券封入。
初登場25位とトップ10どころかトップ20落ちまで吹き飛び、先行シングルとほとんど変わらない売上となった。2001年の活動停滞からのカバー展開はやはり厳しいものがあったようで今作で一気に売上が激減し、2週目以降も垂直降下の勢いで急落していくという残った固定ファンが動くだけの状態となった。
当初一部媒体では『ion』のタイトルで告知されていた。DVD『on&off 2002 document of unplugged live&recordings』に収録されているメイキング映像の中で出来上がったジャケット写真のサンプルをメンバーが見ているシーンがあるがそのサンプルの1つにタイトルが『ion』表記になっているものがあるので、タイトル候補の1つだったのかもしれない。
1.見上げてごらん夜の星を featuring ダイアナ湯川
ヴァイオリン
Violin arranged by 山根公路&時乗浩一郎
Chorus arranged by 時乗浩一郎
2.今日の日はさようなら featuring 宗次郎
オカリナ
Strings arranged by 田川伸治
Chorus arranged by 時乗浩一郎
Ocarina arranged by 時乗浩一郎
3.夢で逢えたら featuring 原田知世
ヴォーカル
Chorus arranged by 時乗浩一郎
この曲と「月の砂漠」にはドラムは北村普也、アコースティックベースは高橋辰巳、アコースティックピアノは黒木千波留、パーカッションは仙道さおりという新起用というかこれっきりのサポートメンバーが参加している。
5月に吉田保にミックスエンジニアを変えてDEEN&原田知世名義に変更してシングルカット。
4.切手のないおくりもの featuring 上松美香
アルパ
作詞作曲:財津和夫、編曲:DEEN
Arpa arranged by 上松美香&山根公路
Chorus arranged by 時乗浩一郎
1977年のNHKの子供向け番組『歌はともだち』で発表されて出演者が歌唱した後に、ペギー葉山、ボニージャックスなど複数人が同時期にレコードで発表、翌年に作者である財津和夫とチューリップによる演奏でNHK『みんなのうた』に起用、その後何度か「みんなのうた」でリメイクされた際は財津ソロでの参加となっていた。レコードで財津和夫、チューリップ名義で発売してヒットしたわけではなく財津による歌唱バージョンもかなり後年のもの。「みんなのうた」として財津和夫の曲として広まったというのが一般的な認識と思われる。これも「今日の日はさようなら」と一緒で教科書に載っている童謡っぽい曲というイメージだった。
上松美香は当時19歳の若手アルパ奏者で、割とアイドル的な売り出し方で本人前面に出たジャケ写でCDデビューもしていた(この初期の頃のアルバムってJ-POP棚に紛れててBOOK OFFの安いコーナーに転がっている)。当時何度かメディアでも取り上げられていて今作のゲストの中では原田知世、BEGINに続いて”どこかで名前見た事ある人”だった。ドラムは藤沼啓二、ベースは宮野和也。
アルパによるソロ演奏の後のイントロ部分で英語で喋っているのはパーカッション&コーラスで参加しているGary Scottと思われる。元々はアマチュア時代からの音楽仲間だったようで前年のSHU「ANOTHER LIFE」のサックス演奏も担当していた。さらにAOR期のレコーディングに数曲参加するなどここからの数年で少し参加があった後、しばらく途絶えていたが3人時代末期の2016年AOR NIGHTにサポート参加すると2017年のソロ展開の際には池森ソロの「LIP」を共作、ソロ!ソロ!!ソロ!!!の池森ソロパートにも参加するなどDEENというより池森個人の音楽仲間としての色合いが強い。この曲ではパーカッションだがサックスプレイヤーとしての参加の方がメインだったりもする。
アルパという通常ヒットソングで使用されない変わった楽器の音色も印象的なイントロだが、目立っているのはイントロくらいで曲が始まると謎にブラックミュージックやゴスペルの色合いが強い仕上がりで終盤はコーラス隊も盛り盛りでカントリー風味も付け加えたようにテンポアップして盛り上がっていく。なかなか予測不可能で楽しい仕上がり。今作のカバーの中では1番聞いた曲かも。
今作の中でシングル2曲以外で唯一30周年ベスト『DEEN The Best DX~Basic to Respect~』に選曲されているのでファン人気も高かったようだ。ただ何故か同作では一緒に選曲された「見上げてごらん夜の星を featuring ダイアナ湯川」「夢で逢えたら featuring 原田知世」にはfeaturing表記があったのにこの曲だけ「切手のないおくりもの」表記になってしまい、featuring 上松美香が消されてしまった。何故だ…。
