RAG FAIR シングル回顧~2002-2009~
お笑いトリオ、ネプチューンの冠番組『力の限りゴーゴゴー!!』内で素人のアカペラグループを集めて大会を開く「ハモネプ」コーナーが人気を博し、01~02年にブーム的な人気となった。番組からはいくつかのアカペラグループがメジャーデビューを果たしてトップ10級の売上も記録した。
ハモネプの流れの中で最も人気と知名度を獲得したのがRAG FAIRだった。実際にはRAG FAIRはハモネプの大会には出場しておらず、90年代末期に大学サークルの延長で結成された番組時点で既に数年の活動歴を持つグループであった。メンバーのおっくんがレプリカというグループにアカペラを教えていたところを番組関係者に見込まれてレプリカとして出演して活躍。このTV出演を機におっくんのボイパの凄さが視聴者をざわつかせ、おっくんの本所属グループであるRAG FAIRもゲストとして出演。コーラスグループというより最早アカペラバンドと形容すべきパフォーマンスが評価され、番組との縁も一気に深くなり、当時音楽活動もしていたネプチューンのシングル「イッショウケンメイ。」のC/Wに収録されたアカペラバージョンのアレンジをRAG FAIR名義で担当。そのまま一気にメジャーデビューとなった。
中央に立つメインボーカルの土屋礼央はグラサンにファーというチャラい格好でノリも良く、他のメンバーも全体にウェーイな大学サークルノリを色濃くイメージさせるようなザ・大学サークル上がりみたいな風貌だったが、前述のように結成は90年代末期でその頃既に20代半ばになっていて、就職のために脱退したメンバーも既にいた。実際デビュー直後にもベースボーカル担当の高久陽介が脱退、数年前に就職のために脱退していた加納孝政が会社を辞めて再加入するといったメンバーチェンジもあった。
アカペラという武器でのし上がった彼らが実力派だったことは間違いないが、チャラい風貌はTVタレント的なインパクトはあっても同時にイロモノに見られがちで、アカペラ自体もTVの企画モノとしての一過性のブームとして急速に消費された事もあって、2002年には27時間テレビ内でも大々的にハモネプの大会を開催したのが完全にピークになって、番組も終わってしまった。ハモネプ大会の特番は不定期放送として残ったものの、ブームが終わってしまうとRAG FAIR以外のアカペラグループは後のヒットが続かず、最も人気を得ていたRAG FAIRも出すたびに下げ止まらずにファン層を拡大することはできなかった。
個人的にもブームに乗ったチャラい大学サークルノリの連中という偏見が当初あったのでまともに耳に入れていなかったが、土屋のグラサン&ファースタイルも徐々に落ち着いていき(ファーのイメージが強いがファーをしていたのは何気に4thまで、グラサンもメジャー末期の頃にはメガネになった)、楽曲自体も実力派コーラスグループの側面を強く打ち出し始めた辺りから、実はポップスグループとして凄い人たちなんじゃないかと考え直して聞くようになった。
残念ながらそのように見直して聞き始めるリスナーがほとんどいなかったようで2009年を最後に新作リリースが停止、2011年に活動を休止。2012年末にはライブ活動を再開したものの、たま~のライブ中心の活動となり、新曲は会場限定や通販限定など販路が限られたものが2作出た程度。やがて2013年加納孝政が再脱退、2019年おっくんこと奥村政佳が政治家を目指すとして脱退。直後の参議院選挙に出馬したが、落選した。政治家への強い決意を語っていたものの、RAG FAIR初期の知名度に頼った「ボイパのおっくん」を自称してボイパを披露しまくったので、元ファンには結局それ(ボイパ)で行くんかい…と幻滅され、知らない人には突然プシプシ言い始めるこの候補者なんなん?軽すぎね?と映ったのでは…
現在のメンバーは土屋礼央、引地洋輔、荒井健一、加藤慶之の4人だけ、しかもリズム隊2人が相次いで抜けてしまったので、ハーモニーのみのコーラスグループ状態となっている。奥村脱退時の土屋のコメントでは過去に解散の言葉が出たことがあるが、解散をするのを辞め、一生RAG FAIRでいる事を決めた、それぞれの人生を尊重し、全員のタイミングがあった時がいつでもRAG FAIRなんだというスタンスで活動していると語っていた。なので今後も解散することは無いと思われるが、大々的に活動を展開することももうないと思われる。
