2018年公開。劇場版22作目。
6作連続でのシリーズ最高興収突破を果たした。
前々作『純黒の悪夢』で映画初登場を果たした安室透/降谷零がメインゲストキャラとなった。登場当初は突出した人気は無かった安室だが、ここに来てとてつもない人気を獲得して、これまでとは違う女性ファン層を開拓。今作と同時期には別作者による公式スピンオフで安室の日常を描いた『ゼロの日常(ティータイム)』の連載も開始されるなど、コナン史上かつてないキャラ人気を獲得するに至った。『ゼロの日常(ティータイム)』はコナンの休載時にサンデーに代わりに掲載されるという形で始まっているが現在ほぼそっちがメインで連載されている状態である。
コナン本編は「あの方」正体発覚を突如行うと同時に2017年末に作者の体調不良で長期休載を発表したが今作公開に合わせて4ヶ月ほどで連載を再開した。しかし以前にも増して休載連発となり、『ゼロの日常(ティータイム)』掲載の方が多いような状態へと突入している。
安室は元々ガンダムネタ
個人的に連載開始以来最大の謎がこの安室フィーバーで、どうも様子を伺うとこれまでとは全く違うキャラ萌えの大人の女性ファン層を新たに開拓しているようだ。これまでもイケメンキャラはいたし、各々女性ファンもいたようだけど、何故安室がここまで人気を得たのか…。声優である古谷徹まで再ブレイクみたいな扱いされているところを見るに、古谷徹のあの声もあってのキャラ当たりっぽい。
元々赤井秀一というだいぶ先に出ていた黒の組織と戦うFBIの一員の声優がガンダムのシャア・アズナブルをオマージュしていてそのままシャア演じる池田秀一が赤井の声優をするというガンダムネタが先にあった。これに気を良くしたのか作者は最早そのまんまなアムロ・レイをオマージュした安室透/降谷零を出してやはり同じ声優である古谷徹を起用。2人に因縁を持たせ、前回の『純黒の悪夢』ではこの2人が直接対決するというガンダム以来の共演みたいな煽りをしていた…がそれはあくまでガンダムファンに向けたネタであった。これがどういうわけか、安室の方だけ異常にガンダムを知らない女性ファンに大ヒットしてしまったというのだからたぶん作者も想定外だったのでは。
個人的にはガンダムを知らないので古谷徹といえば『ドラゴンボール』のヤムチャ。なので「狼牙風風拳!」とか「ここらでおあそびはいいかげんにしろってとこをみせてやりたい」(直後に栽培マンの自爆で爆死)とかそのあたりのセリフがあの声で自動再生される。なんでヤムチャ声のキャラが今更人気沸騰するんだ…?という感覚である。
それ以前に安室はいわゆる”勘違い逆恨みキャラ”
声云々や見た目云々を抜きにしても個人的に安室はあまり好感度の高いキャラではない。というか普通に読者していると高くならないような設定になっている。
安室は私立探偵として小五郎に弟子入りする形で初登場。しかし組織の幹部「バーボン」であることも判明。当初はベルモットと共に灰原に迫る敵役かと思いきや、赤井秀一に異様な執着を見せるそぶりもあり、やがて赤井秀一を個人的に恨んでいることが発覚。また単なる組織の一員ではなく、公安から組織に潜入している潜入捜査員であることも判明した。この時点で完全に敵では無くなったものの、コナンとの協力関係にまでは至らず、FBIよりもつかず離れずな関係性が続いている。
赤井秀一への恨みは徐々に明かされていったが、最終的に理由も既に判明している。赤井が組織に潜入していたとき、安室と仲間のスコッチも潜入していた。赤井と安室はお互い組織内ではライバル関係で、薄々潜入捜査官だとは気づきつつあったが、それとは関係なくスコッチが何らかの理由で正体が完全に露見。しかし赤井は自らの正体をFBIだと明かして逃がしてやると宣言。スコッチもそれに乗ろうとするが、第三者が駆け上がってくる音を聞いて間に合わないとして自殺してしまう。その自殺のきっかけになった駆け上がってきた者こそが安室であった。
身内に危害が及ばないように携帯を打ち抜いて自殺したスコッチの遺志を汲んだ赤井は駆けつけた安室にあくまで組織の人間として裏切り者を始末した(自分が殺した)と宣言。
安室はこの件で赤井を恨んでいたが、スコッチが死んだのは他でもない安室がやってきた足音を組織の別の者だとスコッチが判断したためで、結果的に安室きっかけである。お互いの正体が完全にFBIと公安だと発覚した後も真相を説明しないのは赤井の優しさであり、「彼のことは今でもすまなかったと思っている」「今は仲たがいをしている時ではない」など今は組織壊滅がお互いの最大の目的であることを何度か説いているが安室は赤井の事になると言う事を聞かずに暴走しまくる始末。黒の組織の一員としては組織が危険視している赤井を殺したり、情報を提供することが出来ればそれだけバーボンとしての地位が上昇して組織の深部に迫れるという事情はあるが、完全にそれは建前になっていて個人的恨みで追っているような状態。
