名探偵コナン 黒鉄の魚影

2023年4月14日公開。劇場版26作目。

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5作「天国へのカウントダウン」、13作「漆黒の追跡者」、20作「純黒の悪夢」以来となる黒の組織登場作となり、灰原哀がメインとなる。

17作「絶海の探偵」以降、乱発された緊急事態宣言の影響で落とした24作「緋色の弾丸」以外の全作品で毎年歴代最高興行収入記録を更新しまくっており、今作ではついに初の100億突破を果たした(最初の3日間で1~17作を余裕で越えるか及ばずとも匹敵する30億突破)。

20作「純黒の悪夢」で姿を見せず声も変えた状態(声優クレジットもなし)で初登場した組織のNo.2とされるラムは、その後の原作でも誰がその正体なのかを引っ張り続け、候補として警視の黒田兵衛・教師の若狭留美・板前の脇田兼則が主に提示され、延々と連載が続いていて、原作100巻でついに脇田兼則だったと正体が明示されて素顔も登場。アニメ放送されたのは映画公開直前の4月9日放送の1079話であった。これに伴い今作ではラムは素顔で登場しているが、脇田兼則としての姿では登場していない。

回想シーンで殉職した組織構成員テキーラ 、ピスコ、アイリッシュ、キュラソーが登場し、後者2人は「漆黒の追跡者」と「純黒の悪夢」での1回限りのゲストキャラクターだったが今作での新組織キャラのピンガは「キュラソーが死亡したことでピンガがラムの側近の座についた」事が明言されるなど過去映画も含めて繋がりが設定された。

近年重要メインキャラを本業ではないタレント・俳優が演じる事が多くなっているが、今作では「パシフィック・ブイ」局長の牧野を沢村一樹が担当している。ピンガや宮野志保と過去に関わりがあったキーパーソンとなる直美、殺される人とその犯人など重要な役どころは全て本業声優が演じている。

八丈島近海にインターポールの海洋施設「パシフィック・ブイ」が建設される。すでに警視庁の防犯カメラと接続していてユーロポールのネットワークと接続する事で世界中の防犯カメラをひとまとめにして顔認証付きで確認が可能となる事からその技術を黒の組織が狙っていた。開発者の直美を誘拐して引き込もうとした組織は工作活動を開始するがその過程で「老若認証」システムのテストファイルを発見。AIの顔認証による解析と防犯カメラの情報を元に逃亡者や誘拐の被害者を世界中で追跡できるという触れ込みだったが、テスト画像にはシェリー(宮野志保)と子供の姿の灰原が同一人物として表示されていた。シェリーが生きていたと驚愕するウォッカはジンの兄貴を呼び出す事にして、ジン到着までに予定に無かったシェリー確保を指示。「老若認証」システムが自身の秘密の根幹に関わる事から別行動で工作活動を開始するベルモット。さらに直美誘拐をベルモットとと共に直接実行したバーボンこと安室零もコナンに情報を流し、CIAの潜入捜査官であるキールこと水無怜奈も直美と灰原を助けようとこっそり暗躍する。

灰原誘拐を阻止できなかったコナンだったが、奪還のため行動を開始して阿笠博士が開発した水中スクーターを駆使して2人を救出。さらに「パシフィック・ブイ」で起きた殺人事件の犯人であるピンガの正体を眠りの小五郎を使って暴き、逃走したピンガを追い詰めるが「老若認証」システムで工藤新一だとバレており動揺。ピンガに逃げられてしまう。

一方でベルモットが世界各国でシェリーに返送して防犯カメラに映り込んで「一致」認証表示させる破壊工作を行った事により「老若認証」システムは顔のよく似た人まで一致判定してしまうというジン曰く「とんだくそシステムだぜ」だった事になり、ボスの命令で「パシフィック・ブイ」ごと破壊して沈める事が決定。「パシフィック・ブイ」は破壊されたが、水中のコナンと上空の赤井の活躍で組織の秘密潜水艦も破壊され、ジンと敵対しており知らされていなかったピンガは潜水艦に帰還するも全員小型潜水艦で脱出済みでもぬけの殻どころか、本船は自爆寸前となっており、そのまま爆破に巻き込まれて死亡。

