2019年秋クール、テレビ東京で水曜深夜(木曜0時12分)で新たに始まった「ドラマホリック!」枠(40分)の1作目のドラマ。あずみきしによる漫画が原作(2013年連載開始)。
死んだ者たちの天国行き、地獄行きなど成仏するための手続きを行う市役所のような役所「死役所」を描いた内容。死者は基本的に死んだ時点での姿で役所に現れるため、例えば交通事故などで血まみれの場合は血まみれのまま、骨折や欠損等がある場合はその状態で役所にやってくる(さすがに顔半分が無いとかは深夜枠でもキツいためか1話で一瞬モブキャラで出てきただけで、大半の回のモブキャラは大けがの包帯姿や病院着というパターンだった)。49日以内に手続きをしなければならず、しない場合は強制的に「冥途の道」行き。
主人公は案内人のシ村(松岡昌宏)。「お客様は仏様です」が口癖で終始丁寧笑顔な対応ながら完全に心が見えないというどこか不気味な人物像。職員は何故か全員名前に「シ」が入っていてその部分がカタカナになっている。が、別に「シ」が入っているのが職員の条件というわけではないようで(こっちはむしろ作品自体の記号感というかメタ的な設定っぽい)、職員は全員死刑になった者たち。死刑を執行された死刑囚の場合は強制的に職員にされるらしい。
初回では死役所にミチル(黒島結菜)がやってきて、自身は殺されたと主張して役所に居座るという展開で、ミチルが唯一のレギュラーの死者・視聴者目線でやってくるゲスト死者たちを取り巻くドラマを見ていくという流れ。
しかしこのドラマ、基本何の救いも無い理不尽な死ばかりでとにかく気が重くなる。初回のイジメによる自殺少年(織山尚大)は飛び降りなのでいきなり足が曲がってて普通に歩けないという死者は死んだ時のまま、という世界観を強烈に印象付けてきた。ところがイジメていた少年も役者にやってきた。イジメていた少年によれば、自殺少年の義理の父(母再婚)に復讐で殺されたという。自殺少年は自分に無関心だったと義理の父を見ていたが、実は自分との距離の取り方やイジメ問題にどこまで介入すればいいのか解決の糸口に腐心していた事、そして復讐のために殺人まで犯したことを知り、初めて義理の父の自身への愛情に気づく。そしてイジメ少年は苛烈なイジメが評価(?)されて地獄行き、自殺少年はもし父がここに来た時にとシ村にメッセージを託すという救いのない中でも多少は救われる話だったが…。
2話は死産した赤ちゃんがやってくるので仏様一切喋れずといういきなりの超展開。一方的に視聴者向けに子供のできない夫婦の待望の子供だったが流産になってしまい生きる希望を失いかけるが復活する、という現世の物語が展開したが、役所では赤ちゃんが泣くのを職員とミチルがなだめているだけで、このドラマの設定上、死んだ後の現世の事を知る事も見る事も出来ないので、現世エピソードと役所の人たちは繋がらないという…。
3話からは本格的に救いが無くなり、3話で死んだ小さな飲食店の店主(三浦貴大)は、過去に強盗に親父を殺されていて常連と妻の協力もあって親父の店を継いで店を復活させ、子供ももうすぐ生まれるという状況だったが、親父を殺した強盗犯人が出所してきて逆恨みで息子の三浦貴大もまた刺殺したという無念すぎる展開で何の救いも無く、本当にやりきれねぇよ!と三浦貴大が苦しんでいるだけで終了し、残りは全員死刑囚だった事を知ってミチルが職員たちに何をしたのか迫るという話に。
4話では中1の豊嶋花が交通事故で血まみれの状態でやってきて片思いの男の子との最初で最後のデートで車にひかれて死んでしまったので、好きな子にこんな悲惨な姿を見せて死ぬなんて…と泣き崩れるしかない展開で救いなし。
さすがにあまりに救いが無さ過ぎてフォローする事も無いので4話のメインエピソードはついに全体40分の半分程度で終わり、残りはミチルがもう49日目前だという話になり、死刑課の資料で気になっていたレギュラー職員たちの過去の資料(人生が全て書かれている)を読んでシ村が冤罪だった事も知って一気に旅立っていった。