そんなわけでメジャーでの最後のシングルから早10周年。19枚のシングルを改めて振り返る。
- RAG FAIR シングル回顧~2002-2009~
1st ラブラブなカップル フリフリでチュー
02年1月23日
作詞作曲:土屋礼央、編曲:RAG FAIR
年末のデビューミニアルバム『I RAG YOU』を経てのデビューシングル。土屋が所属しているインディーズのバンド、ズボンドズボンの01年のアルバム『skirt』に収録されていた楽曲をアカペラでリメイクしたもの。今作のみベースボーカルは高久陽介が担当しているが、今作リリース後に脱退した。
タイトルからしてかなりおちゃらけたというか、バカップル的なノリというチャラさ全開の楽曲だが、奥村政佳の超人的ボイパはボイスパーカッションというよりボイスドラムのようで、ブームの中でも格の違うアカペラバンドであることをいきなり知らしめた完成度の高い1曲。タイトルやタイトルを連呼するコーラスに対して本編の歌詞はそこまでチャラくもなく、ポップなメロディーも相まって1発で耳に残るキャッチーさもあって改めて聞いてもかなりの良作だと思う。当時はチャラさの印象が強くてちょっと苦手だったが、苦手だと思いながらもサビとか歌えるくらいには耳に残っていたのでそれだけインパクトがあった。
★★★★☆
1stアルバム『AIR』
ベスト『RAGッ STORY』
2nd 恋のマイレージ
02年6月19日
作詞:土屋礼央、作曲:豊島吉宏、編曲:幾見雅博&RAG FAIR
『Sheサイド ストーリー』との同時発売。低レベル週で敵がおらずSOPHIAが初の1位を獲得するかと思われたがSOPHIAが前作よりさらに数字を落としてしまい、結果的に初動5万前後という当時としてはかなり低い初動でRAG FAIRの1,2位独占となった(今作が1位)。前作を越えて今作が最高売上(14万枚)。またこれで唯一の紅白出場まで果たした。そんなに大ヒットというほど大ヒットしたわけではないが、それでも2週目以降も7位、8位、9位と刻んでインパクトは残していたんじゃないかと思う。当時を知っていれば…の話にはなるが。
前作以降ベースボーカルの高久陽介が脱退、後任のベースボーカルにはデビュー前に就職のために1度脱退してしいた加納孝政が会社を辞めて再加入した。しかし脱退・加入のタイミングとレコーディング時期に差があったのか、「恋のマイレージ」「Sheサイド ストーリー」は高久でも加納でもなくMasao Makinoという人物がサポートでベースボーカルを担当。今作C/Wの「マジカル恋のパワー」は脱退した高久が参加している。
前作以上にはじけた真夏のアカペラポップチューン。前作以上にアカペラ難度が高そうなハイテンション、ハイキー、ハイチャラい(?)ととことんハイな1曲。相変わらず気持ちよく展開するメロディーもキャッチーだがサビが2つあるみたいな終始下がらないテンションの高さがこの曲の持ち味だろう。イメージを決定づけると共にアカペラ(ハモネプ)ブームはこの夏文字通りにピークを迎える事になった。アカペラ(ハモネプ)が流行っていたブーム期の夏を象徴する1曲でもあるかもしれない。
★★★★☆
1stアルバム『AIR』
ベスト『RAGッ STORY』
3rd Sheサイド ストーリー
02年6月19日
作詞:引地洋輔、作曲:原一博、編曲:幾見雅博&RAG FAIR
『恋のマイレージ』と同時発売。1,2位独占でこちらが2位。TV的にも「恋のマイレージ」の方が盛り上がるためか、ややC/W的な扱いの影の薄さとなり、メディアでの扱いが若干埋もれ気味だったのは否めない。4週トップ10で粘った「恋のマイレージ」に対して今作は2週目以降は11位、14位、16位とトップ20で粘っていた。
