BLACK CAT

TBS製作で2005年10月~2006年3月放送、全24話放送時は全23話だったが、DVD化の際に15話が追加されて以降の話数がズレて全24話となった。以降のCS再放送や動画サイト配信は全24話となっている模様。

原作は矢吹健太朗。週刊少年ジャンプ2000~2004年に連載され、全20巻。このアニメ化に合わせて文庫版全12巻が順次刊行されていたほか、続編小説『BLACK CAT 星の残照』も発売された。イヴ→金色の闇を中心に次回作『To LOVEる-とらぶる-』には今作のキャラを再利用したパラレルキャラが多数登場している。

原作2巻の頃に読み始めて最終巻まで当時追っていて原作は結構好きだったんだけど、アニメは知らない間に知らない時間帯(ド深夜?)で、なんだか馴染みのない絵柄と原作とは全く異なるストーリー展開でやっていたようでDVDレンタルしてまで見る事もないなぁ…と長年スルーしていた。以前Huluに加入していた時は無かったが、2024年に再加入した際に入っていたので19年越しで見る事ができた。

原作完結後のアニメ化だったが、今作は主人公トレインの暗殺者だった過去を回想で描くのではなく、暗殺者時代から時系列に描いていく構成に変更し、ほぼオリジナルストーリーに大胆改変。原作の物語の多くは完全にカットされてしまっているが、部分的なエピソードは残されていたり、キャラの役割を変えて意外なところで登場して原作要素を加味させていたりするので、絶対原作主義者でない限りはこれはこれで楽しめる。

原作は当時ネット上でパクリ糾弾サイトが立ち上がるほど叩かれオモチャにされまくっていた。最たる理由は過去の有名漫画の構図や要素を大胆にも取り入れまくる芸風、さらに設定無茶苦茶な必殺技描写が後半にかけて相次いだ事で、当時ついた作者のネットスラングは知能が欠けていると揶揄した「知欠」というヒドイものであった。次作『To LOVEる-とらぶる-』でセクシー描写に開眼した矢吹健太朗は「矢吹神」と一転してネット上で崇め奉られる事となり、現在までその扱いが続いているので、矢吹神が若い頃馬鹿にされていたなんて知らない人も増えていったのかもしれない。

その原作、基本的には面白かったんだけど、ちょっと無理のある苦しい設定も多かった。アニメ版では主人公トレインや相棒スヴェンが後半に獲得した必殺技は全てカットされた。トレインは後半に電磁銃(レールガン)の能力を獲得(レールガンと言えば『とある魔術の禁書目録』の御坂美琴がその後有名になったが、『とある魔術の禁書目録』原作小説1巻が出る直前くらいの時期)。しかしレールガンというより『幽遊白書』の霊丸(レイガン)のパロディ要素が強く、あからさまに霊丸と同じ「1日4発」の制限付であった。これだけならまだ銃使いの範疇だったが、「1日4発」でホイホイ撃てないため、終盤にはオリハルコンで出来た拳銃ハーディスで高速回転しながら相手をぶっ叩く超人技・黒爪(ブラッククロウ)を奥義として披露。黒十字(ブラッククロス)も登場し、まさかの銃を鈍器として使用する上、超人高速回転で叩くというトンデモ技で、加えて超人腕力で銃を振るう事で相手の火球「焔獄弾」をかき消すなど主人公の身体能力と必殺技がおかしな方向になってしまったがアニメ版はこれらの超展開必殺は全カットである。清々しすぎる。

スヴェンは捜査官時代にスヴェンをかばって死んだロイドが持っていた特殊能力「予知眼(ヴィジョンアイ)」を死後引き継いでいて、これは数秒先の未来を予知できるが代わりに体力を著しく消耗するというものだった。原作では最終決戦を前に予知眼をもっと使いこなせるようにならなければ!と特訓を開始し、普通に考えてすぐに疲れて動けなくなってしまうのを克服してさらに長時間使用できるようにするとか基本的には能力のパワーアップを果たすものと思われたが、何故か「支配眼(グラスパーアイ)」に進化。目に見えるすべての動きがスローになり、自身は通常通りに動く事ができる(つまり自分以外には超速行動しているように見える)という能力で、進化どころか完全に別物であった。さらに通常通りに動く事ができるが、実際には超速で動いているので肉体への負荷はかかるという制約があったり、予知の能力は無くなっていたりとマジで進化でもなんでもなくてどうしてこうなった…という代物だった。アニメ版は「支配眼(グラスパーアイ)」を完全カットして、「予知眼(ヴィジョンアイ)」を原作より有効活用して最後まで使用している。清々しすぎる。

まあ必殺技周りの不自然さは、絵柄や描写のカッコよさだけでも十分相殺されるし、そんなに気にするほど決定的な欠点でも無かったとは思うんだけど、原作『BLACK CAT』最大の欠点は作者のミスでトレインの不殺主義の変遷が最初と最後で変わってしまった事にあったと思う。

