サマータイムマシン・ハズ・ゴーン

2021年10月8日深夜(1時間)フジ系ローカル放送。

01年に初演された劇団ヨーロッパ企画の大人気戯曲で、2005年に瑛太主演で映画化された『サマータイムマシン・ブルース』ムロツヨシの初出演映画でもあった。今作は以降も親交を続けていたムロツヨシとヨーロッパ企画のメンバーがお送りする新たな物語として新たに制作された。

ムロツヨシが演じている人物も別人で『サマータイムマシン・ブルース』とは一切のストーリー上の繋がりはない。タイムスリップを巡るストーリーという大枠のみが共通している。

ストーリーテリングパートとしてムロツヨシと劇団ヨーロッパ企画メンバーによるタイムマシンを巡るドタバタ劇を最初と各ドラマの合間と最後に挟んでいく形で展開。加えてそれぞれ全く別物語の短編3本、上白石萌歌主演の『リマインド』、矢作兼(おぎやはぎ)主演の『あいつのミラクルショット』、久保史緒里(乃木坂46)主演の『乙女、凛と。』で構成。

ストーリーテリングパート

久々に集まったコマツ(ムロツヨシ)ら映画サークルOBの面々は行きつけだった中華料理屋が1ヶ月前に閉店して駐車場になっているのにショックを受けてカフェで懐かし話をしていた。話が学生時代にタイムスリップモノの映画を撮りたかったという話になってくるとカフェ店員が昨日急にタイムマシンが店先においてあったと言い出す。ネタのつもりで試乗したメンバーの1人が実際に設定した機能にタイムスリップして戻ってきた事から、全員で無理やり乗り込んで1ヶ月前に戻って潰れる前の中華料理屋で食事をするためにタイムスリップ。

しかしそこにタイムスリップを取り締まっているタイムパトロールが出現。揉めているとタイムマシンが無くなっている事に気づき…とドタバタ劇が展開。結果的には一行は自力で1ヶ月前の自分たちに遭遇しないように潜伏して1ヵ月間共同生活で乗り切り、自分たちがタイムマシンで1ヶ月前へ移動していなくなった世界線から人生を再開するという奇策で乗り切るのだった。

某監督作品での佐藤二朗と共にふざけ倒すムロツヨシとそれ以外での真面目な役者ムロツヨシとでは前者ばかり見ていたこともあって今回のコメディだけど某監督作品ほどふざけていないムロツヨシは逆に新鮮で面白かった。なんだかんだ辻褄がちゃんとあっているところも含めて『サマータイムマシン・ブルース』の世界観がちゃんと生きているなぁと。

リマイン』

女子大生のカズノ(上白石萌歌)はSF好きの共通点から本屋で運命的に出会った彼氏(戸塚純貴)と恋に落ちる。めくるめく楽しい日々を過ごした2人だったがとあるきっかけから彼氏の方から別れを切り出されてしまう。過去へ戻っていっそ出会わなければと願ったカズノは出会う直前の本屋にタイムリープ。以降は念じるだけでそのタイミングに戻れるようになり、出会わないように様々な行動をとるカズノだがどういうわけか必ず出会ってしまう。いい加減頭にきて直接本人になんで回り込んでくるんだ!と激怒したカズノだったが彼氏もまたタイムリープしていて同じ事で怒っていた。そこにタイムパトロールが歴史修正に登場。出会ってしまうのはとてつもない必然だが別れてしまうのもまた必然だという。

記憶を消されてこの無限ループから離脱させるパトロール。しかし出会いも運命だと聞いたカズノは消される直前に未来の自分(別れ話直前の自分)へメッセージを送る。そして別れ話運命の瞬間。実は見た映画のTV版の結末をうっかりネタバレしてしまったのが原因だった。話してしまう直前に先ほどのメッセージ「ネタバレ厳禁」が間に合い、ギリギリで内容を話すのを止めたカズノ。彼氏はもしそれ以上言っていたら別れ話になっていたよと言い出し、まさかそんなぁと仲良く談笑したまま終了。背後では確認に来ていたタイムパトロールがあれ?って感じで見ていたが…。

