2025年6月4日発売
2020年の『ZARD/坂井泉水~forever you~』の続編。前作と違い最初から一般発売されたが、「ミュージックフリークマガジン通販サイト」のみ初回限定版特典「カバーアートカード付きBookmark」付(一般発売より1100円高い)。
前作同様に関係者インタビュー集として構成されており、前作25名に対して今作は14名+special枠で長戸大幸、そして前作では25名の1人だった寺尾広がインタビューではなく実質的なあとがきのような締めの文を担当している。寺尾広以外は前作との重複はない。また人数は減ったが前作より写真が多く、本文途中の白黒写真も増えているほか、巻頭だけでなく巻末にもカラー写真が掲載されている事でページ数は前作と同じになるように調整されている。
B社に残っていたor証言が取れる円満離脱の主要な作家陣は前作にほぼ軒並み参加しているため、今作では外部/離脱/復帰組の関係者である春畑道哉(TUBE)、大黒摩季、川島だりあ、小澤正澄、池森秀一(DEEN)、浅岡雄也(FIELD OF VIEW)のインタビューが実現しているが残りは音源制作以外のスタッフ(マネージャーやFC担当、ライブ制作担当)証言となっていて、最初の6人の豪華さに比べると7人目以降は基本的に知らない人ばかりとなった。ただし坂井さんと会った回数で言うと大黒摩季以外のミュージシャン勢はコーラス参加のあった川島だりあ以外は1回会った程度なので彼らはもらった曲や作った曲について語るのが中心。裏方の担当スタッフの方が接している回数がけた違いに多い。そんなわけで今作は楽曲制作よりも坂井さんの素顔に触れていく内容が多くなった。
大黒摩季と長戸大幸は特番などでもかなりペラペラ語っているので、これ既に知っているぞ…という話はちょっと多かったか。あと『永遠 君と僕との間に』と前作、そして特番等でここ10年くらいで新証言が続出した事で、耳の持病で1994年を最後に退いたはずの長戸大幸がProduced by IZUMI SAKAIになって以降も晩年まで常に坂井泉水と一緒に制作をしていたみたいになってしまっていた。特に前作はGIZA以降の後輩勢の証言が多かったため、坂井さんと会った時のエピソードを聞かれると揃いも揃って長戸さんと一緒にいた、長戸さんが連れてきた…と“長戸が…長戸が…”しすぎてしまい、坂井さんあるところに長戸あり状態。さすがにちょっとまずいと思ったのか、今作ではスタッフ証言で“1994年に耳の持病で長戸大幸が退いて大阪に行った”事に触れて実際に現場に来なくなったエピソードを紹介させたり(結局その現場では長戸不在で的確なジャッジを下せる者がいなくなって困り果てていたところ来ないはずの長戸氏が突如やってきて的確な指示を出したという話でいつもの長戸スゲー話にはなってしまうが)、セルフプロデュース以降は坂井泉水が中心になっていたと再度強調して書かれている部分が増え、“長戸大幸は退いて以降も随所で坂井泉水からの相談は受けていたが基本はZARDは坂井泉水のセルフプロデュースだった”という話に軌道修正してきたな…という印象は受けた。
前作までの”長戸が…長戸が…”は凄く異様だったからなぁ…。“生前坂井さんは○○と言ってた”シリーズもどんどん増えたし…。この生前言ってたシリーズも同様にやりすぎたと思ったのか、今作では「愛は暗闇の中で」の追加歌詞の件を補強追加エピソードとして長戸インタビュー内で自然な形で紹介するだけに留め、『時間の翼』やり直したかった問題や「遠い日のNostalgia」ショートサイズがお気に入りだった等の他の”生前言ってたシリーズ”を改めて紹介するような事はしていない。
という事で春畑道哉(TUBE)、大黒摩季、川島だりあ、小澤正澄、池森秀一(DEEN)、浅岡雄也(FIELD OF VIEW)が関係した楽曲のエピソード、そしてスタッフが見た坂井さんの素顔をさらに深掘り…といった内容で、近年の”長戸が…長戸が…”を筆頭とした不自然さをもう少しナチュラルな形に軌道修正してきたような本でもあったかなと思う。
なお相変わらず辞めた人の名前をあえてなのか出さない傾向は感じられ、長戸インタビュー内ではデビュー曲の話でいきなり「作曲家」と織田哲郎の名前を出さず、「負けないで」でも出さず…とそんなに出したくないのかと思ったら何故か「瞳そらさないで」の話の時には1度だけ”織田哲郎さん作曲のデモ”と何故かさん付けで登場。「愛は暗闇の中で」の追加歌詞を歌唱した上木彩矢の事は名前を出さずに後輩シンガーとするなど線引きは良く分からなかった。
あと個人的に長戸氏大丈夫かな?と思ったのは、デビュー曲からいい曲をいきなり出しても売れないという説を展開した際の実例としてビートルズは「She Loves You」をデビュー前に持っていたはずだがあえて「Love Me Do」でデビューしたという珍説を唱えていたところ(Spotifyのトーク番組でも全く同じ話をしている)。ビートルズの楽曲がいつ作られてレコーディングされたかの詳細は研究されつくしており、「She Loves You」はデビュー翌年リリースの少し前の1963年6月に制作されてすぐにレコーディングしたとされている。デビュー前には存在していない事になる。レコードマニアとして知られていた若き日の長戸大幸がそんなビートルズクラスの常識を知らなかったとは考えにくく、ちょっとどうしてしまったのかなという…。
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