★★★★☆
9thベスト『DEEN The Best DX~Basic to Respect~』
5.戦争を知らない子供たち featuring 塩谷哲
アコースティックピアノ
作詞:北山修、作曲:杉田二郎、編曲:DEEN
Piano arranged by 塩谷哲
ジローズのカバー。厳密には1970年に大阪万博で歌われたのが初出でその際のライブ音源がライブアルバムに収録された後に全日本アマチュア・フォーク・シンガーズ名義でシングルカットもされていたようだが、ヒットしたのは翌1971年のジローズによるシングルで一般的にジローズの曲して知られているものと思われる。
このアルバムでは各ゲストの担当楽器のアレンジはゲスト本人ではなくメンバーや時乗浩一郎が手掛けているものも多いが、今作は塩谷哲が単独でピアノアレンジを担当。というかアコースティックピアノとボーカルしかないので、実態は塩谷哲アレンジ演奏による池森ソロ曲といった装い。しっとりピアノ伴奏で静かに歌い上げる。この声を張りすぎず抑えすぎずな絶妙なボーカルワークはこの時期限定の魅力がある。かなり厳かな雰囲気なのでシリアスな曲なんだと思っていたが、原曲はもっと軽快なフォークナンバーで意外と明るめだったりするので、原曲とは違う味わいがある。1970年当時ベトナム戦争の真っ只中であったが、日本では1945年の終戦から25年、戦後生まれの最初の世代が20代半ばになってきた頃に書かれた曲となる。2002年時点でその世代は還暦間近となっていた。子供達というか最早戦争を知らない日本人ばかりになってきている一方で原曲当時はベトナム戦争、2002年当時は911テロ(イラク戦争にはまだ至っていない)が起こっており、世界のどこかで戦争は続いているというそんな思いもあってピアノ伴奏で厳かに歌い上げるアレンジになったのかなという気もする。
★★★☆☆
6.風をあつめて featuring BEGIN
ヴォーカル&ウォッシュボード,スライドギター,オルガン
作詞:松本隆、作曲:細野晴臣、編曲:DEEN
はっぴぃえんどのカバー。1971年のアルバム『風街ろまん』に収録されている代表曲の1つで多数のカバーが発表されている。BEGINメンバー3人(比嘉栄昇、島袋優、上地等)が揃って参加。BEGINとDEENはメンバー3人でボーカル、ギター、キーボードで担当楽器が丸被りしているのでボーカルだけでなく、演奏楽器も分け合って演奏していると思われる。6人+ドラムHIDE、ベース宮野和也の演奏。
今作に関してははっぴぃえんど自体が神格化されているし、原曲がアレンジ込みで知られているためか、ほぼ原曲アレンジを生かしたままデュエット歌唱でのストレートなカバー。他の曲はけっこう大胆に色々変えたところもあるが、「夢で逢えたら」にしても今作にしてもオリジナルが神格化されているような曲に大胆な独自アレンジを加えまくるのはいかがなものかという現場の空気はあったのかも。サビでハモっているのが原曲と異なる部分でコラボカバーならではの味のある部分になっていると思う。
今作時点でのBEGINはシングルを出しても100位圏外になるほど低迷していたが、前年に夏川りみがカバーしていた「涙そうそう」がじわじわと売れ始めて、作者である森山良子、BEGINにまで注目が集まりだしていた時期だった。そんな中で同年5月の「島人ぬ宝」が最高47位ながら久々のヒット、新たなる代表曲となるなど下半期にかけてグングンと話題になっていき、なんと年末にはNHK紅白に「島人ぬ宝」で初出場、翌03年は夏川りみ、森山良子と3組合同で「涙そうそう」で2年連続紅白と一挙ブレイク。以後も売上自体はDEENより低いものの、知名度は上昇していい感じのポジションに収まり、取り上げられるときはDEENより遥かに良い扱いを受けるといういい感じのポジションへと出世した(明石家さんまのムチャぶりで27時間テレビ終了までに曲を作ってくれと言われてやってのけてコラボ曲的な形で話題になったりも)。
徳永英明の『VOCALIST』辺りからの本格的なカバーブームもこの後だったので、カバーブームを先取りしすぎた&方向性がちょっと違った、「見上げてごらん夜の星を」は平井堅に全部持っていかれる、コラボした直後にBEGIN大ブレイクで紅白出場…と、DEENのポジションは変わらないままだった。さすがにメンバーも自覚したのか後年DEENはやる事がいつも少しだけ早いと自らネタにするようになった。
★★★★☆
7.大きな空 小さな僕 featuring 宮本文昭
オーボエ
作詞:池森秀一、作編曲:DEEN
Oboe arranged by 時乗浩一郎
唯一のオリジナル新曲。宮本文昭は2007年にオーボエ奏者を引退、引退後の2010年には娘の宮本笑里(ヴァイオリン)がDEENと共演。今作制作時は高校生だった宮本笑里とも当時対面していたと2010年に語っていた。サポートバンドの起用は無く3人のアコースティックアレンジ+オーボエという構成。