今作はサビを加藤慶之、Aメロを引地洋輔、Bメロを土屋礼央とパート分けされているので、相対的にいつも目立つ土屋のイメージがかなり後退しているのと、落ち着いた聞かせる曲調もあって、明るくてノリノリなだけではない新たな一面を見せた1曲になったと思う。ただまあこの2曲だとノリのいい「恋のマイレージ」に印象が流れてしまうよなぁ…。
★★★☆☆
1stアルバム『AIR』
ベスト『RAGッ STORY』
4th あさってはSunday
02年10月23日
作詞作曲:土屋礼央、編曲:幾見雅博&RAG FAIR
今作で初めてメンバーの声以外の楽器を導入。アカペラ+○○(ギターやピアノ等)とゲスト的に楽器を加えるような方向性へシフトした。今作ではアコースティックギターを導入。軽やかなギターサウンドとメンバーのアカペラが混ざり合った爽やかな1曲だ。サビでファルセットへ突入するのでカラオケウケは若干下がりそうだが…。あさってはSunday、すなわち今日は金曜日であり、金曜日に思う日曜日に会える君へのウキウキを表現したRAG FAIRらしいラブソング。実際に働くようになると、金曜日のウキウキは単に今日を乗り切れば休日だという1点のみに集中されるようになるので、残念ながらこの曲に共感する日はやってこなかっ
★★★☆☆
5thシングル『空がきれい』C/W(a cappella)
1stアルバム『AIR』
ベスト『RAGッ STORY』
5th 空がきれい
03年1月16日
作詞:土屋礼央、作曲:豊島吉宏、編曲:幾見雅博&RAG FAIR
アルバム1週前先行シングルで限定盤。アカペラ+ピアノで構成されたやや落ち着いたポップナンバー。いきなり始まる歌メロパートがAメロのように聞こえるが実際はサビに該当する…というくらい落ち着いているので地味といえば地味なんだけど、ノリノリな事ばかりやっていてもチャラついた素人イメージが加速するばかりだったのでいい感じのトーンダウンだったと思う。空がきれいなのはやはり夏よりも秋冬であり、晴れた日の冬の1曲、というか関東平野の冬は基本的に済んだ青空が大半なので冬の日常を切り取った曲っていうイメージが個人的にはある。
★★★★☆
1stアルバム『AIR』
ベスト『RAGッ STORY』
6th 七転び八起き
03年6月18日
作詞作曲:土屋礼央、編曲:幾見雅博&RAG FAIR
ブラスサウンドを導入した華やかな楽曲。さらにいつもよりも口でブンシャカ言っている感のあるラウドなボイパが炸裂してアカペラの中では激しめのアレンジになっている。様々な”七転び”エピソードにトホホとしながらも悲しみをポンポン跳ねさせて”八起き”していくという明るいノリの1曲。おふざけもけっこう入っているので土屋のチャラついたノリもいつもより3割増しくらいになっているが、七転びのエピソードは正直良く分からないし面白くもない…という滑り気味なものもある。というか個人的にお笑いに無関心なので”春一番だと思って声をかけたら猪木だった”というくだりがなんのことだかさっぱり分からなくて焦った(春一番というのは立春以降の吹く風でもキャンディーズでもなく、アントニオ猪木のモノマネをする芸人(2014年没))。久々に大恋愛して勇気を出して告白したら相手がいとこだったというのはさらに意味不明だ。気づかなかったのか、告白する相手を間違えていとこにしてしまったのかどっちなんだこれ。
メンバー的にはネタの宝庫でノリノリだったのか、C/Wにはメンバー全員が1パートずつ担当したメンバー編、本編没ネタ集のようなんな訳ねーだろ編とエピソードを変えた歌詞違いバージョンを2パターンも制作。しかしどれもネタ的にビミョーで、結局A面採用されたのがA面採用されただけの事はある力作エピソードだった…という事が何となく見えてしまう。曲はいいんだけど、七転びネタにもう少しキレがあればなぁ…。
★★★☆☆
C/W(メンバー編)
C/W(んな訳ねーだろ編)
2ndミニアルバム『PON』
ベスト『RAGッ STORY』
7th 白い天使が降りてくる
03年11月12日
作詞:加納孝政、作曲:櫻井真一、編曲:幾見雅博&RAG FAIR
