大怪獣のあとしまつ

2022年2月4日公開。

三木聡監督脚本、山田涼介主演。

日本中を恐怖に陥れた巨大怪獣が突如謎の光によって死亡、喚起する国民だったが残された怪獣の死骸をどうするのかという問題があった。あらゆる可能性がある事から「希望」と名付けられた怪獣の死体の安全性を巡って二転三転する政治的な駆け引き、そして腐敗によって膨張して爆発の危険性が迫った事から後始末が急がれる事態となり、アラタ(山田涼介)は奔走する…。

「倒すよりムズくね？」をキャッチコピーにした怪獣を倒した後の物語で、東映と松竹の共同制作による大作、大量の有名俳優を起用して2016年に大ヒットした『シン・ゴジラ』的な方向性をもう少しコメディノリにしたくらいだという期待を持たれていたためか、公開されるなり評判は地底を突き抜けるような大不評が吹き荒れ、あまりに評判が悪かったので見てみたというハードルを下げた者ですらなお予想を上回る駄作っぷりに低評価を重ねる…という地獄絵図となり総叩きにあう駄作認定の筆頭映画となってしまった。

今作は全体にパロディとナンセンスギャグと社会風刺に満ちており、特に分かりやすいパロディでベースになっているのが『シン・ゴジラ』風な大量の政治家たちによる政治ドラマ(風)。いくつかの死体処理作戦をメインに進行するが、どれも盛り上がりに欠け、閣僚たちは終始おとぼけ・おふざけの連発。あちこちで見かける名優たちが滑り倒したまま真面目な顔で風刺ギャグを繰り広げまくる。五百蔵睦道(岩松了)による品の無い例えギャグの連発と名前からして某氏のパロディ全開な蓮佛紗百合(ふせえり)が特に目立っていた印象で、ふせえりのマジ顔でボケまくる芸風がかつてないほど全開なのでこれが苦手だと一気にきつくなるかも。あまりにくどいし。『シン・ゴジラ』みたいな大マジな政治ドラマは疲れるし怪獣映画なんて超似非科学の連発の超兵器ドッカンでも派手に盛り上がればいいと思うので、今作の絶妙なリアリティの無さは普通にありだとは思うんだけど、一般的には大好評だった『シン・ゴジラ』のパロディのようにしてこれをやればそりゃ反感を買うだろう。

アラタ(山田涼介)とユキノ(土屋太鳳)のメインの2人は終始真面目に任務にあたるが蓮佛の直属の部下がユキノなので引っ張られてユキノがふざける場面はちょいちょいある。また序盤からアラタとユキノは元恋人、アラタとユキノと正彦(濱田岳)はかつて同僚同士で特務隊に所属して怪獣の対処をしていたが、アラタは謎の光に包まれて2年失踪、この際に正彦が足を負傷して責任を感じたユキノは正彦と結婚、しかし2年経ってアラタが突如帰還して怪獣は突然死んだ…という経緯が明かされる。正彦は真面目に任務にあたっているようで明らかにアラタを意識してアラタがやろうとする作戦を邪魔しようとしている。最後の作戦の時にはもう正彦はアラタが「えらばれし者」であることを半ば確信しており、正体を見せろとばかりに殺す勢いで大怪獣の上で工作活動をしていたアラタごとミサイルで爆撃。

吹き飛ばされて地上に落下して死んだかに思われたアラタ。駆け寄るユキノだったがアラタは平然と立ち上がり、駆け寄るユキノを制止するとスマホをベータカプセルのように掲げ、正彦の予想通りに光る巨大なナニカに変身すると怪獣を宇宙へと運び去っていき、唐突なTHE END。

散々奮戦してきた主人公が実はヒーローで最後の最後で変身して一瞬で解決するというこの風刺効かせすぎなオチが酷すぎて今作の不評を決定づけたところがあるが、確かに説明なさすぎというかエピローグをもう少し見せてくれないとこれでは情報が少なすぎてワケが分からない。ユキノも最後のその敬礼はなんなんだ。

アラタが光に包まれて消えてウルトラマン的なヒーローとなって怪獣を倒して帰還するまで2年もかかっていた事から、ホイホイ”変身”できるものではなく相応のリスクがあるのは確実でそれがギリギリまで変身しなかった理由だろう。そしてユキノを奪われたくない正彦は明らかに後半以降、作戦を邪魔してアラタを”変身”へ追い込もうとしている。最後の最後まで”変身”をしたくなかったが、結局”変身”に追い込まれたアラタは恐らくすぐに戻ってくることはできないのだろう。主人公とヒロインの物語としては実は(正式な夫婦ではあるんだけど)恋敵の勝利に終わるBAD ENDなラブストーリーでもある。

ただ監督は何故最初から必殺技を出さないのか？という疑問から“最初から、そうしろよ”の風刺としてこのオチにしたという事を明かしており、プロデューサーも“「神風が吹かないと解決しない」というごく単純な政治風刺なのですが、これがほとんど通じておらず驚きました”と不評についてコメント。よって裏設定も無くマジでオチをこうしたかったからこうしただけのかもしれない。

いずれにせよとんでもない珍作だった。

★★★☆☆