リモートで殺される

20年7月26日放送。日テレ日曜22時30分~23時25分の日曜ドラマ枠で夏クール開始前に単発ドラマとして放送。春クールは『美食探偵 明智五郎』で1ヵ月近い新コロ中断もあったが全9話だったので6月で終了していた。7月は丸々空き枠となっていて次クール『親バカ青春白書』は8月2日放送開始でその1週間前に今作。

緊急事態宣言下の5月。高校時代の同級生6人、絵里(本田翼)、優作(新田真剣佑)、太(柄本時生)、透(早乙女太一)、淳二(前野朋哉)、佳代子(前田敦子)がリモートで集まっていた。開口一番にもう1人の同級生古郡一馬について警察が訪ねてきたと言い出す太。どうやら何かに巻き込まれて行方不明らしい。古郡一馬に最近会ったという透だったが、透が席を外すと絵里は透が嘘をついている、最近自分も一馬に会っていたと言い出す。そして絵里は高校時代に自殺した田村由美子(齋藤飛鳥)の話を持ち出す。一馬はその事を調べていたらしい事が発覚して6人はあの日の事を思い出す…。

高校時代、教室に居残って佳代子の誕生パーティーではしゃいでいた6人。違法薬物をキメてラリっていた面々はラリラリのハイテンションのままワケが分からなくなっていたが、同じく居残っていたらしい由美子の死体を発見してビビッて逃走していた(ラリっていたのがバレたら退学確定進学取り消しで人生終わるから)。由美子の死は遺書も発見され、自殺と処理されていたため、全員そう信じていたらしいが…。

と、いきなり「世にも奇妙」のホラーサスペンステイストになって一気に真夏の夜の悪夢どころか大惨劇みたいな展開に。まず一馬の家が火事になって身元不明の焼死体発見のニュースを佳代子が発見して全員パニックになり、佳代子の元を何者かが訪ねてきたと思ったら佳代子の音沙汰が無くなってしまう。バイクで15分の淳二が向かうが、その後猫によってズレた画面に佳代子の死体が…。さらに淳二も行方不明のまま。やがて透に淳二からの電話がかかってきたが線路にセットされていたらしく直後に粉砕音が…。

透の回線が唐突に途切れて行方不明になり、太は音声オフになってしまい、音声オフのまま絵里と優作の目の前で背後から忍び寄ってきた殺人者によって一撃キルされてしまう。優作の元にも何者かがやってきて田村由美子が付き合っていた相手の検討がついた!犯人は…と絵里に告げるが、犯人は窓に回り込んでガソリンとライターで放火。何故か逃げずに優作もそのまま焼死

1人取り残された絵里は田村由美子の母に電話、付き合っていた相手の名前を聞きだして驚愕する。振り返ると「わーたーしー」と死んだはずの佳代子が登場。佳代子に変なところはあり、冒頭でビールを取りに立ち上がった際に明らかに画面外の誰かに目配せしている様子があったのが気になっていたので古郡一馬の火事のニュースがフェイクだったり(これはフェイクではなかった)、犯人だったりはあるのかな?とは思ったがいざ出てくるとそれでも怖いな…。

高校時代、佳代子と由美子がキスしているのを目撃した絵里は激怒して由美子に迫り転落死させてしまっていた。じゃあ今さっき聞いて驚愕していたのはなんやねん?と謎が謎呼ぶ中、由美子の元へ行こうとナイフ片手に迫る佳代子、背後に浮かび上がる由美子の亡霊でTHE END!出た!秋元康原案お得意の散々盛り上げておいて放り投げっぱなしエンドォォォォォ!!!

そもそも最初に由美子の話を持ち出したのも絵里なら、一馬がラリって撮った写真に写っていたというのは”由美子に迫る絵里(顔は見えない)”の写真だったわけだから、一馬は絵里が由美子を突き落としたかもしれないと分かった上で絵里に会いに来ていたはずなのに、絵里は「怖くて見れなかった」と言い放ち、第3者が写った写真だろうと呑気な示唆をしていた。殺した事も全部忘れてて二重人格になってた?