アカペラでウィンターソングという季節モノ楽曲。声だけでも割とウィンターソング感出せるんだなぁと感じられる1曲。歌詞は雪が降ってくる的な内容なので直接クリスマスを歌ってはいないが、コーラスで思いっきりクリスマスを連呼しているのでクリスマスソング、という事でいいのだろう。そんなに新鮮ではなく割とベタな感じではあるんだけど、アカペラである、という特殊さで1点突き抜けた印象。
季節が合わなかったためなのか、9月発売になったアルバム『CIRCLE』に未収録になり、ベスト盤で初収録となった。
★★★☆☆
ベスト『RAGッ STORY』
8th Old Fashioned Love Song
04年4月21日
作詞:グ スーヨン、作曲:オオゼキタク、編曲:幾見雅博&RAG FAIR
作曲したオオゼキタクの「ドリンクバー」の歌詞違い楽曲。カバーというより兄弟曲という扱いに近く、「ドリンクバー」は4ヵ月後の8月の本人のアルバムに収録されている。また今作のギターは押尾コータローが担当した。
この辺りからネクストステージへ向かおうとするかのように明るい大学サークルノリを抑えて、相応の大人っぽさ、スケールの大きさが表現されるようになっていく。これに伴いチラホラあったメンバー作の採用が減って作家の提供作品が増えていく事となった。アカペラ+Acoustic Guitar編成。今までだったらノリでごまかしていたような友情を越えていきたい思いを歌った直球の熱いラブソングだが、メロディーがとても強く、こうなってくると自作にこだわる必要も無くいい曲があれば作家作でもいいのかなとも改めて思う。名曲。
★★★★★
2ndアルバム『CIRCLE』(Album Ver.)
ベスト『RAGッ STORY』
9th HANA
04年6月30日
作詞:近藤金吾・引地洋輔、作曲:近藤金吾、編曲:光田健一&RAG FAIR
前作に続いて今度はこれまで以上にスケールの大きさを感じられる楽曲。Electric Piano+Acoustic Guitarと楽器を取り入れながらこれまでにないアカペラアンサンブル(?)が繰り広げられていて、9作目にしてまた新鮮さを感じられる1曲。メンバーみんなで車で海に遊びに行くというワイワイしたノリのPVが制作され、曲調のわりにテンションの高さが若干合っていない感じもするが、徐々に大人になっていってだんだんこういう無邪気なノリで遊ぶことをしなくなっていく…と考えれば(色々あって海に到着するのが夕暮れというのも含めて)、曲と合っているところもある…かも。この曲に関してはアルバム『CIRCLE』のラストを飾った「at the circle」の前哨戦のようでもあり、今作で試みたアプローチを完成させたアカペラグループとしての極みが「at the circle」という印象もある。
★★★★☆
2ndアルバム『CIRCLE』
ベスト『RAGッ STORY』
10th 君でなければ
04年9月8日
作詞作曲:財津和夫、編曲:光田健一&RAG FAIR
アルバム同時発売の限定シングル。TULIP財津和夫の提供作だが、財津和夫のセルフカバーバージョンは1週間前の9月1日にセルフカバーアルバム『サボテンの花~grown up~』で先に発売されていた。ドラマ『ミステリー民俗学者八雲樹』主題歌だが、ドラマは秋クールだったので発売から1ヶ月以上経過してからドラマが開始された事になる。これならアルバム同時発売よりもむしろシングルカットの方がマシだった気がするが…。このドラマ途中からだったけど見ていたのでタイアップで初めて触れたRAG FAIRの楽曲になった。
ピアノ+アカペラによるバラードナンバー。サビだけ聞くと分からないが、実際は去ってしまった君への思いを歌ったけっこう切ない曲。印象的なバラード曲ではあるんだけど、前2作で新境地を切り開いてきた中で、なんだかオーソドックスすぎるバラードがアルバムリード的なシングルで良かったのかというところもある。それでも繰り返されるサビのメロディーは印象に残る。財津バージョンはかなり老け声のボーカルも相まってそんな大事な人が去ってしまって今後大丈夫なのかな…という熟年の哀愁が極まっている。RAG FAIRバージョン(土屋ボーカル)の方がしっくりくる。
★★★☆☆
2ndアルバム『CIRCLE』(Album Ver.)
