おカネの切れ目が恋のはじまり 全4話

TBS火曜ドラマ(22時)枠。9~10月に全4話で放送。『私の家政夫ナギサさん』の後枠だが、新コロ延期で『私の家政夫ナギサさん』が春クールからそのまま夏クールへスライド。今作は元々夏クール予定だったと思われる。

7月18日に三浦春馬が突如自殺。前日まで今作の4話を撮影中だったとのことで、協議の結果、全8話予定を4話で終わらせる形で脚本を大幅変更しての放送が決定。三浦春馬の撮影済みの遺作は複数存在するが、前述のように亡くなる前日まで撮影されていた今作が時系列で正真正銘の遺作となる。

これに伴い、恒例の出演者による番宣等は一切行われなかった。

1話

過去に父親絡みで何かあったらしく真面目倹約家として生きる玲子(松岡茉優)、社長のドラ息子で浪費癖が激しく社長にも呆れられクビになりかけて経理部に飛ばされてきた慶太(三浦春馬)。玲子は慶太の教育係になった挙句にマンションを追い出されて実家の旅館で面倒を見る事になり、玲子は慶太にまともな金銭感覚を身につけさせようと奮闘する…というかなり極端なコメディ。

終始生真面目な松岡茉優は真顔すぎて最早松岡茉優ってこんな顔だったっけ?と思うレベル。終盤で早乙女(三浦翔平)に貢ぎまくっていてそれまで軽薄だった慶太もドン引きするほどのキャラ崩壊を見せるなど何とも言えないキャラだなこれ…。前クールの多部未華子が去年やってた『これは経費で落ちません!』の森若さんとも被るけど森若さんよりも人間味が無さすぎる…。

慶太もかなり軽薄で終始浮世離れしたテンションのチャラ男でこれまた極端。新コロで沈み切っているこのご時世にこのテンションで演技するのってかなり負担だったんじゃないかとはどうしても思ってしまう。『コンフィデンスマンJP』でのジェシーもキザな男だったが遥かにその上を行くような軽薄さだし。

割と致命的なのが清貧女子、浪費男子と金に対する価値観の正反対な男女を主人公に置きながらも、浪費はともかく清貧に当たる玲子の価値観が独特すぎて視聴者の共感を得られるような節約豆知識ネタみたいな描写は全く無い事。玲子が学生時代から片思いする早乙女(三浦翔平)がテニスプレイヤー引退後に公認会計士&ファイナンシャル・プランナーになってて金のセミナーやってて、その講演で金については語っているもののセミナー特有の話術重視でタメになる話では全く無いという有様。

というわけで正直メイン2人のキャラが極端に振り切りすぎてて全然話に入っていけない…。漫画原作より漫画原作みたいなキャラ設定だけどこれオリジナル脚本だっていうし、これをどう回して8話持たせるつもりだったのだろう。

2話

1話に比べれば人間関係が動き出して早乙女へ貢ぎまくる玲子という衝撃も慶太の軽薄さも多少はマシになってきた。テニスコンペの形で早乙女と慶太、本来恋のライバルになるはずだったであろう板垣(北村匠海)など主要人物が一通り顔見知りになり、15年停滞していた玲子の片思いがついに動き出す予感を見せるも早乙女に妻子がいたらしきことを板垣が目撃してしまい終了。

慶太の元カノの結婚相手として登場し、会社との提携話を持ってきたボンボンな社長、最終的に全く彼女を見ていないので彼女に逃げられ、会社の方も思い出の施設を壊そうとしている事から社長に結局見限られ…とかなり散々な役どころだったけど演じている梶裕貴って声優じゃなかったか。しかも竹達彩奈と結婚した相手じゃなかったか。何でここで実写に進出してきた挙句にこんな散々な役どころだったんだ…。

3話

玲子と早乙女の関係が動き出すが、板垣が妻子を目撃してしまいそれを知らされた慶太も気が気ではない。息子側から調査していた慶太は妻と遭遇するが妻はとっくに冷めきっており、人気が出た頃に子供が出来たので世間には隠して生きてきたが金を出すだけの早乙女は最低だと言い放つ。