と、またしても秋元原案(実際は「企画・原案」なだけで脚本は名も無き部下(今回もお決まりの匿名ネーム「元麻布ファクトリー」名義)に丸投げ)にしてやられた…。

新田真剣佑だけ若くて後は大体アラサー付近なので概ね28歳設定、高校時代10年前設定と思われるが飛鳥だけ若いのは故人設定で回想でしか出てこないから。といっても飛鳥と真剣佑、2歳くらいしか離れてないけど…。なかなか小悪魔感のある回想でちょっと出ただけだけど怖い感じの役どころだった。

佳代子の単独犯では説明がつかず、全く話が決着しないがそこはHulu商法。「殺人の裏側編」と称した文字通りにリモート画面外で起きていた出来事を交えて再編集した真相バージョンをHuluでやるという今まで見たHulu商法の中でも特に商売上手な展開だった。

『殺人の裏側編』

Hulu限定配信。真相のみではなく、本編映像に新たなシーンを追加した内容となっている。

新たに判明したのは

冒頭で一馬が殺されていてガソリンと時限発火装置らしきものを仕掛けている犯人が登場。

顔は出てこないが、事件のキーとなったガラケーを犯人が回収している事、一馬は元々現在の役者を用意してないのでここでも顔は出てこないが時限装置と一緒にこれ見よがしに腕輪が映し出された。この腕輪は高校時代の回想の一馬でもわざわざドアップにして映し出しているので明らかに示唆している。冒頭シーンではガラケー回収から犯人去っていく映像の手前に腕輪のアップ、13分付近の回想シーンではラリってぐったりしてみんながわいわいのぞき込んでいるのを上から捉えたカメラがガラケーと腕輪がセットで見えるようなカットをしばらく映した後に丁寧に腕輪アップ&ガラケーもアップ。どちらのシーンでも役者がハッキリしてない本人の姿よりも腕輪とガラケーを意図的に目立つように映し出していてこの両者が同一人物=一馬だと示している。

何故か考察しているブログの中でこれをすっ飛ばして、一馬が生きていて第3の協力者で優作殺害は一馬だ!などと頓珍漢な事を書いているブログが複数あったが例外なくHuluへのアフィリエイト誘導をしており、仕事優先でドラマをちゃんと見ていないと思

またこのシーンでバッグを回収している事から佳代子が証言していた「透と3人で会っていた。一馬が預かってくれとガラケーをバッグを置いていった」は嘘になるが、透がバッグを用意して佳代子の部屋に来るシーンがあったので一馬殺害犯は透か?しかし後の回想シーンでは例のガラケーを佳代子が透に見せて共犯を持ちかけるシーンもあり脚本の序盤と終盤で設定が破綻している。

透が一馬殺害→ガラケーを回収して佳代子の元へ行き渡した(描写あり)

と序盤で示唆しているのに、後半の回想では

ガラケーは佳代子が既に回収していて透にそれを見せて共犯を迫った→しかし何故か当日ガラケーとバッグを透が持ってきて佳代子に渡した

本編でもあったビールを取りに行った際の佳代子の謎の目配せの相手は透。透は佳代子にガラケー入りバッグを渡すと自らは隣の部屋でリモートに参加していた。

ここでガラケーを透が持ってきてバッグに入れて設置するなんていう謎動作を入れたせいで矛盾が…。この時点では一馬殺害は透で透がガラケーを回収してきた設定だったのか?一馬は行方不明になっているらしい描写があったので殺害は今日の話ではないはずだが自宅に死体放置してたとなると警察も何やってたんだか…。

インターホンが鳴って画面から消えた後の佳代子がノリノリで血のりでメイクアップしているカットが追加。

透が仕事の電話だと言ってリモートを切っている間に佳代子が横たわり、そこに透が猫をセッティング。さも猫が通りがかってPCを倒したかのように見せかけて佳代子の死体(嘘)を映し出す。

特にニセ電話をしているような追加描写も無いがこの後で110番していた透は全部演技だろう。

その後佳代子のPC画面がさらに動いて佳代子の死体(フェイク)がフレームアウト。これは細いテグスを使って透がリモートに映りながらもこっそり引っ張っていた。

ここだけ地味なトリック…。この後で画面を持ち上げてスタスタ動き回り、ソファーの上に画面が固定されるがこれを誰がやったかの描写は無し。まあフレームアウトした佳代子がやったんだろうけど、何故か追加描写なし。

また透が淳二からの電話だと言って踏切でスマホが粉砕される描写があったが、これも裏側は特になし。単に透の仕掛けたフェイクだったと思われる(この時点でまだ淳二は到着もしていない)。

透の画面が消えた後、透はナイフを持って動き出す。

淳二が佳代子の家の前まで来てドアをドンドン叩いている時に振り返って誰か知り合いらしき人物に出くわしたかのような「おお!」を発したまでは本編でも放送されたが、透だったと発覚。ほぼノータイムでナイフで3連発くらい刺して佳代子の家に放り込むと確認もせずに去っていく。

確認もせず家にポイしてとっとと去ったのは次の太の漫画喫茶まで超速で向かわなければならないから…。

瀕死の淳二はそれでも佳代子を心配しながら這って進んでいくが、待ち構えていた佳代子は容赦なくトドメの一突き。ていうかこれまた3連発くらい滅多刺し。

自分が瀕死なのに佳代子気にして這ってでも進もうとする淳二スッゲーいい奴っぽいのに何で双方にこんなザックザック何度も刺されるほど恨まれてんの…?