あまり嫌な感じにならない終わり方だったが、なんだか色々マイルール、独自の許せない事項が多い、地雷原多数所持男っぽかったので、ここで別れを回避してもすぐに地雷を踏む時はやってきそうな気がしなくもない。

あいつのミラクルショット

バーで妻と待ち合わせしていたホリユウマ(矢作兼)の前に突如もう1人の自分がやってくる。見ればバーのマスターももう1人の客も増えている。バーのマスターによると時々時空が歪んで今の自分とは異なる人生を歩む並行世界の自分と対峙することになってしまうらしい。修正するためにタイムパトロールを呼んだのでそれまでは自分自身と話でもしててくれという。

ユウマは堅実な人生を歩んで堅実な幸せを掴んでいたが、並行世界のユウマは若い頃のとあるきっかけで賭けに出てこれが大成功して金持ちになっていた。一方でユウマは妻と結婚したが、並行世界のユウマは独身のままだという。

妻が現れてからはカオスな空間となったが、やがて口論になった2人はビリヤード対決をすることに。大胆な賭けに出まくる並行世界ユウマと、堅実に進める現ユウマとでは性格もプレイスタイルもだいぶ異なっていたが、勝負は拮抗。最後は無謀な賭けに出るのではなく笑いを取る形でゲームを終わらせた並行世界ユウマは修正が終わってこの世界からは去っていくのだった。

若い頃の選択で人生が変わり、性格も大きく変わるというさじ加減が絶妙だったが、どっちが良かったという事ではなく、どっちにも幸せがあるどっちが正解という事はなくどちらも人生だというように描いていたのも好印象だった。妻の方も成功したユウマの方になびくのではなく今の幸せをちゃんと大事にしていたし、全体に優しい作りだった。

乙女、凛と。

同じ久保史緒里主演でヨーロッパ企画で今年6月に上演された舞台「夜は短し歩けよ乙女」とリンクしているらしく、“少し大人になった乙女が先斗町で未来を思う話”とされている。フォークデュオの相方として舞台にも出ていた藤谷理子もそのまま出演しているが舞台の話を全く知らないのでどうリンクしていたのかは分からない。

フォークデュオのライブ成功後、20歳になったこともあってちょっといい感じのバーで酒を飲んでいたカノン(久保史緒里)と相方(藤谷理子)。そんな2人に近くで飲んでいたオジサンがこの周辺では1分後の自分と通話することができるという秘密を教える。1分程度なのでそんなに大きく使い道があるわけではないというが、試してみたカノンは実際に1分後の自分と通話。そして1分後には1分前の自分から電話がかかってきて今聞いた話を伝える、という事を繰り返す。

カノンは相方にこの先もプロを目指してデュオを続けたいと言おうとしていたが迷っていて1分後の自分に後押しをもらって先に出た相方を追いかけて行って告げる。相方は別の夢を目指して留学するためそれは出来ないと断る。明るくエールの酒を送るカノンだったが、相方も歌を続けてほしいと言う。それでも相方と一緒がいいんだと寂しげなカノンは1分後の自分とのハーモニーで歌うのだった…。

と、あまり大きな展開はなかったがちょっぴり切ない感じの余韻系青春モノ。

先の10代最後の主演ドラマでは人外の設定で全く等身大ではなかったので、等身大の設定の久保史緒里が見たいなと思っていたが今作はまさに等身大。わざわざ先日20歳になったばかりだとかリアルに合わせてきてお酒を飲んでいたり、オリジナルソングをアカペラ美声で聞かせてくれるなど、久保史緒里をそのまま生かした形で良かった。こういう主演作を見たかったんだよ…。ヨーロッパ企画さんマジ感謝。

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