玲子との食事デートのスケジュール表を仕事ではなくプライベートのオレンジで電子スケジュールに記載していた早乙女。帰り道で早乙女が恐らく妻子の事を話そうとしていたっぽいが週刊誌が直撃してしまいオジャンに。そして妻子がいた事がスクープされてしまい早乙女は一気にメディアから追放されてしまい、独身詐欺としてセミナー客も失ってしまう。毎年予定されていた合宿セミナーが予約されていなかったことから玲子はリークしたのは秘書の牛島(大友花恋)と見抜くと、牛島は自分のねぎらいの食事スケジュールは青(仕事)なのに、いつも貢いでくる変な女(玲子)はオレンジ(プライベート)だったから!と言い放ち、どん底でも支えてあげると歪んだ愛を告げて去っていくという珍妙な行動に…。

“オレンジ”スケジュールを牛島が共有するより前に今年は予約が出ない…と玲子が不思議がっていたのでオレンジは理由になってないと思うんだけど、もうこの辺りで脚本歪んでたのだろうか。普通に慶太もその場にいたシーンなので全8話予定のままで矛盾してた事になるが…。”ほころび”が気になっていたとして玲子が暴いてたけど、脚本の動機が綻んでるってどうなのよ…。

どん底の早乙女をそれでも支えたいと告白した玲子だが、早乙女この状況で玲子に向かっていくほどクズでもなかったのか、あっさりお断り。玲子はフラれて髪を切り、慶太が明るく励まそうとする中、突如の雷鳴に驚いてくっついた2人、そのまま慶太が玲子に軽くキスしてしまい、無事に撮影された3話までが終了。

玲子がお菓子1つ買うだけのために並んでいた店のバイトにして慶太が妹と呼んでいたひかり(八木優希)は3話にしてようやく、祖父が慶太の父と親友だったので祖父が亡くなった後もたまにおもちゃをくれに来て幼少期にパパと呼んだのを慶太が聞いて父の隠し子(妹)と勘違いしてしまい、以後もそのままにしているという設定が作中でようやく明かされた。演じている八木優希は香取慎吾主演の『薔薇のない花屋』の雫役だった子役で今年2月に香取慎吾と再会して色々なエピソードが明かされたばかり、あのドラマ以降もちょいちょい出てはいたけど今作が子役を抜けてゲストや回想シーンの若い頃の役を除くとほとんど初めての連ドラレギュラーだっただけにこれは残念だったなぁ…。

3話になるともう慶太の浪費っぷりやバカっぷりは全く描かれなくなり(冒頭で2話の梶裕貴との結婚を破棄した元カノが結婚すると言ってしまった手前、慶太を結婚相手にして友人たちをごまかそうと食事会している際の支払いをお小遣い帳に記録していた程度)、ほぼ玲子をサポートしようと動き回っていて軽薄さも控えめに普通に明るいいい奴程度にトーンが落ち着いてきてだいぶみられるようになってきた。変更しようにも変更できないはずで3話までは全8話の予定通りのストーリーになっているはずだが、たった3話でもキャラブレしすぎてないか?元からけっこうドタバタな脚本だったのかも…。

4話

ゴロゴロビッシャーンキスに困惑する2人。眠れない夜を過ごした玲子と慶太。なんと慶太の姿は布団の中でモヤモヤしているド頭の1シーンのみで完全終了。以後は慶太は早朝に出ていったきり無断欠勤、そのまま失踪していなくなってしまったという強引な設定に切り替えて慶太の消えた世界で物語を進行。レギュラー陣がそれぞれいなきゃいないで寂しいとかあいつらしい自由さだとか消えた慶太についてコメントしつつ、玲子の離婚してもう会っていない父からの仕送りが発見され、父を探しに旅に出る(板垣と慶太が持ってきた猿ロボが同行)という展開に。

玲子の過去と父については元々用意していたエピソードと思われ、3話まではほとんど明かされていなかったが(高校の時に偉く落ち込む事があって早乙女に救われたという程度)、玲子は元々天才テニス少女と持てはやされてチヤホヤされていたので金遣いが猿渡並に悪く、ただでさえ金のかかる娘のテニス活動の維持費に加えてなんでも買い与えまくって金に困窮した父は会社の金を横領して逮捕されてしまい、母が周囲に頭を下げまくって何とか返済したというけっこうトンデモな過去が判明。この経験により清貧女子化したという。あきらめかけるも土壇場で父を発見し、父(石丸幹二)と和解。