太を刺したのも透と判明。リモート画面では一撃キルで仕留めて画面も血で真っ赤になっていたが、実はフレームアウトしてからこれまた3連発くらい滅多刺しにしていた事が判明。

淳二ほどではないがやはり何度も刺されるなど恨まれっぷりがハンパない。しかも淳二は刺されるたびにうめいていてそれも悲惨だったが、太の場合マジで一撃キルだったっぽく2度目以降は既に死んでいるのに刺していたような…。

優作殺害犯は何故か裏側一切明かされず、誰がやったのかも映らないまま

透の佳代子宅淳二殺害からの漫画喫茶に一瞬で移動して太殺害、の時点で移動時間に無理があるのに立て続けに優作の家に出向いて殺害では佳代子でも透でも超速移動の矛盾が浮き彫りになってしまうためか、ぼかして逃げたか…?

1人残された絵里が由美子の実家に電話をかけて話を聞くシーンで新たに「実はあの日学校にいた。ドラッグをキメててバレるのが怖くて言わなかった」と懺悔するシーン追加。

これ入れられるとますます絵里のサイコ・二重人格っぷりが…。

佳代子の部屋で佳代子が透に例のガラケーの写真を見せて絵里が由美子を突き落とした犯人だったと説明。驚愕する透に復讐したいから協力してという佳代子だったが透は困惑。しかし佳代子は透におでこをくっつけてもう1度ホラーじみて「手伝ってくれるよね?」…と告げると透は無表情で操られたかのように快諾。

謎すぎ。佳代子は見つめた相手を意のままに操る事の出来る支配する眼Domination Eyeの能力者(おでこをくっつけるなど至近距離だとより効果アップ)でしたというシーンなのか?

由美子死亡に至る回想も新たに追加。由美子と佳代子のキスを目撃して激昂した絵里は由美子殺害を決意しドラッグでみんなラリっている中で1人飲まずに正気で素早く屋上に出向いてナイフで特攻して突き飛ばした…のは本編でも明かされたが、ドラッグをみんなに飲ませたのは絵里だったというシーンが追加。

ただしドラッグを用意したのは一馬という事になっていて絵里がそれに便乗して利用した形。衝動的に殺害を決意した割には知恵が回るじゃないですか。ますますサイコっぷりが…。

さらに自ら由美子を見かけた、屋上に向かうと言っていた事も判明。

1人ラリってないので普通に動き回り、ラリっている他のメンバーは動きが鈍っているのでこの隙に素早く片を付ける=自殺に見せかけて突き落とす気満々の超計画的犯行じゃないですか…。

由美子との会話も追加。絵里が由美子を佳代子の事で話があると屋上に呼び出していた。由美子は「男子たちも佳代子も私のこと好きなんだから私に言っても無駄」とモテ自慢。ナイフを取り出していつも死にたいとか言ってるよね?そこに立ちなさいよ!と絵里が迫っていった事も判明し、ナイフで刺す気は無く突き落とす気満々だったことがさらにダメ押し。

由美子の悪い女っぷりが霞むほどの、絵里のサイコさん。完全にサイコさん。

無関係の男子勢が殺されまくった理由は佳代子曰く「1人じゃ寂しいから」

それにしたって惨殺しすぎ。こっちもサイコさんだった!

マジで殺される理由ない男子勢だったのにあまりに惨殺されすぎ…。

ラストシーンもちょっとだけ追加。佳代子が「由美子とのところへ行こう」と手を取るカットからもう1歩、2人が亡霊由美子の方へと向いて歩きだすのが追加された。

ホラー感増しただけでこれは特に意味なかったような…。ていうかこれにより佳代子が支配する眼Domination Eyeだけでなく冥土送りHades Guideの2つの能力を持っている熟練の念能力者だったとかじゃないと成立ししないぞ…。あんだけビビッて取り乱していた絵里が佳代子の登場後はほとんど喋らずに言われるがまま冥土送りHades Guideに従ってしまったのも佳代子が支配する眼Domination Eyeの能力を使ったから、とした方が自然になってしまう始末。

結局絵里の当時のサイコパスっぷりと現在の挙動の矛盾については一切触れられず、絵里が自ら記憶を改ざん(記憶改竄Memory alterationの能力)していたのかも不明のままだったが、そうじゃないと数々の言動がやはり不自然。やたら突き落としたとしたら第3者のせいにしようとはしていたけど、これも自分は犯人だからというより記憶改ざんの一種だったほうが自然。それにしてはあっさり振り返ってはいたけど、まあ色々壊れていたのだろう…。

