いわゆる「サザン」について

2024年8月21日発刊。水鈴社。
著者は小貫信昭。

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出版社も異なるが小貫信昭は2020年『Mr.Children 道標の歌』、2021年『槇原敬之 歌の履歴書』も近年刊行していて、連続での評論本となった。その前は2012年『森高千里としか言えない』、2011年『小田和正ドキュメント 1998-2011』、2004年『亜弥とあやや』、2002年『うたう槇原敬之』と1度開くと10年近く出ないが出る時は数年内に連続して出しているようだ。

いわゆる公式ライナーノーツ系のライターさんなので内容は『Mr.Children 道標の歌』『槇原敬之 歌の履歴書』とほぼ同様。ヒストリー的にこれまでの活動を紹介しながらその時々の本人発言や最新インタビューの内容を織り交ぜて裏付けを取りながら総括していくというもの。サザンの場合はデビュー当時は非関与だが1982年11月のコンサート取材が初でそれ以降という事でそれまでの話はあとで聞いた話や過去の資料を参考して書かれている。

サザン最大の黒歴史案件とされる大森脱退後の扱いに関しては不自然に触れない事は無く、メンバーがソロ活動をした話になれば大森のソロ活動にもちゃんと触れているし、脱退した事にも触れているが事実関係のみでそれ以上の言及はない。それどころか全体に作品とライブをヒストリーで追って解説していくだけという色が強く、ミスチル、槇原よりも遥かに表面だけなぞって進んでいく印象。というのも本人発言を引用してそれに基づいて記述した箇所がミスチル&槇原と比較しても極めて少ない。ほとんどが長年の取材結果に基づく小貫氏自身の言葉による楽曲解説で桑田さんの発言が多くない。さらに桑田さん以外のメンバーには話を聞いた形跡すらほとんどなく、そして何より後半にかけてはライブのセットリスト紹介にやたら文章を割いていて単なるライブレポの連発みたいになっていってしまい、途中からあれ?あれれ?と思っているうちに桑田さんの内面にすらほとんど触れられずに終わってしまう。これは一体どうした事なのか。

サザンオールスターズの止めそびれた歴史と、その真実。

などと大袈裟なキャッチがついているのだから、90年代以降のサザンの事実上の桑田&サポートメンバー化、今まで触れてこなかったこの辺りの事情やサザンに対しての思い、他のメンバーの声など少しくらいは踏み込むかと思っていたが(とはいえ小貫氏のこれまでの作風からして深く踏み込まないのは確定的でもあった)、他メンバーの声なんかは皆無、桑田さんの発言も核心に触れたものはほとんどないとは思わなかった。

「サザンの陽のあたる部分だけじゃなく、それ以外のところも描いて欲しい」。この言葉が、本書の更なるリアリティを生みだした。

桑田さんに言われたというこんな売り文句もあったが、果たしてどこにそんな記述があったのかちょっと分からない。確かに最終盤にて現状や今後について桑田さんが語っている部分ではようやくミスチル、槇原並に本人発言に基づく文章構成になっていて本音を伝えている部分も少しだけあるので全くの虚偽ではない。でもキャッチが大袈裟すぎるし、やはり単なるライブレポでページを浪費しすぎな印象ではあった。ヒストリー本の性質上ライブ全体がどんな位置づけのライブになったかの解説は必要だと思うんだけど、1曲1曲どんな演奏だったのかの”ライブレポ”記事の転載みたいな内容を繰り返す必要がある構成の本ではないと思うし、ライブを振り返った本人発言があるならそれだけで十分なわけだがそれも無い。正直小貫さん、作品は聞いているしライブにもよく足を運んでレポしているが、ミスチルや槇原ほどの深い本人取材をしていないのではないか。少なくとも桑田さん以外のメンバーや関係者の証言がほぼ無いので彼らには一切話を聞いてないっぽいし、サザンの本なのにサザンメンバーの証言を取り扱わず桑田さんへの過去の取材データだけでほぼ構成してしまうのは…。ミスチルでは桜井以外のメンバー証言ちゃんと取ってたけどサザンメンバーは取材NGなのだろうか。現役バンドと解散したバンドの違いだとしても元メンバーや関係者ほとんど全員から証言取ってきた確かな取材に基づく『空と風と時と 小田和正の世界』なんかとは比べようもな

キャッチに釣られて”真実”や”陽のあたる部分だけじゃなく、それ以外のところ”に興味のある一定水準以上に既に歴史を知っているリスナーはそういった話はほぼ知る事は出来ない。ただサザンを総括した本というのが現状『公式データブック』くらいしか無いので、まだサザンの歴史をよく知らない人向けの公式ヒストリー&ライナーノーツ代わりとしては優れた1冊ではあると思う(ただし作品解説では『公式データブック』の方が当然優秀。また『公式データブック』のヒストリー部分全てと一部の作品解説は小貫氏の執筆)。

★★★☆☆

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