この道中も含めて終始猿ロボを不在の猿渡という寂しさ、不自然さに対して隙間を埋める意味深な存在として効果的に使用していて、道中での玲子の様子から猿渡が特別な存在だと感じた板垣は勝手にお察しして勝手にフラれてしまい退場。最後は猿渡の元カノとのシーンだったがこっちは片づけられないので板垣がもう猿渡と結婚しようと両親に媚を売っていく作戦は手遅れかも…と遠慮がちに告げるに留まった。

その後は離婚して一緒に住んでいないというひかりの父(曽我部恵一)も無理やり登場したが、登場しただけで終わった。俳優ではないミュージシャンの曽我部恵一を起用した事からも元々そんなに深いエピソードは用意してなかったとは思うが…。

猿渡の両親が息子不在の部屋を訪れるシーンでは父(草刈正雄)が実は猿渡の才能や長所を認めていた事、だからこそ継がせて経営を背負わせるより自由でいてほしい事が語られたり、母(キムラ緑子)がずっと味方よと言いながら落ちていた猿渡のジャケットをハンガーにかけてお小遣いを忍ばせたりと、なんかもう完全に追悼ムード。

早乙女は玲子の旅に同行しようかと告げたが断られ、事務所で秘書の牛島に退職金もちゃんと出すから次の仕事を探すよう言っても牛島が辞めませんよ?と去っていくというだけで全く話は動かずに頭抱えてるだけで終了。ここはもうちょっとどうにもしようがなかったか。全8話の3話で失脚していたわけだから当初はもう少し展開はあったはずだが…。

玲子と猿渡父(草刈正雄)が猿渡がひかりを妹と勘違いしている件を説明し、最後は玲子が1人語り。猿渡の笑顔を振り返りながら猿渡への思いに気づきとても会いたいと静かに語るが、このもう絶対に会えない感の漂う空気が何ともやりきれない…。それでもラストシーンは少しでも前向きに、全く姿を映さずに翌朝玄関のドアが開いて何者かが帰ってきた足跡、玲子が静かにうなずきながら微笑して終了、と一応慶太が帰還したかのように匂わせて終了。

亡くなる前日まで4話の撮影途中だった、そこまでを使って脚本を書き替えて4話で締めるという話だったが、終わってみれば4話はほぼ全部撮り直して再構成したようで、三浦春馬がいなくなった世界で誰もが整理しきれない思いを抱えたままそれでも話をまとめようとしたといった趣き。正直誰もが隠しきれてない感情が出ているように見えてしまうし、草刈正雄なんかは単に年を取っただけなのかもしれないがこれまでの草刈正雄のイメージよりも憔悴しているようにも見えた。

全部終わっての感想

という事で亡くなる前日までの撮影シーンというのは恐らく一切使用しなかったと思われる。冒頭の寝ている1カットが該当する可能性もあるが、たぶん途中まで撮影した4話のストーリーは全部破棄して最初から作り直したんじゃないかと思った。

主演級が撮影途中で急に亡くなってしまうというのは近年では大杉漣が亡くなっての『バイプレイヤーズ』もあったが、さすがにこれは前代未聞の事態だけにドラマとして完結させるのは不可能でどうしようもない。こんなありえない状況の中では悲しみを表面上見せずにまとめたと思う。最後のメッセージ「春馬くん ずっと大好きだよ キャスト・スタッフ一同」というドラマ上では最初で最後の追悼メッセージは賛否が分かれるところかもしれないが、正直言葉にできないとのが1番だと思うし、もっと厳かな追悼文にも出来たんだろうけどあえてドラマのノリを崩さないようにしたところもあるだろうし。

三浦春馬に合っていたとは思えないような軽薄すぎるキャラはよりによってこのご時世の中で演じるのはけっこうキツイものがあったんじゃないかとは正直思った。これは3話までで随分修正されてきた印象だったけど、フジテレビの『DIVER-特殊潜入班-』、本来夏ドラマ予定だったのが前枠が夏にずれ込んで結局全5話で9,10月放送で終了予定のこのドラマと三浦春馬の2ndシングル『Night Diver』のタイトルが似ていてまるで主題歌として用意した曲だったかのようである事、主演の福士蒼汰と三浦春馬がお互い逆のイメージなのではないかとかも言われているようで、不可解なところは確かにあった。先の初回での軽薄すぎて全く合わないイメージが3話まででも随分修正されてきたのは別の人主演のつもりで書かれていた初回の脚本が徐々に三浦春馬に合わせて修正されてきたのかなとか。

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