ベスト『RAGッ STORY』
11th ハレルヤ
05年2月23日
作詞:グ ヨースン、作曲:土屋礼央、編曲:幾見雅博&RAG FAIR
久々のメンバー作曲(土屋作)の表題曲。そのままズバリみんなが思う初期イメージの明るいRAG FAIRに回帰したノリのいい曲。ちょっと落ち着いたシングルが続いていたので、久々にこれぞRAG FAIRなシングルになった。土屋メインボーカルではなく他のメンバーも含めて久々にみんなで歌っている感のある楽曲だし、大サビではベース加納のリードになってソロ歌唱パートが聞けたり、続けて荒井がリードを歌っていたりと、普段のシングルではあまり聞けないメインボーカルも少しだけ聞ける。ただなんか原点回帰するタイミングここじゃなかったよなっていう感じもあって、実際今作が初のトップ10落ちとなった(以降、チャート低レベル化に伴ってトップ10入り自体は断続的に継続するが売上は下げ止まらなかった)。変な振付も含めてPVもノリノリで楽しい事は楽しいんだけど、せっかく大人のグループに脱皮してきたタイミングでちょっと滑ったところはあったと思う。
★★★☆☆
ベスト『RAGッ STORY』
12th Summer Smile
05年7月13日
作詞作曲:引地洋輔、編曲:武部聡志&RAG FAIR
土屋以外のメンバー作曲が初めてA面採用された曲。アレンジャーも変えてちょっと懐かしのサマーソング風味というか、タイトルとRAG FAIRのイメージから想像される明るいサマーポップとは一線を画すちょいとセンチメンタルさが漂うサマーソングに仕上がった。前作が原点回帰なら、今作は進化してきたRAG FAIRと初期イメージの中間点に着地したような1曲にして一気に振り切る次回作以降からすると、初期からのアカペラグループとしてのRAG FAIRのほぼ最終到達点のようにもなった。ずっと抜けきれなかった大学サークルの延長、ハモネプマスター、TV発のグループみたいなノリも感じられるのは今作までだろうか。
★★★☆☆
ベスト『RAGッ STORY』
13th 降りそうな幾億の星の夜
06年6月14日
作詞:井手コウジ・引地洋輔、作曲:井手コウジ、編曲:光田健一
七夕を意識したような和風バラード。ベスト盤を経て大幅に路線変更し、一昔前のR&B風の軽い打ち込みアレンジにメンバーのハーモニーを重ねるようなスタイルへと変貌した。いわばアカペラ+楽器というあくまでアカペラを中心に構成されていたアレンジが、今作を機に崩れ去り、普通のアレンジがあってそこにアカペラを加えるような主従逆転になった。それを象徴するように編曲からRAG FAIRの文字も消えた。これに伴い今まで不可侵だったリズム隊にまで堂々打ち込みを導入。今作以降はリズム隊の加納孝政と奥村政佳(おっくん)の存在感が一気に希薄になるが、今作では2人がいきなりどこにいるんですか状態。MVではなんか一応ベースとリズムをちゃんと声で刻んでいるっぽいんだけど、どの音が彼らの出している音なんだ…?聞こえるリズム隊の音はほとんど普通に打ち込みの音でボイスではないように聞こえるが…。
一方でそこまでして目指した本格的な大人のコーラスグループへの転身はそれなりに綺麗にキマっていて、今作からは最早大学サークル上がりの若いノリは感じられない。楽曲は素晴らしい、ハーモニーもとても綺麗…しかし、何か1番大事なRAG FAIRの特徴を剥いでしまったような…そんな気もしてしまい難しいところでもある。