というわけでキャストクレジット2番手ヒロイン枠だった黒島結菜が4話でまさかの急退場。なんだこの超展開と思ったが、ミチルのエピソード自体は原作通りにやっただけだったようで、ドラマ化にあたっては主人公のシ村は感情の見えない謎の人だし、49日居座ったお客様側のキャラというのは世界観や職員たちの設定や隠された過去などを視聴者目線で一緒に追体験して掘り下げていく役回りとして活用するのに最適だった、とい事だろう。
5話ではミチルは去ったが、去る前に死刑課でレギュラー職員の資料を読んでいたため、ハヤシ(清原翔)に殺人犯の姉になってしまった姉の事は気にしていないのかと言い残した言葉が心に引っかかり、シ村に話すという形でハヤシの回想という展開になったがやっぱり救いが無かった。
ハヤシは高校2年生の時に仲が良かった祖父が亡くなったが、この際に父親からハヤシは祖父と死んだ母の間の子だったと明かされ衝撃を受ける(姉はちゃんと父と母の娘で、父も母が遺した手紙でハヤシが中学生くらいの頃に知ったらしい)。そこからモヤモヤした心情で過ごしていたハヤシは祖父公認で付き合っていた彼女をイジメていた女子生徒を上階から突き落とす傷害事件を起こして退学になるもその後彼女と無事結婚。彼女に出生の秘密も明かして子供も生まれて幸せと思い込んでいたが、実はハヤシの出生の秘密を知った彼女はハヤシをやんわり遠ざけ元同僚と不倫キメこんでいて、生まれた娘も不倫相手の娘だった。娘が1歳になろうかというときに突如不倫相手から別れてくれと説明されたハヤシはブチ切れて子供含めて3人殺害で死刑に…。
と、ハードの重ね掛けでハードな過去が明らかになり、このドラマの特性上現世の様子を知ることはできないので残された姉の現状が分かるわけでもなく、さらにハヤシは殺した3人については後悔していないと言い切っているので結局話してちょっとスッキリしました程度…。シ村によれば殺された3人は同じタイミングで死役所に来ていたはずなので何を思い成仏していったのか…とはコメントしたものの特にそういった手続き資料が出てくるわけでもないので、ただ思いを巡らせるだけ。重すぎる…。
6話は今作の中ではライトな話となったが、2話に続いて死んだ人(中島歩)にまつわる現世の話がメインのため、主人公ほぼ出てこない。それどころか中島歩は満足して死んだので即成仏してしまい、事実上の主人公はお笑いコンビの相方として現世に残されたジャニーズWEST重岡大毅というジャニーズ後輩活躍話。明るい愛されキャラというほとんど重岡大毅本人のイメージそのままな役回りは良かったけどバーター感が…。
7話は結果的に今作で最も救いのある話だった。もう1人のレギュラー職員イシ間(でんでん)メイン回。イシ間が生きていたのは戦後間もない時期だったらしく、戦争で死んだ弟夫婦の14歳になる娘ミチを引き取って育てていたが、治安もよろしくなかったこの時代に畑泥棒をしていた兄弟を娘が1度助けたところ、図に乗った兄弟は再度出現して欲望のままに娘を暴行。修羅と化したイシ間は少年1人を容赦なく殺害、逃げたもう1人も静かに追いついて容赦なく殺害。ショックで沈み込んだ娘が何とか結婚にこぎつけるまでは見届けたが、ついに少年2人の死体が発見されてしまい犯人として逮捕、娘のレイプ被害は徹底して黙秘したためあえなく死刑となった。
話を聞いたシ村は老衰課にやってきた認知症の老婦をイシ間に引き合わせる。イシ間の事はしっかり覚えていたこの老婦こそが83歳で天寿を全うしたミチだった。イシ間の事を覚えている以外はほとんど話が通じないほどボケてしまっていたが子供と孫にも恵まれて幸せな人生を送ったらしいことを聞いたイシ間は感涙。この世に残してきた者たちを思いながらもその後どうなったのかさえ知ることができないという物語の中で、職員として半世紀以上(?)を過ごしたおかげで生きていたら絶対に不可能な再会を果たせるとはなんという好待遇…。そしてミチを見送ったイシ間の元には任期満了に伴い、49日以内に成仏せよという辞令が…。