灰原のコナンへの思いがかつてないほど明示され、エピローグでは冒頭でのベルモットの伏線が回収されて鮮やかに終了…。

みんな活躍

という事で今回非常にテンポがいいのと、安室過剰人気化以降顕著になっていた近年の特定キャラを異常にカッコよく描いてキャラファンを釣ってくるような作風から離脱。各自の出番と活躍を要所で絞り、ほぼほぼ均等に活躍させることで誰か1人だけが目立つ事は無く、それでいて出てきたみんな割と活躍している、お約束のアクションはてんこもりという均等な流れになっていたのは良かった。

最序盤で園子の財力で現地入り、これに伴いいつもの御一行(探偵団と保護者として蘭・小五郎・博士)もまとめて登場(世良は完全な仲間になっておらず出てくると展開に制限が出るためか影も形もない)。序盤で探偵団はほぼ出番を終えて園子引率で退場となるも、蘭は灰原誘拐時に飛び出してきてピンガを格闘で追い込む活躍を見せ、首筋に加えた強烈な回し蹴りが終盤で正体を暴くきっかけにもなった。博士は今回海中アクションする上で便利な水中スクーターを用意するばかりか、灰原誘拐時にはカーチェイスアクションも披露(あのお馴染みの古そうな車、見た目に反してめっちゃ走るやん…)。水中スクーターはハーモニカよりも小さい小型呼吸器とセットになっており、最早秘密道具の領域になってきているが…。

警視庁勢は黒田と白鳥警部の2人だけが現地入りしていた応援の形で目暮と佐藤も合流。今回は高木始めそれ以外の刑事勢は呼ばれなかったが、佐藤にはコナンの証言を佐藤が信じなかったのでコナンが怒鳴り、後で互いに謝罪し合うという細かい出番が与えられていた。さらに序盤から酔っ払っていて今回も出番なしかと思われた小五郎は殺人事件時に同行していた事からなんと21作『から紅の恋歌』以来の「眠りの小五郎」として活用された。『から紅の恋歌』では解決ではなく、容疑者に揺さぶりをかけるためだけに無理やり利用されるというハズシっぷりだったので「眠りの小五郎」で犯人を暴いたのは本当に久々だ

安室は情報を流す役回りで今回は控えめ。しかし勘違い大王っぷりも修正が進んでついに工藤夫妻の仲介で赤井との和解も進んでおり(話し合いの内容は原作でも明かさられておらず、工藤夫妻が仲介して赤井と安室と4人で話し合いをしようとしたところまでしか描かれていない)、赤井と電話越しに信頼・協力しようとする終盤にはようやくここまで来たか…という感慨がある。

これまでもほのめかされていた灰原→コナンへの感情は今回はさらに突き詰めてきた感じで、ここまでの信頼関係の深まりも踏まえて成長と変化、そして何より原作者渾身のここまではいいだろという線引きが絶妙。灰原は人工呼吸をキスと言わないんじゃないかとか、最後のベルモットがブローチのお礼であそこまでしてくれないんじゃないかという声もたぶんあるんだろうけど、変化してきた内面や見せていなかった内面の描写として不自然じゃないギリギリを突いているように見えた。原作者好きだもんねこういうの…。

FBI勢は今回も外野で動き回っている感じだが、赤井単独の終盤の一撃大活躍のみでジョディ・キャメル・ジェームズは都合上今回も振り回されるばかりで活躍皆無。むしろジョディは最序盤で友人のユーロポール捜査官を電話越しで殺されてしまうし、中盤で直美の父親が組織に殺されそうになった際には阻止して活躍する唯一のチャンスだったがここも結局組織にしてやられて直美の父は狙撃されてしまう…など散々。FBI勢はもうしょうがないな…。

黒の組織の描き方にも少し変化が…?