なおLUNKHEAD「夏の匂い」の事を振り返ったボーカル小高氏のブログにおいて(前編・中編・後編)、この曲とCMタイアップを争った某コーラスグループの話が出てくる。“日本人なら誰もが知ってるあの某コーラスグループ”というのにRAG FAIRがあてはまるかは微妙だが、当時のRAG FAIRの認知度はそこそこあったし、小高氏が恐らくコンペに出ていた曲だろうと推測したその新曲というのは“夏の淡い恋を歌った”曲だったとしている。他に該当しそうなゴスペラーズはこの時期に該当するような新曲を発表していない上に前後のシングルには全て別のタイアップがきちんとついていた。「夏の匂い」より1ヵ月ほど早く発売され、タイアップが無かった今作がそれに該当する可能性は高いのではないだろうか。
★★★★☆
3rdアルバム『オクリモノ』
14th 君のために僕が盾になろう
06年9月20日
作詞:井手コウジ・引地洋輔、作曲:井手コウジ、編曲:光田健一
前作と同じ制作陣で挑んだ大人のコーラスグループRAG FAIR第2弾といった趣きの1曲。久々に加藤ボーカルをフューチャーしていてほぼリードボーカルは加藤が担当している。今作の方がテンポ感があるが、前作であまりに聞こえなさすぎたので目立つように改良したのか、今作では打ち込みリズムに混ざってボイスベース・ボイスパーカッションと思われる音が確かに一緒に鳴っているので一安心。あと歌詞はなんか思いが強すぎて盲目的ゆえに究極的に一方的なプロポーズソングという印象もある。
★★★☆☆
3rdアルバム『オクリモノ』
15th 夏風便り/ココロ予報
07年4月18日
初の両A面シングル。当時初期のチャラいノリで敬遠していたRAG FAIRをベスト盤、『オクリモノ』を経て一気に見直して聞き始めていたのでシングルは今作からリアルタイムで手に取るようになった。
夏風便り
作詞作曲:西沢サトシ、編曲:光田健一
ついに完全に生バンド編成に変わった。今作では加えてストリングスも導入した完全な生バンド+ストリングスという生音編成。やはりリズムが生になると違うなと一瞬で感じられるようなどっしりとした厚みのあるバンド演奏、そこに加わるコーラスとふりかけのような加納孝政と奥村政佳(おっくん)のボイスリズム隊が耳を澄ますとなんかそういえば聞こえる…という編成。サウンドやメロディーが普通に綺麗に仕上がってていい曲なので、曲としては物凄く好きなんだけど、果たしてこのアプローチでふりかけみたいなボイスリズムを混ぜる必要があるのか…?というメンバーの存在意義に関わる重大な「?」が浮かんでしまう方向性でもある。ドラムに関してはまだシンプルなドラム生演奏に対して、手数の多いボイパを入れる事で共存しているというか、厚みをドラムに、細かい手数をボイパに、という役割分担ができているんだけど、ベースに関しては生ベースとボイスベースの終始共存は至難でやっぱベースがいればそれだけで十分、ボイスベースは聞こえなくなってしまうのは仕方がない気がする。
★★★★☆
4thアルバム『カラーズ』
ココロ予報
作詞作曲:引地洋輔、編曲:引地洋輔・光田健一
ピアノ+アカペラ編成。6人の声が聞きたいんだという溜まっていたファンのフラストレーションを少しでも解消するようなRAG FAIRらしいアカペラ感のある1曲。アルバム『カラーズ』にかけては他のメンバーが一切の作詞作曲から撤退していたが、引地洋輔がプロデュースを担当して、作詞作曲や編曲も個人名義で参加してグループをリードしていた。爽やかで久々にほぼメンバーの声だけの魅力を堪能できる曲ではあるが、新しさは既にない。ピアノを入れた事でジャジーな雰囲気を醸し出すことに成功するなど、もう楽器を入れる事でプラスになる事の方が多いような状況になっているようにも思う。アカペラでやれる事は『CIRCLE』までで到達してしまっていて、だからこその方針転換なのかなといった感じもする。
