劇場版 Dr.コトー診療所

2022年12月16日公開。
原作は山田貴敏による漫画。を2003年夏クールにフジテレビ系木曜劇場枠で放送され、2004年1月に2夜連続で『特別編』、2004年11月に2夜連続で『Dr.コトー診療所2004』、2006年秋クールに連ドラ第2シリーズ『Dr.コトー診療所2006』を放送。原作者の体調不良により原作連載が停止状態に陥っていた事もあって、ドラマの制作も止まっていたが、16年ぶりの続編して完結編と銘打たれた。

レギュラーメンバー吉岡秀隆、柴咲コウ、時任三郎、大塚寧々、小林薫、泉谷しげる、筧利夫、朝加真由美、大森南朋らがそのまま続投、2006で登場していた堺雅人、蒼井優も登場するが、彩佳(柴咲コウ)不在時の後任の看護師だったミナ(蒼井優)は和田(筧利夫)と結婚して子沢山となって主婦に専念しているという設定で和田とのビデオ通話でしか登場しない。また当時は子役として出演作が多く、吉岡秀隆と同じ事務所に移籍していた剛洋役富岡涼は2006年の主演映画『小さき勇者たち~ガメラ~』と『Dr.コトー診療所2006』の出演を最後に出演作が途絶えそのまま引退、一般人として生活していたが今作のために一時復帰して出演した(『北の国から』の正吉役の中澤佳仁と同じパターン)。15キロ減量したと証言しており、作中でもやや丸めだが映画公開時既にだいぶ戻ってきたと言っていたようにかなり丸々としていてかなり太っていたようだ。

1作目にゲスト出演した東京で暮らす茉莉子(大塚寧々)の息子の竜一(神木隆之介)が東京で働いている青年として再登場(島には来ない)、同じく1作目に1度だけ登場していた東京に住む重雄(泉谷しげる)の娘リカ(伊藤歩)が重雄とのビデオ通話で再登場するなど連ドラ時代にゲストで出ただけのレギュラー陣の家族まで細かく再登場する。

その他チョイ役で出演していた村長役の坂本長利が93歳で存命だったため、同役で序盤に登場する。たぶん続投した中で最年長。一方で島の産婆として親しまれていた内つる子(千石規子)は作中で一命をとりとめていたが2006の時点で出演しなくなっており、2012年に千石規子が亡くなっているため、今作では西野美登里(藤田弓子)が島の助産師として新たに登場し、同じく新たに登場した島出身の看護師の那美(生田絵梨花)の祖母という事になっているなど、昔から島の住人だった事になっているが今まで全く出てなくて初登場という登場人物もいる。

一方でかつてのコトーの同僚医師で連ドラ時代には何度か登場してコトーに感化されて僻地医療を行うようになった三上(山崎樹範)は登場しなかったり、剛洋の幼馴染として昔からいたような顔で出てくる邦夫は役者引退に伴い前田公輝に役者変更していたりもする(当然成長して顔変わったなというより誰だっけレベル)。

数年前にコトー(吉岡秀隆)と彩佳(柴咲コウ)が結婚、現在彩佳が妊娠8ヶ月というところから物語が始まるが、初登場の那美が数年前から看護師になっている大病院の御曹司である判斗(髙橋海人)が研修医として島にやってくるという新設定を見せつつ、最序盤から剛利(時任三郎)が重傷で運び込まれてきて大手術。何とか助かるも歩けるようになるか漁師復帰できるか分からない…といういきなり重い展開となる。以後は変わらぬ姿を見せつつも、医者になっていたはずの剛洋(富岡涼)が意味深に帰島して挫折していた事が発覚したり、コトーには病魔が迫っており、白血病と判明。それでも奮闘しようとするが台風による大災害が発生したりと激重な展開が矢継ぎ早に…。

まあ懐かしいだけでは話にならないので盛りに盛った大騒動が次から次へ起こるわけだけど、いくら現実を突きつけるったってここまで滅多に起こらない惨劇・悲劇が重ね掛けで起こってしまうと現実を超越して逆にありえない不幸の奇跡みたいな…。定番の台風惨劇にしても惨劇の起こし方が雑で動けず避難できない住民の避難が間に合わないのは仕方ないにしても、おとなしく避難できずに動き回って怪我する奴が多すぎるのと勝手に家に戻って家屋倒壊に巻き込まれて重傷とか台風被害への備えがあんまりすぎる

判斗(髙橋海人)は未熟な医師として描かれているものの、コトーに頼りすぎてコトーの善意に19年間甘え続けて酷使した結果が白血病発症を招いたんだと告げたり、コトーの代わりを頼まれてもとてもそれは出来ないとハッキリ離島医療の問題点を指摘したり、全員助けるとフラフラになりながら言い続けるコトーにトリアージしてくださいとハッキリ告げたり…な ん か 物 凄 く 正 論 し か 言 っ て な い 。未熟な医師、後継者たる若者の成長を描こうというよりも、なあなあになっていた島の問題を第3者だからこそハッキリ言ってのけてコトーに甘え切った島民達にこのままでは未来が無い事を突きつける役割になっていて、レギュラー陣全員返す言葉も無くなってるじゃないか…。

しかしそこまで徹底的に現実を突きつけるもメタ的には収拾がつかないほど切羽詰まった状況(彩佳は切迫早産の危機で行動不能になり、コトーは気絶)に追い込みすぎてどうにもならなくなり、結局倒れたコトーが復活、スーパー医療で救命すると他の怪我人は全員空気化、あれだけ早く診てくれと大合唱していたのに全員元気になってしまう…という結局死者を出さずに奇跡と根性で乗り切ってしまうミラクル展開が炸裂。最後はコトーが力尽きて子供の誕生を前に死んだかのように彩佳と共に眠りに落ちて、超スローで白飛びしていく画面…。