もしくは記憶改竄Memory alterationではなく、佳代子の支配する眼Domination Eyeの能力により、既に絵里は物語開始前に佳代子に罪を暴かれた上で記憶を消され、物語開始時点で支配する眼Domination Eye支配下にあり、自分が由美子を殺した事については忘れている状態だった、とすれば自ら由美子の話題を最初に出した事に始まる一連の矛盾した言動は説明しやすい。佳代子の登場で能力が1度解除されて放心状態となりほぼ無言になり(というか事前に罪を暴かれた時点で心が崩壊してこうなっていた的な)、再度支配する眼Domination Eye冥土送りHades Guideの併用でフラフラと由美子のいる冥界へ。おお、なんか辻褄が合ってきた…。

というふざけた能力設定にするとほぼ全ての矛盾が消え去る…。由美子の遺書を偽造したのはもちろん絵里だったんだろうけどその辺の説明も一切無かったが、既に事前に犯行自白済みだったとすれば改めてあの場でその事を懺悔する必要も無い。そして仲間が惨殺されていく瞬間を見せつけて恐怖を味わってもらう事が「復讐」だったとすれば何とか。惨殺された男子勢は浮かばれないけど浮かばれる設定無いでしょこれはもう。

でないと佳代子の復讐という犯行動機と肝心の復讐対象へは冥界案内だけで男子勢を惨殺したのは何なのか。同性愛者でマジで男が嫌いだったのか。ていうか合鍵持ってて絵里と佳代子も付き合ってた風(なんか2ショットの写真も飾ってあった)でもあったので、結局出てきた女の子3人とも同性愛者だった事に。

あと透どうなった?

という事である程度は明かされたけど綻びて生じた矛盾はスルーした、といった感じ。面白かったけどもう少し明かしてほしかった。どんどん殺されていく事で視聴者を怖がらせようというのが前提にあったせいで、恨みの無かった相手が惨殺されまくるという物語は本末転倒もいいところだと思う。

不明点は

・一馬のガラケー所有の矛盾(佳代子が持っていて透に見せて共犯を持ちかけたのに何故か当日は透が持ってきた)。
・一馬を殺したのはどちらか?(冒頭シーンでは一馬が殺してガラケー回収して持ってきたように設定されているのに最後の回想シーンでは佳代子がガラケーもう持ってて透に共犯を依頼しているので明らかに台本の最初と最後で設定が変わっている)
・一馬はいつ殺されたのか(警察が追っていたのに自宅で死んでいて時限装置で焼死とは?)
・寂しいから、の一言で片づけらた男性陣への殺害動機。その割にやたら恨みのこもった滅多刺し
・透の協力理由&最後に抵抗せず冥土送りに従う絵里(どう見ても佳代子のマインドコントロール能力で操ったかのような描写)
・絵里の言動の数々(どう見ても人格分裂していたとしか)
・佳代子はともかく、透の超速移動能力(佳代子の家→漫画喫茶→優作の家)
・太の音声オフトラブル(透が事前に仕掛けていた?さすがにリアルタイムで回線に細工までしてたらやる事多すぎる)
・優作殺害が佳代子だとしても佳代子が超速移動になるだけ(一瞬で優作の家→もう絵里の家に忍び込んでいる)
・佳代子が淳二殺害後に自宅→絵里の家への移動だけなら頑張ればまあまあ時間はある
・佳代子の死体披露演出は透が猫を手動で放ってPCを倒させて行ったが、同じように映し出された淳二は猫が自らナイスタイミングでPCにアタックして同じ構図を再現というミラクル

前述の佳代子の能力に加えて、透に瞬間移動teleportationの設定を加えると概ねガラケー問題の脚本ミス以外の犯行経緯は説明できる。しかし男性陣無駄に惨殺されすぎ問題は残る。

となると、能力超設定ではなく、絵里を追い込むために、全員が演技していて絵里以外が全員協力者だった、追い込まれた絵里はついに当時の犯行を告白する、という王道のミステリーで構成したほうが矛盾は無かった。ホラーっぽくしたいなら絵里が記憶改ざんによって忘れてて追い込まれてついに自分が犯人だったと思い出して発狂する、とすれば世にも奇妙テイストの怖さも十分出るし、背後にちょっと亡霊が浮かんでもまだ許容範囲だろう。

どんどん殺されるというのが前提にあったので、なんか色々おかしくなってしまったような。面白いには面白かっただけに結局Hulu商法までして能力者設定補完でもしないと成立しないお話でしたでは怒る人も多いだろう。

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