原作は既にトレインが掃除屋になってスヴェンと組んである程度時間が経過してから始まり、回想の形で暗殺者時代が徐々に描かれていった。1話では助けようとしたおっちゃんを別の暗殺者に殺されてしまいブチ切れたトレインはその暗殺者を追いかけて行って確実に殺害している。2話では暗殺者時代の後輩でトレインを連れ戻せないなら殺せと命令を受けてやってきたクレヴァーがトレインを本気で撃とうとしたため即座にクレヴァーより早撃ちしてクレヴァーを殺害。トレインは1,2話で連続して殺さずに済んだ相手を容赦なく殺害していたくらいは暗殺者時代の側面がまだ残されていたのである。2巻の終盤では過去が少し明かされ、サヤを殺したクリードと再会したトレインは暗殺者時代の衣装にわざわざ着替えて暗殺者BLAC CATとしてやり残したことがあると本気でクリードを殺しにかかったが決着は着かず。原作のここまでは既にパクリという声もあったが超名作だったと思う。デビュー作である前作が2巻で打ち切りになっていた事もあって、早めに最初のクライマックスを持ってきた感もあった。

3巻でトレインは改めて今は暗殺者ではなく掃除屋であり、Dead or Aliveの世界でも極力殺さないようにしたいという意思を宣言。この辺りまではトレインの心境の変化を時系列に描いていた印象だったが…話が進むにつれてすっかり相手を殺す事が無くなって連載が進行。最終決戦を前に暗殺者を辞める事になったサヤが殺された事件の回想が描かれた際、そして時系列ではその後となるスヴェンと出会った際の回想が描かれた際に矛盾が生じる。なんとサヤと出会ってサヤの自由な生き方に憧れ、暗殺者として飼われる自身に疑問を抱いたトレインは暗殺者時代の末期にはもうターゲットを殺さなくなって謹慎処分されるほどの不殺主義に転換していた事になってしまっていた、スヴェンとの出会いのエピソードでもスヴェンは大量にいた敵相手に1人も殺さなかったトレインに驚き、望んで殺しをやっていたわけではないと答えた不殺主義のトレインの言葉からコンビを組むことになった事になってしまっていた。1話2話での殺さずに済んだ相手をあっさり殺害してたのと完全に矛盾してしまうし、1話でのスヴェンはトレインがキレて相手を殺しに向かった事を知りながら危険な黒猫を怒らせちまったか…と止める様子もなく黙認していたし、クレヴァーについても「いったよ」という言葉で察して深く聞かずやはり黙認していて暗殺者BLACK CATの側面が顔を時々顔を出す事は容認しているようだった。

恐らくアニメ版もこの原作最大の欠点を認識していて、物語を時系列に整理し直して、トレインが暗殺者から掃除屋へ、不殺主義へ変わっていく様子を矛盾なく描こうとしたんじゃないかと思う。その点ではアニメ版はトレインの変化を丁寧に描いていて良かった。再構築した物語も概ね良かった。トレインが一時的に子供になってしまった際に高山みなみ(コナン)を起用して、声が完全にコナンというのも原作がパクリ糾弾されていた背景を思うと実に高等なギャグで面白過ぎた。

原作で中途半端に終わったというか伏線未消化で出番無かったシャルデンがしっかり変化まで描かれたり、原作に出てこなかったナンバーズが全員出てきたのも物語を整理した結果の良い部分だった。クリードではなく別キャラをラスボスにした事でクリードの更生復活が描かれたのも原作を越えた部分だった。

ただ割を食って死んでないのに死んでしまったキャラもいるし、残念なキャラになってしまった人も少なくない。セフィリアの組織の駒感が強調されているのはまだいい方で、黒幕にされてしまった人や黒幕一味に加わったのに原作で披露した活躍がほぼ全カットで出番が終わってしまった奴など敵キャラに残念な扱いになってしまった人が多かった感。

そして完全オリジナルのエデン編はかなり駆け足&すっ飛ばし気味な描写でワケが分からないまま終わってしまってちょっと最後に息切れしたというか妙に雑だったなと。敵全員どうなったのか全く描かれないばかりか、必死にイヴを助けたのに何故かトレインはスヴェン・イヴとの旅を続けずに1人でどこかへ行ってしまうのはちょっと謎だ…。完全オリジナルで原作要素が1つも無かった17話「まどろむ猫」に至っては単独1話丸々意味不明の謎エピソード。サヤそっくりどころか声も同じなサキが出てくるがサヤとの関係は何も明かされず散々不穏なな描写を繰り広げておいて王子を守る云々と全く説得力の無い話が明かされるもあの襲撃オジサンはなんなんだよとか結局謎のまま去ってしまったトレインもなんなんだよとかとにかく謎しか残らない上、完全カットでも唯一何も影響がないような回だった。

また元々戦闘描写をストレートに描かず、妙に抽象的にイメージっぽく描写する傾向があって分かりにくいところはあった。例えば戦いの途中に急に場面が飛んでもうやられて動けなくなっているカットが突然登場したりするんだけど、その後に倒れている場面とそこに至るまでに何度も攻撃を喰らっている瞬間がダイジェストっぽく交互に描かれるとか。エデン編ではこの飛ばし抽象描写が余計に悪化。主人公勢が追い込まれて全員通信不能になったとピンチが描かれたと思ったら、次の瞬間には全員揃って敵中枢部にたどり着いていたりと最早繋がっていないような描写もあった。最終話に至っては最終決戦真っ只中で決着がつく気配もまだないのに、何故か唐突に戦いを終えて解散していく仲間たちの平和なシーンが先行して唐突に挟まれる始末。最終決戦の決着のメドも見えていない緊迫した状況の最中に全て終わった後のほのぼの解散シーン挟むって斬新すぎるでしょ…。

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