★★★☆☆
4thアルバム『カラーズ』
16th 赤い糸/LIVEラリー
07年10月3日
前作に続く両A面シングル。3作連続で逃していたトップ10に今作で復帰したが、売上は前作より低い。
赤い糸
作詞作曲:市川喜康、編曲:阿部尚徳
前作同様にフルのバンド編成+ストリングス編成。地に足の着いた落ち着いた演奏に確かなメロディーというJ-POPスタンダードなバラードナンバー。SMAPの人気作「オレンジ」を書いた作家というと市川喜康を説明しやすいが、期待通りの良メロバラードだ。「オレンジ」を好きだというリスナーならまず外さないし、RAG FAIRってこういう落ち着いたバラードもやっていたんだと見方が変わるんじゃないかと思う。今作はかなりしっとりとしたバラードなので、サビまではバンドサウンドさえ抑えられていて音数が少なく、土屋以外は最早立っているだけという状態で進行するので、コーラスの出番さえも少なめ(2番以降はバンドインするのでサビ以外でも随所でハモリはある)となってしまっているが、曲が良ければ良し!を地でいくような1曲でもある。加納孝政と奥村政佳の両名が脱退してしまった現在でもサポートバンドがいれば全く違和感なくCDを再現できそうでもある。
★★★★☆
4thアルバム『カラーズ』
LIVEラリー
作詞作曲:引地洋輔、編曲:光田健一
バンド+ブラスサウンドのアップナンバー。チャッカチャッカしたオシャレな演奏と久々にアップテンポな勢いが爽快。3種のサックスとフルートを全部1人で演奏するという人件費削減が取られているが、バンドサウンドに混ざってふりかけ状態とはいえ加納孝政と奥村政佳(おっくん)も一応ある程度なんかやってるなというくらいには聞こえる。アップテンポでも初期のチャラいノリは無くなり、大人のコーラスグループに成長した事が分かる1曲でもある。
★★★★☆
4thアルバム『カラーズ』
17th 早春ラプソディ
08年1月8日
作詞:山田ひろし、作曲:田村直樹、編曲:近田潔人・引地洋輔、Chorus Arrangement:引地洋輔
アルバム『カラーズ』の先行シングルにして、フルバンド編成路線を結果的に締めくくる1曲。前2作同様に今回も落ち着いたバンドサウンドでリズム隊はほぼ聞こえない。PVで見る限りベースボーカル加納はベースラインではなく、みんなと一緒に普通にコーラスパートを歌っているように見えるし、おっくんの口の動きはリズムを刻んでいるようではあるがかなり口の動きは小さい。ほぼ土屋の単独ボーカルに他メンバー全員コーラスという扱いだが、「降りそうな幾億の星の夜」以降、改めてチャラついていない時の土屋ボーカルの良さというのがどんどん磨かれてきたように思う。アカペラグループとしてのRAG FAIRでは全く無くなってしまっているが、演奏・コーラス・メロディーがどれも素晴らしく、『カラーズ』期の金字塔のような傑作。
★★★★★
4thアルバム『カラーズ』
18th Good Good Day!/Let’sハーモニー
08年10月15日
『カラーズ』期は引地洋輔が単独プロデュースを手掛けたが、メジャーでの結果的に最終期となる『Magical Music Train』はデビュー当初からメインボーカルを取る中心的印象が強く、自作曲のA面採用が最も多かった土屋礼央が単独プロデュースを担当。『カラーズ』期は引地以外のメンバーがクレジットされる事が無かったが、この時期は土屋が半数近くの作曲を担当した。
Good Good Day!