8話では殺人課に母親により虐待死した幼女がやってくる。虐待に至る過程が描かれ母親(前田亜季)のクズ親っぷりと、異変に気づきながら救えなかった保育士の無念、しかし母親をかばい続ける幼女という相変わらずな救いのない話に…。ベランダに放置されて凍死させられた幼女だがこの時点で家もゴミ屋敷化、死んだ後も全く悪びれずに逮捕されずに済むだろうと男の事ばかり考えている程やべぇ母親だったがあえなく娘殺害容疑で逮捕されるところまで現世の様子も描かれた。しかし幼女が死ぬ直前の回想では夏くらいまでは家は綺麗で母親が優しかった様子もちらっと登場していて何故態度が急変したのかは不明のまま。
イシ間はこの幼女と一緒に成仏しようと決意(実際は幼女は天国行きだが殺人をしているイシ間は半世紀以上(?)強制勤務していても普通に地獄行きらしい)。受付をしようとしたシ村だったが、その前に自身の娘の死と妻が関わっていた「加護の会」信者だったらしき男が死役所に来ているのを発見。長年待ち続けた「加護の会」関係者の死者を前に目つきが変わる。
9話ではシ村の過去が一部明らかに。シ村と妻の幸子(安達祐実)の出会いから結婚までが明かされた。思ったより時代が古くて時代設定は1960年。案外イシ間が生きていた時代とほとんど同じだったのか…。
死役所にやってきた柄本時生は「加護の会」の信者で、彼がコンプレックスから徐々に宗教に心酔していく様子と本当の家族との関係崩壊が描かれるも「加護の会」自体のヤバさはさほど描かれず(指差しが禁止事項でこれをしてしまった信者の幼女を普段温厚な信者の女性が執拗に尻叩きで折檻している様子が不穏だった程度)、柄本時生の死因も「加護の会」に殺されたのではなく、実家に連れ戻されるもすっかり信者と化して家を飛び出して追いかけてきた弟から夢中で逃げて飛び出して交通事故死というもの。
シ村は妻幸子の名前を出して会わなかったか?と聞くが、柄本時生がなかなか思い出さないため「とっとと答えろォ!」と荒ぶる場面も。結局柄本時生によれば別の場所で特別待遇の信者がいるという事、特別待遇のその人が幸子という名前だったかもしれないと回答。しかしこれ現代でまだ妻が生きているとしても50年以上経ってるから普通にミチと同程度の老婆になっているのでは…。
最終話ではイシ間と9話の幼女の成仏をひとまずドラマの終着点としてその間に回想でシ村の残りの生前を描く形(別にシ村がイシ間に話しているわけではないので本編と回想に繋がりは無い)。
シ村と幸子(安達祐実)の間に娘の美幸が生まれて3,4歳になった頃(出会いが1960年設定だったので1965年~1970年より前?)。美幸は絵の具をなめてばかりで料理を食べようとしない。この事で幸子は気を病んでいた。医師によれば美幸は病気であり、このままでは死ぬ(絵の具しか食べないので栄養失調で)という見立てらしい。
…いや待てどんなテキトーな診断だよ。メンタル面での扱いが適当だった昭和の時代という事なのか。
またかなり追い詰められている様子の幸子に対してシ村があまり積極的に関わっている様子が無く、無関心なわけではないけど自分で何とかしようとしている様子が無い。医者へ行くのも妻任せだし、子供の事や家庭内の事は全て妻(夫は外で稼いでくる)という昭和の時代の一般的な価値観という事なのか。
幸子が近所の人に聞いた「加護の会」に相談に向かった3人。教祖の蓮田栄山(吹越満)は「あるがままを受け入れるのです」しか言わないので、帰宅後の美幸は「あるがままを受け入れても美幸は死ぬだけじゃない!死ねっていうの!?」と具体策が一向に示されないので栄山へ不満爆発。
それ以前に栄山が吹越満そのままなのが怖い。9話で死んだ信者の柄本時生は普通に現代のはずなので柄本時生の生前で出てきた蓮田栄山はシ村の時代から50~60年弱は加齢しているはずなのに見た目そのままじゃないか…。イシ間とミチの再会の時のミチが80代のおばあちゃんになっているのは時間軸合ってたけど、柄本時生の死の方は時間軸どうなってるんだ…?あの栄山は吹越満顔のよく似た系譜とかでシ村の時代の栄山は初代で現代の柄本時生が接した栄山は初代の息子(2代目)とか孫(3代目)なの…?