童謡っぽい穏やかさのシンプルな3人のアコースティックアレンジにオーボエが絡んでいく優しい響きの1曲。この時期の池森さんの優しい響きの声の良さを生かした象徴的な1曲だと思う。シンプルに世界の大きさと自分の小ささと生きている事を改めて実感させられる。アルバムの流れの中でも違和感がない。逆にそれゆえ通常のDEENライブに置いて使いどころが無く、和音ツアーでは本編最後を飾っていたが(DVDではカット)、以後は演奏される事は無くマニアック送りに。マニアックナイト3回でも演奏されなかったが、Break20のBest of マニアックナイトでの追加枠で久々に演奏され(3人だけの演奏)、初映像化となった。
★★★☆☆
8.かあさんの歌 featuring 楊興新
胡弓
作詞作曲:窪田聡、編曲:DEEN
Chinese Fiddle arranged by 楊興新
NHK「みんなのうた」やダークダックス、ペギー葉山らによる歌唱でのヒットもあったようだが、一般的には教科書に載っている唱歌・童謡の系統の曲として有名な曲だろうか。ベースドラムのサポートは無くパーカッション(仙道さおり)のみ。
母さんが夜なべをして♪の歌い出しのあの曲であり、“夜なべ”という言葉はこのメロディーと共に覚えたというくらい教科書スタンダードなイメージがある。さすがにこれを大真面目にDEENでカバーするのはどうなのか…と正直思った。胡弓の音色により大陸から流れてきたような雰囲気になり、海を越えた故郷にいる偉大なる母への思い…みたいな感じでやたらスケールがデカくなった上に、アコースティック系の演奏メインのこのアルバムにおいて間奏で堂々エレキギターソロが鳴り響くのもビックリ。意外性に次ぐ意外性でなんか凄く東洋の神秘的な1曲になった。
★★★☆☆
9.月の沙漠 featuring 桑山哲也
ボタンアコーディオン
作詞:加藤まさを、作曲:佐々木すぐる、編曲:DEEN
Button Accordion arranged by 桑山哲也
今作の中でも群を抜いて初出が古く、1923年に詩人の加藤まさをが発表した詞にメロディーをつけて童謡として広く親しまれるようになった曲。誰の曲という認識はあまり持たれていないのではないか。ていうか当時でも1923年から79年経過、2023年のDEEN30周年時点で詩の発表から100周年じゃないかこの曲…。日本の抒情歌として昭和の人たちが抒情歌集みたいなアルバムで発表した事は何度もあったようだが、J-POP以降の歴史の中でまともにカバーして収録した例はなかなかないんじゃないだろうか。正直この曲は童謡としても知らなかったし、教科書に載っていた記憶もない。
ドラムは北村普也、アコースティックベースは高橋辰巳、アコースティックピアノは黒木千波留、パーカッションは仙道さおり。「夢で逢えたら」演奏メンバーからフルートとヴァイオリンを抜いた編成。情熱的かつアコーディオンの音色も合わさってどこかスリリングな勢いのあるアレンジは異国っぽい雰囲気。古き良きな詞曲は思いっきり日本的でそのミスマッチ感がなかなか面白い1曲。
★★★☆☆
10.少年 featuring Lynx
フルート、フルート、アルトフルート、バスフルート
作詞:池森秀一、作曲:山根公路・田川伸治、編曲:DEEN
Flute arranged by 時乗浩一郎
7thシングル両A面曲のセルフカバー。Lynxというのは2000年デビューの佐藤麻美,小池智子(フルート)、郡律子(アルトフルート)、松崎麻衣子(バスフルート)による当時若手のフルートアンサンブル4人組グループ。Lynxという名前がウェブブラウザ始め色々あって検索に不利な名前となっているものの2023年現在も4人変わらず存続している。ただ現在の公式プロフィールでは佐藤麻美がアルトフルート、郡律子がピッコロに担当が変わっている模様。この20年の間にパートチェンジしたのだろうか。Lynx4人に加えてドラム藤沼啓二、ベース宮野和也。
ストリングスというとまずはヴァイオリン、チェロなどを入れてくるのがJ-POPのお約束みたいになっていてフルートって意外と入ってこなかったりするが今作はフルート4人組なので通常のストリングスとは異なる笛系の響きでだいぶイメージが異なる。キーを落として優しく歌い上げる優しいアレンジに変わった事で、また違った感動が味わえるセルフカバーになった。
歌が終わった後のアウトロでフルートでサビのメロディーがリフレインされるところがとても感動的で泣けてくる。
★★★★☆
12thアルバム初回特典2ndバラードベスト『Ballads in BlueⅡ~The greatest hits of DEEN~』
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