作詞作曲:土屋礼央、編曲:ダンス☆マン
久々の土屋楽曲、そして何故か編曲にダンス☆マン。この名前は全盛期モーニング娘。の印象が強いがさすがにあの頃のようなハチャメチャなファンクとかディスコとかごちゃ混ぜの路線ではなく、打ち込みを駆使しながら初期イメージの明るいRAG FAIRを引き戻したような方向性。元々の魅力の1つだった楽しい感じが戻ったというか、たぶんそこが1番の目的だったと思うんだけど、アカペラが戻ったわけでもないので、せっかく大人のコーラスグループ路線を極めてきたのに、原点回帰には中途半端なこのノリはちょっとビミョーではあった。ダンス☆マンに任せるならなんかもっと振り切ってしまった方が良かったような…。商店街をダンスしながら行進していくPVも楽しげではあるけど、土屋以外のメンバーが完全にお付きのダンス要員みたいになってしまっているのはさすがにちょっと。なんか中途半端なアイドル路線みたいになってしまった感じも。
★★★☆☆
5thアルバム『Magical Music Train』
Let’sハーモニー
作詞:引地洋輔、作曲:宮川彬良、編曲:宮川彬良&RAG FAIR
久々にピアノ+アカペラ。リズム隊が加納孝政と奥村政佳(おっくん)のボイスリズムのみで構成されている…が、「Good Good Day!」のノリや今作のタイトルから文字通りに原点回帰にアカペラする楽しい曲かと思いきやまさかのボサノヴァ風味のナンバー。久々の単独での出番なのに今作でのリズム隊はアコースティックスタイルみたいになっているのでかなり控えめ。ボンボンベンベン、ピシパシピシパシと派手に主張するだけがボイベ、ボイパではない、こういう落ち着いたスタイルもやれるんだという事なのかもしれないが…ここは久々に存在感のあるリズム隊が聞きたかった…。
★★★☆☆
5thアルバム『Magical Music Train』
19th メリミー!!
09年6月24日
作詞:山田ひろし、作編曲:酒井ミキオ
当時人気を得ていた男女のお笑いコンビ、フォーリンラブのバービーがジャケ写にドアップで起用されている誰得だ。MVにはフォーリンラブで2人揃って出演していて曲が始まる冒頭部ではネタを披露し本編にも引き続き登場する…と、普通これだけ出ていればフォーリンラブの出ていたPVとして印象に残るはずが、後述の強烈なオチのせいで、最終的に恐ろしく影が薄い。
明るいウェディングソング。完全にアイドルソング風の打ち込みポップになっているが、前作のダンス☆マンに続いて酒井ミキオって全盛期のモーニング娘。に携わったアレンジャーが何故に2連投になったのだろうか。最早アカペラどころかコーラスグループっぽさもあまり無い賑やかな楽曲。ちょっとトホホな感じの歌詞も含めて土屋の明るいボーカルスタイルが久々に聞けるので、前作以上に初期のRAG FAIRらしいイメージも漂う。ただ正直当時迷走感の方が強かったし、結果的にこれが最後のシングルになってしまったのを思うと、とりあえず何か打開しなきゃいけないので色々やっていたものの、グループとして手詰まりだったのかなとも思う。何故かウェディング姿の加藤と土屋が式を挙げるというMVのハチャメチャなオチもこれが最後になってしまったメジャーシングルのPVだと思うとなんともやりきれない。完全に滑って終わってるじゃないか。
★★★☆☆
5thアルバム『Magical Music Train』
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