と、思ったら一応公式インタビューでは吹越満が
実はボクの実年齢に近くない役で、80歳くらいと30歳くらいの時代だったかな。老けなきゃと若返らなきゃです。そこは楽しかった。カツラや特殊なメイクは使わずに挑戦させて頂きました。どーみえるかなぁ。
と語っているので、設定上同一人物らしい。すまん80代にも30代にも見えない両方普通に50代半ばくらいだった…。
不満に思っていたはずが何故かシ村を置いて幸子は再び加護の会へ。帰宅しないのを不審に思ったシ村は加護の会へ向かうが幸子は修行に入ったので会えないから1週間後に来いという。言ってることが若干支離滅裂(ここにはいないとも言っていた)美幸は何とか連れ帰ったシ村はたった今栄山や教団に対して猛烈な不信感を抱いていたはずが、相変わらず絵の具舐めしかしない美幸に何故か栄山の教えである「あるがままを受け入れるのです」を実感、これが美幸なんだよなと悟りを開いて受け入れてしまう始末。
この夫婦直前の態度(教団不審)と行動(入団&教え受け入れ)が揃って逆…。
律儀に1週間待ったシ村だったが栄山はまたしても今は会えないなどとはぐらかし、冷静になってから来いだのまたしても微妙に支離滅裂な御託を並べ立て、挙句の果てにはシ村をも教団に引き入れようとしてくる始末。ただこれ以上は教団の様子は描かれず、結局加護の会が決定的に犯罪まがいのヤバい事をしているカルト集団のようにも描かれず謎のままだった。
失意の中帰宅したシ村は庭で殺されている美幸を発見。警察では1週間の妻不在で家の中が荒れ果てていた事(シ村は家事炊事洗濯等一切妻任せで全くやっていなかった様子)、美幸が絵の具を食べていた形跡があった事から、シ村は娘虐待の殺人犯扱いされてしまう。娘の診断や妻の失踪など他の捜査すべき点は一切不明のまま、一方的な取り調べでは自白強要&リンチによりあきらめて自白してしまうシ村…という胸糞展開が繰り広げられていてこれにて回想は終了。
テキトー診断医者、仕事以外は家庭内の事全部妻任せで無関心な夫(態度が偉そうだったりするわけではなくむしろ態度は優しいんだけどとにかく 何 も し な い )、自白強要&暴行する警察…ととにかく昭和はこういう時代だったよねみたいな感じで構成されていたけどちょっとブーストかけすぎてて異様な感じだった。いくら昭和設定だからといってあんなんありなのか、昭和だから仕方なかったよね…で押し切られて納得してしまっていいものなのか。
イシ間の成仏後、改めて他殺課のファイルの中から美幸の報告書の書類を見ていたシ村だが詳細は明示されず。さらに直接態度には出さなかったが幸子の名前を呼んで再び仕事へと戻っていったので、シ村の目的は死んだ幸子といつかここで再会する事…なんだろう…とぼんやり滲ませて終了。
美幸への殺人で死刑になったシ村はこの死役所では冤罪だった事がちゃんと明らかになっていたり、職員の人生が誕生から事細かに記載されている事からこの死役所にある書類にはいわゆる神の視点での真実のみが記載されているのは確かだと思われる。
職員になっている死刑囚と違って一般の死亡者は死後の本人の自己申告でしか書類に記載されていないのかとも思ったが、シ村が見ていた美幸の死亡の書類は画面に出たのは生まれた付近の経歴のみであったので良く分からない。ただ誰に殺されたのかも書いてあってもおかしくない。そもそも本人自己申告だったら誰に殺されたのかなんで死んだのか自分で分かっていない死亡者だらけになってしまうだろうし。
いずれにせよ原作がここまでしかやっていないので、これ以上はドラマで勝手に描くわけにもいかなかった模様。正直しんどい話も多かったが、終わってみれば続きが見たいドラマではあった。ていうかシ村に関しては完全に途中だもんなぁこの終わり方…。
TCエンタテインメント (2020-04-03)
TCエンタテインメント (2020-04-03)
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