どうしても主人公側が生き残るため、最後は敗走するしかない黒の組織だがそれゆえの迷言やマヌケっぷりがネタにされがちでもあり、今作はもうその辺りも開き直ってきた感じがあった。「漆黒の追跡者」辺りの頃はまだある程度1枚岩だったが、「純黒の悪夢」の時には潜入捜査官キールとバーボンがこっち側である事は視聴者も知っている状態で、展開上邪魔なのでこの2人は組織の裏切り者疑いで拘束するという形で退場させていた。今作では2人とも組織メンバーとして事件に関与しつつも工作活動でこっそり味方するという今までになかった活躍。バーボンに直美誘拐の実行犯をさせたのはちょっとどうかというところはあるものの(その後キールと違って捉えて引き渡した後は別行動していて助けようとフォローしている様子がない)、キールの行動はかなり丁寧に描写していた印象。

シェリー=灰原と「老若認証」システム画像で発覚した場面で、一緒にいたのがウォッカ・ベルモット・キール・バーボンの4人。キールがどこまで知っているかは不明で、バーボン安室も灰原と1度ベルツリー急行で出会ったシェリーらしき人物との関係をどこまで整理して把握しているのかは不明だが、いずれにしても本気で驚いているのはウォッカ1人だけで、ジン兄貴へ報告だとノリノリ。ベルモットは秘密露見に繋がる事態だし、キール・バーボンも含めて3人とも動揺を見せないものの明らかな温度差があってウォッカだけハイテンションなのは笑った。

兼ねてよりネタにされがちな言動・行動が特に初期の頃に目立っていたジンだったが、伝説の勘違い迷言「聞こえるか毛利小五郎」に始まる大演説(小五郎は競馬中継聞いているだけなので全く聞いてない)の破壊力が凄すぎてこれを越えるインパクトは長く出ていなかった。「聞こえるか毛利小五郎」が出てきたのは50巻より前アニメでも10周年の頃(2006年)であり既に相当大昔である。今回ジンの兄貴は他のメンバーと違って現地入りする予定ではなかったが、ウォッカがシェリー発見をごり押ししてくるので熱意に押されて現地入りを決定してやってくる。しかしやってきた瞬間の隙に逃げられてしまい(ジンを迎えるために浮上した事で灰原の探偵バッジの通信圏内になったのもありコナン側に一気に状況筒抜け)、妨害しようとするもキールに止められ、キールの行動を不自然だ裏切り者かと糾弾するが、キールの言い分の方が正しく状況を熟慮していないジンの言動の方が冷静じゃないという空気にされてしまい、さらに追跡も失敗。失敗するとやはり囮だったかと分かってました風を装うなど散々だったが、極めつけはベルモットの破壊工作で「老若認証」が似た人も本人判定してしまう欠陥があると誤認させられた時で、ジンは思わず「何が老若認証だ!飛んだクソシステムじゃねぇか!」と吐き捨てる。

迷言更新、久々に来たんじゃないだろうか。パシフィック・ブイを沈める実行の際にも「クソシステム諸共沈めてやるよ」とかもう1度クソシステム繰り返していたのでよほど怒っていたようだ。まあ来る予定無かったのに呼ばれて来てみれば散々だったし、ピンガをわざわざ巻き込み爆死させたのもこれらの八つ当たりが遠因かも…。ただピンガがドヤ顔で持ち帰ろうとしていたコナン=工藤新一説も「クソシステム」によるものなので信用に値しない扱いされることが確定しており、どっちみち殺人犯として素顔を晒しまくったピンガの殺害命令は下っていた可能性が高い。そう考えるとかつてピスコが灰原=シェリーの確信を伝えようとしているのに一方的に殺害理由を教えただけで話をさえぎってあの方命令で殺してしまった時よりも遥かにクールな展開になっている…。

組織内での重要情報としてはラムの独白の中で、「老若認証」を最近姿を見せていないボスの居場所を突き止めるのに使用したいと考えていた事が明らかになり、No.2なのに「あの方」の所在を知らない事が判明してしまった事…。この組織大丈夫だろうか。

伏線を張っておいての回収、過去の設定を生かした設定(直美と志保がアメリカの小学校時代の同級生で東洋系の顔でイジメに遭っていた直美を志保が助けたことでイジメのターゲットが変わったという新設定は唐突なものではなく、大昔に灰原が「東洋系の顔で嫌がらせを受けた」と発言していた事から設定されている)、キャラの活躍のバランスが良かったという点でも歴代最高傑作だったかもしれない。

★★★★★

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