エピローグでは全員元気に生きており、最後までコトーの姿を映さず、戻ってきた医師も定住した(?)判斗でコトーはやはり…と思わせて初めて立った赤ちゃんがコトーのいる診療室に歩いて行ってコトーが子供を抱き上げる奇跡の復活ハッピーエンド映像をスローで見せて終了。引っ張りすぎてスロー映像やコトーの顔を映さないようにした結果、ファンタジー映像、死ぬ前に見た幻みたいな演出になってしまい、観客の間でも死亡説が流れる始末。ここ10年以上復活連載をすると時折メディアで発言しては結局連載されることなく止まったままの原作者が映画のストーリー作りには関与していないどころか原作ここまで話が進んでない(ドラマ2期より少し先程度だったはず)ので最早原作とオリジナルである映画は別物になっている状態なのに、漫画原作者が勝手に「コトーは死んでない」とメディアの前で発言、エピソードゼロなどというスピンオフ連載を準備中だとほのめかすという事態にも陥った(今まで何度かあった準備中宣言が1度も果たされなていないように1年経っても発表されていないので完全にやるやる詐欺になっている…)。いやどうなってるんだよこれ…。全部引き上げさせて映像版が封印作と化した『海〇』の作者とは別の意味でこっちもまあ…。

本当にこれが制作側の当初の構想の通りだったのだろうか。そうだったとしたならあまりに前作から時間が経ちすぎて衰えたとしか思えないが、2020年以降の変異した価値観が影響を及ぼして「現実」のラインがおかしくなり、とことん現実を突きつけた結果、逆奇跡状態に陥った挙句に着地点が見つからなくなり、かといって誰も死なせたくないので強制ハッピーエンドにしたものの不自然なので夢オチっぽい演出にして観客にフワフワした感覚のまま帰ってもらおうとした…とか?

作中でもみんなに残念がられていたが剛洋(富岡涼)が医者になれなかった顛末はマジで残念だった。2006の時点で成績が…ついていけない…とかで一時帰島時にあきらめようとしていて乗り越えたところで終わっていたのにまたしても成績が原因で大学4年で中退していたとかあんまりじゃないか。医療事務に就いていたがそこのクリニックが違法なクリニックで患者を手術で死なせてしまいその時に手伝うように指示されたが血を見て気が動転して動けなくなってしまった、この事で島まで警察がやってきて事情聴取を受ける事になったという謎過ぎるエピソードも追加されていたが…。しかしこの追加されたエピソードを研修医なり医師になって以降の出来事にするとここに来て血でビビッて挫折とか少年時代から一応そこそこ島での修羅場を見ていたのに情けないにも程があるし、医療事故に加担していたとかだとマジで再起不能案件逮捕案件なので、「ただの事務員で手伝えと言われたけどしませんでした」じゃないと復帰できないよなぁ…。最後は再入学したっぽい映像(授業を受けている)もあったし。

剛洋というよりも子役から2006の頃に吉岡秀隆と同じ事務所に移籍して本格的に役者を目指そうとするも他に出演作が無いままに数年で引退してしまった富岡涼を重ねているような感じもした。実際には挫折して役者をあきらめたのではなく、他にやりたい事が出来て望んで役者を辞めたのかもしれないけど、どっちみち今も活躍している有名俳優に成長していたらこういう設定にはなっていなかった気はするんだよなぁ…。コトーの後継者にしてだからこそ見えた島の問題を指摘するという判斗に近い役回りを剛洋に担わせた方が視聴者も望んでいた展開だっただろうけど、2006以降全く演技経験を重ねておらず最早素人である富岡涼にそこまでの重要な立ち回りはどうしたって任せられない。

2006でもまだまだ精悍な漁師で若々しかった剛利がすっかり白髪の老人になってしまったところと、時任三郎は60代なので仕方ないにしてもまだ50代そこそこの吉岡秀隆まで白髪になって老け込んでしまったところに大きな時代の変化を感じた。小林薫や泉谷しげるも70代になっているものの特に泉谷は昔から50代の頃からおじいちゃんっぽいのであまり変わってないし、柴咲コウ、大塚寧々、朝加真由美ら女性陣もそこまで雰囲気変わっていないので吉岡秀隆と時任三郎だけやたら容姿が変わった印象。

剛利はいきなり運び込まれて入ってくるところから始まるので作中で元気だった時が無い。ほとんど家の中にいるだけで動きが無く、クライマックスでも足を引きずりながら診療所にやってくるもやれることが無く立ち尽くすだけ。倒れたコトーにあきらめないぞ!と叫んでコトーを復活させる役回りではあったけど、判斗が主張していたコトーに頼りすぎて負担をかけすぎたせいでついにコトーが倒れてしまったという現実を島民に突き付けた後に根性論…?えええ…!?という割とどうしようもないシーンになってしまったのは残念。持っていき方次第ではリハビリしても回復不能かもしれない剛利が改めてあきらめない事を明言する感動シーンだったはずなんだけど…。最後の最後で足を引きずりながら後輩と共に漁に出ている”海の男”としてのシーンがようやく出てきたのがわずかな救いか。

というわけで一部ではやりすぎてギャグドラマになってしまったとまで言われていたのも納得。映画として盛り上げなきゃいけないという考えでこうなってしまったのだとすれば映画でやるべきではなかったんじゃないかと。懐かしい部分もあったし、新キャラの2人も良かったんだけどなぁ…。

★★★☆☆

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