その1つが前回の『純黒の悪夢』での無駄バトル(爆破が迫っていてそんなことしている場合じゃないのに赤井がそこにいるだけで殴りかかり、挙句の果てには更に危機が迫る中でもKYに「さあ第二ラウンドだ!」などと迷言を放った)であった。
さらに後に安室のキャラクターが掘り下げられていく中で、安室は赤井がスコッチを殺したのではなくスコッチが携帯を打ち抜いて自殺したことまでちゃんと理解していた事も判明。自分が来たせいでスコッチが自殺に及んだというところまでは考えが及んでいないのは変わらず(というかこれに気づいてたとするとマジで恨む理由消えてしまうのでもう変更できない)、それでもなお「赤井ほどの男ならスコッチを救う手段はあったはずなのにそれをしなかった」などというムチャクチャ人のせいして恨んでいた事が発覚してしまう始末。なんなんだお前は。ていうか作者も間抜けな逆恨みキャラだった安室を人気高騰に伴ってかもう少し有能なキャラに上方修正しつつ、1度勘違いを描いちゃったのを覆せずに迷走始めちゃったみたいな。結果、原作での安室は赤井が絡むたびに我を忘れて赤井確保に暴走する上に、全読者が知っていることを知らないというポジションで激しく微妙であった。ていうか安室が赤井赤井言い出すと完全に組織絡みの話が横道に逸れるんだよ!
もうホントいい加減にしてくれ!
こんな逆恨みっぷりなので安室への好感度は高くなりようがなかった。そして最早邪魔ばかりしてくる安室に対してそれでもあくまで傷つけないように多くを語らない赤井さんはマジ大人であり、カッコいい…と本来なるはずなのだが…。現実は安室人気フィーバーである。何が起きるか分からないものだ。
このままではどうしようもない事もあってか、「あの方」正体発覚前にこの件はもう少し進展させるつもりなようで、1度片付いたはずの赤井=沖矢をもう1度暴いて赤井に迫るというエピソードが挿入された。実際は暴いたつもりになってただけで、赤井は工藤夫妻と協力して今度こそ本気で話し合うつもりで安室を呼び寄せた形だったのでその後は現在語られていないが少しは冷静になってくれることを祈りたい。というかもう勘違いで逆恨みして暴走した挙句に勘違いのドヤ顔で迫る安室とか進行の邪魔だし見たくないので、普通に組織壊滅に向けて共闘してくれ頼む。
そんな彼が今回の主役
そんな逆恨み大王が今回の主役という事で正直期待値は低すぎるくらい低かった。ただ今作ではこれまでほとんど描かれなかった公安警察としての安室の活躍が描かれていてこれまでのイメージを覆す内容となっていた。
爆破事件の容疑者として小五郎が公安の一方的な捜査により逮捕・起訴されてしまう。背後に安室の気配を察知したコナンは今回は敵かもしれないと警戒。序盤は小五郎が追い詰められる中で事態に追われてどうしようもないコナン一行といういつになく絶望的な状況が続く上、その後の展開も動機もいつになくしっかりしていてシリアス。近年の映画の中でもただ派手なアクションでドッカンドッカンだけではないような人間関係が随分と重厚に描かれていてやけに見ごたえのある1作だった。
今作での安室は確かにカッコいい。赤井にしても他のFBIにしても警察陣、それどころか小五郎や蘭でさえもたぶん今後ここまでカッコいい活躍の場は与えれないと思うので、物凄い特別扱いだと思う。赤井の一件になると途端に冷静さを欠いて醜態しか見せなかった安室をここまでカッコよく描くとは思わなかった。これは人気爆発するわ。
ただここまでの行動力・判断力・冷静さがあって何故自身がスコッチの自殺のきっかけになった事にだけ全く気づかないのか。スコッチが自殺な事も見抜いたのに、何故駆け上がってきた自分が自殺の引き金になったと考えが至らないのか。本当はどこかで至っているが考えたくないのか、そこがパーフェクトな安室唯一の弱さ、そこを乗り越えた時にドラマが生まれる…という方向にもっていこうとしているのかなという感じもした。
あと黒田管理官の行動は…近年の映画先出しパターンだと概ね映画公開直後の原作でその回答を提示していたが今回は1年以上放置されたままだぞ…?
★★★★☆
売り上げランキング: 895
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