音楽と契約した男 瀬尾一三

2020年2月10日発売

公式サイト

掲示板の方で話題に上がって発売されていたのを知ったこの本。瀬尾一三の歴史を本人コメントを元に誕生から現在までを時系列にまとめ、さらに吉田拓郎/中島みゆき/中村 中による寄稿文、萩田光雄/松任谷正隆/山下達郎/亀田誠治それぞれとの対談、そして最後に作品リストがずらっと掲載されている。

一応著者は瀬尾一三名義にはなっているが、瀬尾一三のインタビュー証言を軸にして本文をまとめているのはライターの人という体裁。

瀬尾一三のキャリア、特に初期に関してはあまり知られていないというかいつどうやって出てきた人なのかイマイチ判然としていない部分が多く、簡単に1969年に「愚」としてデビューしたのと、1973年ソロシンガーとしてアルバム『獏』を出したのは作品として残されているのでまあ確実に経歴になれば記載されてはいるがその経緯は良く分からなかった。

実際wikiにはアルファレコードに入社して2年で退社してソロデビューしたが売れなかったのでプロデューサーへ転身したみたいな書き方がされていたが、実際にはソロのミュージシャンとしてやっていくつもりは無くて退社時点でアレンジャー志向であり、アレンジャーとしての自身のプロモーション用に作曲兼アレンジのデモとして作っていたものがあのアルバムだったと明言されていて早速話が違う

デビュー前後の経緯の話から実に興味深いがその後手掛けていってキャリアを重ねていく様子も時系列にしっかり語られていて淡々としながらもようやく瀬尾一三の辿ってきた道筋が見えたというか。特に全くリアルタイムではないだけに前半だけでも面白かった。

そして個人的に核心に迫っていったのはやはり中島みゆきとの出会いとそれ以降。単純に編曲クレジットだけ見ても中島みゆきを手掛けるようになると同時にずっと手掛けていたチャゲ&飛鳥を離れ、徳永英明、長渕剛を並行していた時代もやがて終わり、90年代半ば頃からはほぼ中島みゆき専任のような状態になっていったのは分かっていったが、これまで明かされていなかった何故中島みゆきが瀬尾一三を突如起用したのか中島みゆきの短い寄稿文によって恐らく初めてその理由が語られ、そして瀬尾一三からの中島みゆきの最初の印象、やがて事実上専属になっていった理由、途中から海外レコーディングへ傾いていった理由、そして2014年の『問題集』から国内レコーディングに戻った理由も語られている。

またかなり衝撃的な中島みゆきの普段のアルバムの制作スタイルも明かされていて、この話はその後の対談でもほぼ毎回してその制作スタイルに対談相手が驚くというやり取りが繰り返されるので多少何度も重複する話にはなるが、いやこれビックリ。あの松任谷正隆がただ一言「すげえ」という反応を見せるほど

同時に瀬尾さんは対談の中でいつまでやれるかについても言及していて、それは中島みゆきにも直結してくる事になりそうだ。もしかしてコアな中島みゆきファンだとどのように瀬尾さんと作っているのかどこかに情報が出ていて知っているのかもしれないけど、対談相手が揃って驚いているので周知の話ではないと思われる。そんなわけで中島みゆきファンであるなら割と必読書かもしれない。

全部聞いたとはいえ中島みゆきのコアなファンではないし、瀬尾さんのコンピ盤も3作買ったとはいえ瀬尾さんのファンというわけでも無かったが、1人のプロデューサーの人生をまとめた本としてかなり面白かった。

個人的には瀬尾さんのアレンジは時に重厚すぎると感じることも多かったりはするんだけど、それでもなんていうか常に生の迫力というか躍動感を感じる理由はこういうやり方とこだわりを持っていればなるほどと納得できるところもであった。最近の電子音多用(=ライブでの同期多用)の傾向に味気無さを感じるところもあるので、瀬尾さんの志を受け継いでいく人材って改めて必要なんじゃないかなとも思った。

音楽と契約した男 瀬尾一三
ヤマハミュージックメディア (2020-02-10)

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